第五話『二つの跳び箱を探せ(2)』

「まず安村さん――体育館用具の使用に関して詳しく聞きたいのだが……すまない、運動部についての知識が薄いもので」

「あっはいっ!体育館管理を担当している《松下先生》に書類を出せば借りれます!」

 3年生の、しかも部長である安村先輩を前に堂々と話す恋翔坂に先輩も少しぎこちなかった。

 彼女のカリスマ性はこの世のものとは思えないほどだ。

「松下先生が、そういえば跳び箱無くなったなぁとボヤいてまして……心配だなぁと、思い立ったらすぐ行動というわけで、今日ちょうど目安場に……」

 特に問題はないのだが、同日にされた相談に答えることになってしまったみたいである。

 

 《質疑応答》

 

「うむ……」

 恋翔坂は片手を顎下につけて少し思考する。

「安村さん、部活に戻ってくれ――もう大丈夫だ。我々生徒会の力ならば容易い」

「ありがとうございます、では失礼します」

 そう言って安村先輩は体育館倉庫から去った。

 

「こんなうるさい場所で恐縮なのだが、少し《会議》をしようではないか。」

 バスケットボールやバレーボールの跳ねる音、卓球の打球音、《うるさい場所》と表現するには少し過激すぎるような気もした。

 机も椅子もなく、4人で向い立つ形になった。

「私に謎解きの心得はないのだが、こういう時は可能性について考えるべきだと思うのだよ――どんな可能性があり、どれだけそれがあり得るのかをね」

 当たり前のように見えて、とても大事なことである。

 どれだけ論理に基づいた話だとしても、動機がなければ事件は起こらない、解決もできないのだ。

 

 念頭として2つの跳び箱がどこかへ消えてしまったのは2日前の出来事なんだとか――そして、現状で跳び箱を使用している部活動は特にない。

 基本的に用具の無断持ち出しは禁止で、部活動の時間を除けば鍵がかかっているのである。

 普段は2つ並べてすでに重なった状態のまま置かれているんだとか。

 我が高校の体育は様々な単元を行うため、室内運動は1クラスを三つに分けての選択授業なのだ。1クラスが大体36人ほどなので、12人ずつになる。

 マット運動に跳び箱――それにダンスと、絶妙にやる気にならないようなラインナップだ。

 マットは長いのを《3枚ほど》使っているらしい。

 なので、跳び箱が2つしかないのも理にかなっているのだ。

 それ故に、倉庫に入っている用具も多彩である――何に使うか検討がつかないようなものもあるくらいだ。


「……いや、会議の必要はないな。なるほど」

 謎解きタイムかと思われたが、恋翔坂と東山先輩は、何かを理解したかのような笑みを浮かべた。

 焦ったわけじゃないが、周りをキョロキョロと見回してみる――なんだ?この……違和感。

 

 バスケットボール……今ははない。

 バレーボール……も使われているからない。

 サッカーボール、ドッチボール、ソフトボールはあるようだ。

 あいにく今日は雨だからな――外部活はないようだ。


 《そして、マットが6枚まとめて》

 

 ボール用の空気入れであろうもの、そしてネット類もないみたいだ――卓球台やシャトル的なものもなさそう。

 

 にしても、審判台などもあるのがこの高校のすごいところである。


 竹馬、一輪車、縄跳び、《マットが6枚まとめて》、ゼッケンにコーン、鉄棒、平均台、救急セット、ラケット類、支柱にポール。

 

 ……あれ?マットが合計で12枚あるぞ。

 

「――そういうことか」

「なんだ黒川くん!君も察したみたいだね」

「素晴らしいです!さすが私の後輩」


 そう褒められたのだが、赤草だけはいまだにぽかんとしたままだった。

「赤草、《マットの数》を見ろ」

「マット………………あぁ!なるほどね!」

 彼女も彼女でずいぶん察しがいいんだな。


 さて――《結論》を話そう。

「跳び箱は、無くなったのは学校の意向ということで間違いないんでしょうか?」

「正解だ!黒川くん!まぁ、まだそうとは決まってないけどね」

 この高校の体育の授業は多種多様であり、その分使う道具も単元も多いのである。

 跳び箱がなくなりマットが増えていた――つまり……。

「今年から跳び箱の授業はなくなってったってことですね」

 東山先輩は説明する。

 全く――《灯台下暗し》もいいところだ。


 いや、意味が違うか。


 《後日談である》

「そうだったみたいなんですよ……松下先生のボヤキを聞いて私が勘違いしてまっていたので……」

 その予想通り、安村先輩の勘違いだった。

 そして――その時に返した恋翔坂の言葉は、校内の《名言》として刻まれたのである。

 バカバカしいぜ全く。

 《その人がそう言うから輝いているように見える》――そんな名言を俺は嫌いだ。

「私の性格がもたらしてしまった出来事です……なんの問題も起こってなかったのに……もう少し考えて行動していれば」

「いや、安村さんがそれで少しでも不安になっていたのであれば、我々の動くべき事件なのだ。《謎を解くためだけの探偵》は良い探偵とはいえない――《それで救われる人が存在するから謎を解き明かす》……それと同じようなことだよ」

 それが的を得た発言なのかそうではないのか、俺には判断がつかないのだけれど、恋翔坂京子という人間が、とてつもなく熱い心を持つ女性であることは確かであった。


 さて――こちらの話に戻ろうじゃないか。こちらもそちらもクソもないのだが、学校の問題より遥かに大切なことがあるのである。

 

「どうするつもりだよ――赤草レン」


 俺と赤草レンという彼女がするべきこと――それは《作戦会議》であった。

 『恋愛作戦会議』であった。


【あと⤴︎がき⤵︎】

レッツゴーどんまちです〜!

今回も読んでくれてありがとねーっ!

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以上!三流小説家のどんまちでした!

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