この物語はフィクションです
大いなる凡人
第1話
『事実は小説より奇なり』
という言葉がある。
実際に起きる出来事は、フィクションで構成される小説よりも遙かに複雑で波乱に富んでいるという事を示唆した、英国の詩人・バイロンの「ドン・ジュアン」にある言葉である。
つまり現実に起きる出来事の方が、小説よりもよっぽどエキサイティングで人々の関心を惹き付けるエンターテイメントになり得るという事だ。 まして――、僕のような凡庸な想像力を紡いで作り出した物語なんかと比較すれば尚の事・・・・・・。
端的に、僕には想像力というものがない。
小説家を目指す者としてその大いなる欠点を告白するのは非常に勇気が入り、恥ずかしい限りなのだけど、でも事実を認め、改めるところに人の成長がある。
そんな僕だが、今まであらゆる新人賞に作品を応募してきた。けれども、そのどれもが一次や二次落ちで、送られてきた評価シートには忌憚のない意見が綴られ、僕の心を粉々にしてきた。審査結果を見る度に大がかりなメンタルの修復作業に取り掛からねばならず、それは少なくとも一ヶ月は休息を挟まなければならないほどだった。
けれどもなんとか気持ちを立て直して次回作を書いて応募すると、それもまた落選。落選、落選。落選落選落選。
この世に神も仏もいやしない!
しかし、これが現実だ。
それにたとえ、この世に神がいたとしても、神の御心によって小説家になれたって、自分の実力で掴まなければ意味がない。けれど、神に縋りたくなるほど僕には才能はない。どれだけ書いても落選の山を築くだけ。
凡庸な僕の書く物語は、読者には退屈なのだ。退屈は人を殺す。僕は前科何犯なのだろうか。
だがもし、事実は小説よりも奇なり、なのだとしたら――。
ふとそこで、僕に一つのアイデアが閃いた。
勿体ぶるつもりはない。単純な話。 現実に起きた出来事を文字に書き起こせば面白い小説が出来るのでは?
いや、それは小説ではなくてエッセイなのだけど、相手がそれを小説と思えばそれは小説だ。暴論。
ともあれ、やってみる価値はあるのでは? どの道、ない頭を捻ってもいい話は出てこないんだし、いっその事、僕が自分の足で稼いだ経験を元に物語を構成すれば、幾分か面白い作品が出来上がるのではないか。 言うが早いか。
僕は、日記帳に日々の記録を付ける事にした。
赤裸々に、僕の全てを一冊の本にするのだ。まさしく、この身を捧げる。全身全霊をかけて。
ここから、僕の物語が始まる。
今に見ていろ、僕を蹴落としてきた電撃、角川スニーカー、Mf、GA、ガガガ文庫たちよ。
僕はこの身を投じ、新人賞に乗り込んでやる!
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