第6話 狙え!

 緑の炎が素早く振り回され、稲妻のようにアーマー・ゴーレムを打つ。

 蹴りを受けてもよろめいただけのアーマー・ゴーレムも秘術の助力を受けた剣を受け、ギシギシとその身を悶えさせた。

 いや、ゴーレムに痛覚は無いだろう。ショートの見立てでは、崩れたバランスを取り戻すための防御機能にすぎないだろうとした。


「ギギ・・・」

「旦那、さすが!」

「余計な口を聞くと危ないぞ」


 兜が動いて、ゴーレムの注意がグラスへ向きそうになる。

 ヒッと言って、グラスは身じろぎしたが、次の瞬間、またアーマー・ゴーレムの身体についた光の文様がパッとひらめいて、ゴーレムに傷をつける。


「まあ、魔剣士の印を受けてよそ見しようというのが誤りなんだがな」


 ゴーレムは再び大剣を構えると、突き出すようにショートを狙ってくる。鋭い突きが繰り出される。普通の人間であれば、慣れないものであればそうだろうし、初学の使い手でも切っ先にブレが起きるものだ。しかし、相手は古代メドリア期に作成されたと思われるゴーレム。古代魔法文明華やかなりしときの構築物だ。振るう大剣に迷いは無く、その切っ先は音の速さも超えるかと思われるほどである。


 しかし、魔剣士は飛んでくる蝶を避けるかのように軽くいなした。突きの動きを見るや、自身の長剣を合わせ、自分の脇へと逸らせる。


「このまま、粉微塵にするまで斬りつけないといけないか?」


 ショートは虚空に尋ねるように言う。

 しかし、その声に応えたのは彼の背中にぶら下がっていた生首の姫君である。


「簡単に終わらせられると思うのはひどく手抜きだと思うよー」

「一人で始終抑えきれるもんか」

「胴鎧の背中側に魔力の集中しているところがある、そこを破壊すればゴーレムとしては機能停止するー」


 ショートは大剣をいなしながらブランチの説明を聞く。そして、ひとつため息をついた。


「ほとんど最後まで斬りつけるのと変わらないじゃないか」

「だから手抜きはだめなんだよー」


 考えてみれば、正面から向き合っているときに一番守られているのは背中だ。

 だからこそ、背中合わせになって防御を行ったりするわけで……。


「しかたない……か?」


 剣を振って、籠手やら、すね当てにダメージを入れているとき、アーマー・ゴーレムの後ろをふと見ると、そこにいたのはグラスだった。

 注意はこちらに向いているし、グラスがゴーレムに隣接してくれているおかげで戦況はショートたちに有利に働いていた。


 しかし、ここでもうひと働きしてもらうか。ショートは考える。


 振り出された大剣をショートの長剣が絡め取り、地面の側へ押さえつける。その体勢になるや否や、ショートはグラスへ向けて叫んだ。


「ゴーレムの背中だ!怪しい部分があればそこを狙え!」


 突然、叫ばれてグラスは目を白黒させた。


「ね、狙えって!」

「なんか、あるだろ、模様とか、光ってるとか」

「そんなわかりやすい弱点、つくらないと思うよー」

「いいから、背中側を攻撃しろ!」


 ぎゃあぎゃあと喧嘩するようなやりとりのあと、グラスはゴクリとツバを飲み込むと、腰からダガーを引き抜いた。


「背中ったって……」


 ゴーレムは恐ろしい。

 しかし、今はショートがゴーレムの大剣を抑え込んでいる。逆に今しかチャンスはない。


「知りませんよ!」


 グラスのダガーが突き出され、ガツリと胴鎧にぶつかる。

 鎧にあんなちっぽけな短剣が役に立つものか。

 しかし。

 しかしだ。

 鋭く突き出された短剣が、パッと輝くと、バターを切り裂くようにアーマー・ゴーレムの同鎧を切り裂いた。


「ーーーーーー!!」


 アーマー・ゴーレムは、短剣を受けると、音声にならない叫びをあげ、腕を振り上げて天をかきむしると、どうと倒れ付した。

 そして、威丈夫のように集まっていた鎧は、中身がなくなったようにバラバラになったのである。


「<インプルーブ・ウェポン>か」

「まあねー」


 魔剣士ショートはその長剣を鞘へ収め、腰を抜かしているグラスのもとへ向かう。

 古代メドリア期に作られた一種の工芸品でもあった防衛者は、このように倒されたのである。


「お、オイラのダガーが……」

「見ていたぞ、助かった」


 グラスを助け起こして、ショートは辺りを伺う。もうこれ以上のしかけはこの部屋には無いようだった。

 奥の扉の前まで移動して、扉の様子をショートが観察する。


「あるとしたら、この中だな」

「ちょっと休ませてくださいよ」


 グラスが肩で息をしている。あの緊張感の中にいたのだ、無理もない話ではあった。

 しかし……。


「防衛機構が普通じゃない状態で止まったとして、そのまま普通に奥に通してもらえるかはわからない。さっさと行かないと危ないぞ」


 ショートの言うとおり、正規の手続きで入ってきたのではないものに対しては、容赦ないことが多い。特に人造のダンジョンはそうだ。


「脅かさないでくださいよ。ん、この中には生物はいませんや」

「脅しじゃない。さあ行くぞ」


 扉の鍵をグラスが開けると、ショートはぐっと扉を開けた。

 中で待ち構えていたのは、石造りの台座と、その上にある、透き通った丸い玉であった。

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