第37話 イレギュラーな存在や熱狂って?

「結構、時間くっちまったな」


 今日は早めに登校したけど、江奈さんが泣き出してしまう一件により、結局はいつもの登校時間と大して変わらない時間に下駄箱へ到着することになってしまった。


 とはいえ、まだ朝のチャイムまでは大分余裕がある時間なので、下駄箱あたりにいる生徒の数はまばらだ。


「おはようございます橘氏」

「おわっ⁉ って、荒崎さんか。おはよう」


 急に陰から声をかけられてビックリした。

 相変わらず無表情で何を考えているのか分からない。


「この間はどうも……」

「この間? ああ、虎嶺……くんとの事か」


 自分が学級委員長を務めるクラスの男子生徒と小競り合いになった張本人に、こうして動じずに話しかけてくるのは、中々に肝が据わった子である。


 荒崎さんはゲームのネームドキャラどころか存在すら語られていないキャラだが、結構独特でキャラが立った子だな。


「……先に謝らせて欲しい。おそらく、寝室家が貴方を害する行動をとると思われる。ゴメンなさい」


 そう言って、荒崎さんは腰を深く折って礼をする。

 後頭部を無防備に晒すその行為は、変わりに咎を受けるとでも言わんばかりだった。


「ああ、その事か。知ってるよ」


 なんか、私設武装組織まで送り込んでくるみたいだよ。

 とは、さすがにこの場では言えないけど。


 しかし、なんだろう?


 荒崎さんは虎嶺の幼馴染で婚約者ポジションの子みたいだけど、俺にそんな内部情報を漏らしてもいいのだろうか?


「そう……。貴方は変わった男の人」

「君も大概だと思うけどね」


 他の女の子は、割と分かりやすいんだけどな。


 男に話しかけられたら大抵の女の子は喜ぶ様から分かるように男の子が大好き。この共学校のハニ学に居る女子は大半がこのパターンで2組の女子はこんな感じだ。


 そして極まれにだが、森戸副会長みたいに男が嫌いって女の人のパターンもある。

 けれど、荒崎さんはどちらのパターンにも当てはまらない。


「別に私は変人じゃない。ただ感情が平坦なだけ」

「それは、寝室虎嶺という婚約者が居る余裕から?」


「余裕じゃない……。ただ、私は自分の人生を生きている実感が無いだけ」

「自分の人生ね……」


 まぁ、君たちゲームのキャラだし……なんて言うのは無粋だよな。


「私の家は寝室家とは実家の事業の関係で懇意にしている。おそらくこの学校を卒業する頃には正式に結婚する事になる」


「それなら、なんで虎嶺は共学校に来たの?」


 婚約者が居るなら、男の虎嶺はわざわざ共学校に来る必要なんてない。

 この世界では男には婚姻の義務があるが、それを果たす目途も意志もあるのに、なぜわざわざ。


「第二、第三夫人候補を探すため。それに、彼は女性にちやほやされる事自体は嫌いじゃない。ただ、女の子の扱いが粗暴なので、私がそのフォローをする必要がある。今まで私がどれだけ……」


 なるほどな……。

 吐き捨てるようにこぼす荒崎さんの愚痴から、今までの苦労が偲ばれる。


 どうやら、荒崎さんの家もそれなりの名家らしく、寝室家との婚約は確定路線の様子。

 当たり前のように出てきたが、一夫多妻がOKなこの世界においては、第二夫人、第三夫人の地位でも十分に女の子にとっては魅力的だ。


 だが、それだけに、3組の女子たちがこんな1年生の4月という早期に虎嶺をクラスの男子として見限った理屈が立たない。


 なぜ、そこまで団結できたんだ?


「私が初手をしくじった……。虎嶺の正妻として、第二、第三夫人候補を提案する形が、クラスの女子たちの怒りを買った……。彼女たちは、現れたイレギュラーな存在に一瞬で心を奪われ、熱狂に支配された」


「イレギュラーな存在や熱狂って?」

「貴方の事だ、橘知己」


 え、俺?


「3組の子たちは、どう足掻いても自分たちは第二、第三夫人候補にしかなれない現実を突きつけられた中、隣のクラスの2組の女子は、女の理想がつまった宝物のような男とよろしくやっている。そして、自分たちはその宝物を奪うために挑む権利があると気づいたら、彼女たちはもう止まらなかった」


「いや、そんな、戦争に突き進む世論に押し切られて開戦するしかなかった政治家みたいな悲痛な顔をしなくても……」


 とは言え、よく考えたら1組の江奈さんもクラス運営には苦労してメンタルブレイク寸前だったもんな。

 この学校で男子生徒のごく近くで世話をするというのも、同性からのやっかみとかが大変なんだな。


 となると、俺みたいに博愛主義で、あらゆる女の子に優しくしていたのは間違いではなかったんだな、うん。


 ……すんません。

 ただ、ハニ学のゲームの世界に来れた喜びではしゃいでただけです、はい。


「それより尚悪い。私は婚約者として虎嶺の傍を離れられないので同じクラスに居る必要があるから、クラス入れ替え戦で2組に勝ってしまうと正直マズい……。実家からもそこは念を押されている……。だが、かといってクラス対抗戦にわざと負けて3組残留となっても、クラスの他の女子との関係は決定的に壊れる。そして、虎嶺は自分のプライドのために勝手に動く……。どちらにせよ、詰んでいる……」


「うわぁ……」


 ハイライトの消えた目で絶望顔の荒崎さんに、俺は思わず絶句してしまう。


 これは、あれだ。

 中間管理職で、上から無茶な指示を受けつつ、下からも突き上げを食らって過大なストレスがかかっておかしくなっちゃうパターンだ。


 中間管理職が罰ゲームと言われる所以である。


「つい、愚痴をこぼし過ぎた……。クラス対抗戦の相手である貴方に言うべきことではなかった……。それでは」


 そう言って再度ペコリと頭を下げて踵を返す荒崎さん。

 その背中は、小さくて細くて、今にも折れてしまいそうで……。


 この子が無表情で無感情なのが分かった。


 各方面から怒られ過ぎて心が動かないように、自己防衛しているのだ。

 そうしないと心が壊れてしまうから。


 こんな、まだ高校生になったばかりの女の子に背負わせるには、あんまりな重荷だ。

 そんな事を強いるのは、この歪な男女比1:99の貞操逆転世界での社会の闇と言ってもいい。


 このまま荒崎さんを放っておくなんて出来ない。


 だが絶賛、クラス入れ替え戦を戦う相手である3組の代表である荒崎さんに対し、2組の俺が表立って手を差し伸べるというのもな……。


 あ、そうだ!


「荒崎さん、ちょっと待って! 紹介したい人がいるんだけど!」


「……紹介したい人?」


 呼び止められ訝し気な顔をして振り返る荒崎さん。


 その顔は相変わらず無表情で、その表情からは彼女の心の内は推し量れなかったが、俺は彼女に表情を取り戻すために、お節介を焼くことに決めたのであった。





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