微睡む世界とスニーカー

水澄

第1話 目覚めの渚

 寝ている状態から起きることを目が覚めるというけれど、ならば具体的に、どこからを目が覚めているというのだろう。


 例えば、時折こんなことがある。夜中にふと何かが聞こえた気がして、パッと意識が夢から覚める瞬間がある。それにもかかわらず私の瞼は閉じたままで、指先一つ動かない。それでも確かに音だけは聞こえていて、そうして何もできないままに意識は再び眠りに落ちていく。


 反対に、しっかりと瞼も開き、体もベッドから起き上がっているというのに、音は地下室にでもいるかのようにぐわんぐわんと反響し、意識もまるで目が回った時のようにぐるぐると定まらない。


 こんな時、果たして私は目が覚めていると言えるのだろうか? とはいえ、こうしてその瞬間を覚えているのだから、きっとそれは睡眠中に見る夢とも違うはずだ。

 ならば、あの瞬間は何なのだろう?

 睡眠と覚醒の狭間にある、お互いが不安定に混じり合う汽水域のような目覚めの渚。寝ているのに起きていて、起きているのに眠っている。その見えているのに掴めない刹那の瞬間は、最初から掴めないとわかっている夢よりもずっと魅力的に思えてしまう。


 あの瞬間が、もっと長く続いたならば――それが微睡みである以上、そんなことはあり得ない。それでもしかし、あり得ないからこそ、あって欲しいと願わずにはいられない。そうして、あり得た暁にはきっと私の稚拙な想像なんかじゃ及びもつかないようなことが起きるに違いない。


 だから、私は今日も目を閉じる。


 次の瞬間には、目覚めとも眠りとも違う微睡みが訪れると信じて。

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