第42話 きちんとワカラセてやれ
「ええ、終わりました母さん。予定通りのポイントに捕虜を集めてます。使用した銃器類も一緒に集めてます」
『作戦行動中だぞ。母さんではなく、橘
「は、はい! 申し訳ありません橘真紀奈司令……」
俺は、通話相手の母さんには見えていないのに、無線機を片手にペコペコと頭を下げた。
橘知己としての本能みたいなもので、つい前世のリーマンばりに謝ってしまう。
そして、今になってようやく知ることになった母さんの下の名前。
まさか本人に聞くわけに行かなかったから、助かったぜ。
そっすよね。
同じ橘ですから、フルネームじゃないと、作戦行動中に混乱させちゃいますもんね。
『トラッキングシステムを使った自動狙撃システムは、遠隔の電気式トリガーでも無事に稼働したようだな。いい実戦での試用機会となったな」
「きょ、恐縮です司令……」
『褒めたのは兵装についてだ。お前ではない。自惚れるな』
「はっ! 失礼しました!」
いや、あの自動狙撃のためのプログラム組んだり現場の測量とか、めっちゃ大変だったんだからな!
前世の俺は、弾道学や狙撃術なんて当然履修してない訳だが、なぜか器具を目の前にしたら手はちゃんと動いたし。
手に職ってこういう事を言うのか?
『では、後ほど現地報告書を提出すること。現地離脱して良し』
「ハッ! 失礼します!」
ペコペコしつつ無線機のスイッチを切ろうとするが。
『ああ、それと』
まだ何かあるんかい!
『それと、露払いはしておく。我ら橘家の事をきちんと寝室家に
「……了解」
そう言うと、今度こそ母さんからの通信は切れた。
「フーッ……。とりあえずは終わったな……」
なんか、ミッションよりも母さんへの報告連絡の方が緊張した……。
しかし、母さんって組織内で結構偉い人なんだな。
何の組織か全然分からんけど。
「さて。じゃあ、母さんのオーダーだし、後始末はきちんとしましょうかね」
そう言って俺は、作戦行動中は脱いでいた制服の上着を羽織ると、光の方向へ向かって歩き出した。
◇◇◇◆◇◇◇
【3組学級委員長 荒崎麻衣─視点】
1年2組と3組のクラス入れ替え戦を明日に控え、慌ただしく準備が進められている。
メインステージの設営中の芝の広場で作業員の方たちが忙しく動いている中、当事者として最も忙しくしていなくてはならないはずの3組学級委員長の私は、こうして準備で忙しくしている人たちをボンヤリと芝生の上で座って眺めている。
「おーおー。準備、ご苦労さんって感じだな」
そんな私の隣には、この世界では貴重な男子であり、今回のクラス入れ替え戦の主役の一人である虎嶺が、嫌らしい笑みで私に話しかけてくる。
この男女比が1:99という男子が貴重な世界では、こうして青空の下、男子と2人で並んで芝生の上に座っている今の私の現況は、他の女の子からしたら
だが、当の私はちっとも幸福ではなかった。
裕福な名家の娘として生まれて、同じく名家の男子と婚約する。
女の子がおとぎ話や小説の世界で夢見るままの境遇の私が、その環境を儚んでいるなんて周りの女子が知ったら、きっと私はグーで殴られる。
───いや……。でも、今更……。
既に壊れてしまったクラス内での信頼関係。
学級委員長である私と3組女子との関係
虎嶺とクラスの女子たちとの関係
「明日は、全ての準備が無駄になるって言うのにご苦労なこったな」
そして、隣で下卑た笑みを浮かべる虎嶺と、私との関係……。
───全てが壊れている。
1組の学級委員長である、あやみと愚痴を吐き合う事で、少しだけ胸は軽くなった。
あんなに初対面から心が通ったのは初めてだった。
でも、それでも……。
全てを彼女に話すことは出来なかった。
「明日が楽しみで仕方がないな。クラスの男子を失った2組の女子たちの絶望顔と、俺を裏切ってまで2組に挑んだのに、賞品が無しになる3組の女子たちの放心顔がな」
卑劣な手を使って勝つ名家の闇。
その醜悪さと、それに傍観し加担するしかない自分のことを。
せっかく、あやみという親友と呼べる人を見つけられたのに……。
その親友を引き合わせてくれた恩がある男が葬られるのを見ていることしか出来なくて……。
そんな後ろ暗さを背負って、穢れた私はあやみと今後も向き合っていけるのだろうか?
そんな事をボンヤリと考えていた。
だからだろう。
私は気づかなかった。
「はい、どっこいしょ~!」
「んなっ⁉」
私の目の前で、突如として現れた男の子が虎嶺の足元に地を這うタックルで組み付いたかと思うと、そのまま彼をリフトした。
空中に放り投げられ、自由落下をはじめる直前の虎嶺と一瞬目が合った。
その顔は、驚愕にそまっていた。
「かっは……」
そのまま物理法則に従い地面におちた虎嶺は背中から着地した。
もし下が硬いアスファルトであれば下手すれば大けがだが、柔らかい芝生の上であったことで、命が危ない様子ではないようだ。
しかし、背中から自分の体重分の落下衝撃を受けた虎嶺は、呼吸が出来ずに苦しみ悶えて地面にうずくまっている。
「虎嶺!」
「動くな。動いたらこいつの生殖器を潰す」
慌てて虎嶺に駆け寄ろうとしたところで止められる。
彼は、まるでレジャーシートに腰を落ち着けるように、虎嶺のお腹の上に座っていた。
その彼の右の足は、虎嶺の股間を踏みつけるような位置にあった。
「こ……はっ……」
背中を強打したことにより息が出来ない虎嶺は、ろくに抵抗出来ずに呻いているだけで、自力脱出は難しそうだった。
「何の真似ですか橘氏……」
完全に虎嶺を人質に取られた私は、不敵に笑う、もう一人の明日の主役。
2組男子の橘知己氏に尋ねることしか出来なかった。
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次回、ワカラセで~す。
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