亡霊の正体見たり世界覇者~超努力厨の俺が死してなお努力を続けた結果、国家転覆級の最強亡霊となる~
海夏世もみじ
第1話 努力厨の俺、死す
この世には、救いようのないゴミがいる。俺だ。
俺こと
その理由は多々あるが、その理由の一つは家族の見殺しだと思う。
幼い頃の俺は無気力に、惰性かつ、胡座をかいて過ごしていた。
そのせいで、家にやってきた強盗がきても何もできず、ただただ押し入れに隠れて何の行動もできなかったんだ。
両親はもちろん、弟に妹、さらには愛犬も一夜で全てが消えた。シャボン玉が割れるよう、呆気なく、一瞬で。
強盗にやってきたのは闇バイトで騙されていたと聞かされたが、だからなんだよゴミ野郎がという話である。
騙されていたのならば人を殺していいのか? 他者の大切な者を奪っていいのか?
だが……俺にも非があった。何も行動せず、目の前で惨殺されてゆく家族を見ていただけの俺もゴミだ。
怖かったら隠れてていい。逃げたっていい。目を逸らしてもいい。
これらの言葉を否定するつもりはない。が、きちんと考えてからそれを受け入れるべきだ。
逃げたらもう、戻らなくなるものもあったのだから。
だから俺は、家族を失った日から、もう誰からも何も奪われぬように……――努力厨になったんだ。
「はぁ……また昔のこと思い出しちまったよ、くそっ」
溜息を吐き、悪態をつく。
いつだって過去の惨劇が目蓋の裏に貼りついていて、電車の中でうたた寝しただけでフラッシュバックしてきた。
両親が殺されてから俺は、遠縁の夫婦に引き取られた。
そこで必死に努力をし、学校のテストでは毎回一位。運動部では県大会まで出場。進路は難関の大学。就職先は市役所職員。
血反吐を吐くくらい、死ぬほどの努力を続けてきた。
順風満帆に見えるだろう。ああ、とっても順調さ。
どれだけ頑張っても、俺を褒めてくれる暖かい家庭は存在しない点を除けばな。
「あっ。そういや今日、商店街の唐揚げセールじゃん」
俺が住んでいる近くにある寂びれた商店街。
近々大きなショッピングモールの建設予定があるから、立ち退きを余儀なきされている店が多数だ。
そこのおばちゃんが売っている唐揚げが昔から好物だが、なくなるのか。
「また、大切なものが消えてくのか……。あ~やめやめ! いつにもまして辛気臭いぞ零太郎! 今日は唐揚げ爆買いパーティーじゃい!!」
心が深海に沈んでゆき、水圧で潰されそうになる。ぶんぶんと首を横に振ってその虚しさを取っ払った。
自宅から最寄りの駅、その一つ前の駅で降り、改札を通り抜ける。
この駅で降りる人は俺のみだ。その理由は単純、ここはほぼゴーストタウンと化しているからである。
この街で新居を建てようとすると事故が多発、体調不良を訴える人が多数、その他諸々……。
不気味に思った住民は立ち去り、人が減ってゆく。新規の住民が来ることなく衰退。
そこで市はショッピングモールで活気を戻そうという魂胆らしい。
まあ、また事故が起こって完全なゴーストタウン待ったなしというのが俺の予想だ。
「お、やってるな。おばちゃん! 唐揚げ百個くれ!」
「あら零ちゃん、よう来たね。またそんなようさん頼んで、もうカラスにあげたらいかんからね。……ちょい待っとれ。作ってくるから」
商店街で細々と店を開けている唐揚げ屋のおばちゃん。
俺の言葉に彼女はやれやれと言わんばかりの溜息を吐いた。だが、その顔はとても嬉しそうだった。
ジワリと、空っぽの心が温まる感覚がする。この感覚もあと数日で消えてしまうんだろう。
俺を引き取ったクソみたいな親戚より、よっぽど俺を育て、愛情を注いでくれた大切な人だ。
店がなくなってほしくないが、時間は止まっちゃくれない。
朱色の空を眺めながらベンチに座り、黄昏る。
そんな時、どこか遠くから女の子の泣き声が聞こえてきた。
「迷子か? おばちゃん、俺ちょっと見てくるよ」
「あいよ、気を付けるんだよ。最近ここらで〝神隠し〟が頻発しとるらしいから」
「神隠し? 幽霊の仕業とか言いたいのか? ないない! しかも俺鍛えてっから
「はいはい。唐揚げ作って待っとるでな。行ってらっしゃい」
俺が唐揚げ屋を後にし、細い路地裏を通り抜け、寂びた通りを抜けた先にその女の子はいた。
そこには既に俺以外の大人の男性がその子の側にいたのだが、子供の様子がおかしい。
「ひっ、ひっ……!?」
まるでバケモノでも見ているかのように、その子の顔は歪んで、叫び声が喉で詰まっている様子だった。
俺は考えるよりも先に駆け出し、手を伸ばす謎の男を横目に子供を抱きかかえて奪取する。
「はぁ、はぁ! 君、大丈夫か!?」
「え、あぅ、あ、うん……」
「伊達に高校の時、短距離走の世界記録塗り替えてないんでな……!」
と、そんな自慢をしている場合ではない。何者なんだ、この男は。
俺が睨みを利かせてその男の方へと顔を向ける。しかし次の瞬間、俺は呼吸の仕方を忘れた。
「ぇ……は……?」
『あれェ~? 邪魔されちゃったッたったタタたた! ははああははあははは!!』
「ば、バケモノ……!」
その男は、口が三日月のように曲がっていた。
それだけではなく、顔が渦を巻いて歪んでいる。ブラックホールのように吸い込まれそうな、人ではない顔面だった。
俺の本能が警鐘を鳴らしている。直感が言っている。
こいつは、人間じゃない!!
「君! 今すぐ逃げて! 近くの唐揚げ屋に人がいるから通報頼んで!!」
「っ……っ……!」
子供は恐怖で声が出せずとも涙をぐっと堪え、コクコクと強く頷いて走り出した。
ここで俺がなんとかするしかない。俺が、俺が――!
「――あ、れ……?」
なんだこれ。胸になんか刺さってやがる。
アイツの……腕? 伸びてる。蔓みたいに……。
槍みたいに貫かれて、口から血反吐を吐いた。
「ゲホッ! ガハッ!!」
『あぁあああああっはっはっはっは! オマエ、オマエ、殺るつもりなかったけど、邪魔した! 殺した! だから!!』
いっ………………………ってぇえええええええ!!!?!?
やばいやばいやばいやばい!!
死ぬ。心臓、これっ貫かれてっ……これ、もう助からな……。
なんで、なんでなんでなんでなんでなんで! どんなけ努力してきたと思ってんだよバケモノが!!
呆気なさすぎんだろ……っ!!
(嫌だ……死にたくない……! 俺の人生、なんなんだったんだよ……!!)
辛苦に彩られた人生。
納得のいくことは何も成せず、空虚感を抱えたままの人生。
俺の人生の意味は! 意義は!? 嫌だ、やだやだ……やだよぉ……。
ドサッと地面に倒れ、寒さが俺を襲う。
元から空っぽな胸が、今では物理的に空っぽだ。
最後に目から零れる涙を流しながら、俺は意識を手放した。
# # # # #
――……目が覚めた。
(……あれ、俺――)
何をしてたっけ。
刹那の逡巡の末、俺は瞠目させて自分の胸を押さえる。
(ッ! む、胸! 心臓……あれ、塞がってる……)
自分の胸を確認してみると穴は開いておらず、俺の制服にも穴は開いていない。
……あれ、俺、仕事帰りでスーツだったよな? なんで、高校の時の制服着てるんだ……?
猛烈な違和感が俺を襲う。
なんで制服姿なんだ。なんで生きてるんだ。なんで立った状態で目が覚めた。
なんで、まだ
俺は病院に搬送されておらず、まだ商店街にいたのだ。
辺りは靄がかかったようにだが妙に明るい。夜ではなさそうだ。
「ふぃ~~、寒い寒い。朝っぱらから見回りとか面倒だなぁ……」
頭の上に大量の
恰好からして工事のための従業員っぽい。俺はその人に近づき、声をかける。
『あの、すみません! ちょっと聞きたいことが――』
「こんな早朝に誰もいないだろうに。現に、人っ子一人いないし」
『…………は?』
――すり抜けた。
素通りされたんじゃない。文字通り、俺が初めから存在していないように、身体がすり抜けて作業員が通過した。
『え、いやいやいや……ちょっと待ってくれ。こういうのって大抵転生だろ? ラノベで読んだ、ってか書いてたんだぜ? 俺……』
ダラダラと汗が出始める感覚がしたが、実際には流れていない。
どうやら俺はあの時バケモノに遭遇し、死亡。
そして俺は、
『俺、幽霊になったのかよ!?!?』
異世界転生なんてせず、そのまま幽霊になってしまったようだ。
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