第20話 ピンチ
小説をコンテストに出す事を橘さんに勧められて、びっくりして、でもやってみたくて、それから暫く寝る間も惜しんで色々小説のネタを調べていた矢先……
上長に呼び出された。
「神谷、お前の作った資料に重大なミスがあった。直ぐに橘さんに報告しないといけない」
「え……?」
私は急いで資料を確認した。
見積書の金額が…1桁多い。
血の気が引いた。
「神谷、これは大問題だぞ。すでに橘さんの会社に送付済みだ」
「申し訳ありません!すぐに訂正します!」
「いや、もう遅い。先方から『金額が異常に高い』と連絡が来ている。今すぐ橘さんに謝罪しろ」
私は震える手で電話をかけた。
『はい、橘です』
「あの…神谷です。重要な件で…」
『どうした?』
「見積書に重大なミスがありました。金額を間違えて…」
橘さんは暫く何も言わなかった。
『…今からこっちに来れるか?』
「え…?橘さんの会社ですか…?」
『来たことないだろ。今後の為に、挨拶代わりに来い』
その後電話が切れてしまった。
ミスして迷惑かけたのに橘さんの会社に行く…?
怖すぎる……
仕方なく、準備をして橘さんの会社に行った。
そして──
初めて来た、長島商事。
都会の超層ビルの中にある。
さすが大手企業……エントランスから高級感が溢れている。
緊張しながら、会社のフロアまでエレベーターで上がり、受付に行った。
着いたら既に橘さんが受付近くに立っていた。
「神谷さんお疲れ様」
他所行きの橘さんの笑顔。
その後、小さな打ち合わせ部屋に連れて行かれた。
「橘さん、あの、この度は大変ご迷惑おかけして、申し訳ありませんでした!」
私は精一杯謝罪した。
橘さんは特に表情を変えず椅子に座った。
「コンテストの事で頭いっぱいなんだろ?」
バレていた……。
「申し訳ありません……」
情けない。
「仕事に支障出るのはまずいな…」
橘さんは悩んでいた。
「コンテストについては、色々あるし、そんなに焦るな。仕事の方に集中しろ」
「はい……」
仕事に支障きたすなんて、こんなんじゃダメだ……。
仕事と夢の両立は難しい。
「飯食いに行くか」
「え……私、これだけでいいんですか今日」
「俺がなんとかしたから大丈夫。……ただ、また同じような事があったら、あまり庇いきれない」
二度と同じことは起こさないと肝に銘じた。
その後、橘さんが一旦デスクに行った。
その様子を遠くから見てみると──
割と美人な女性社員が多い。
え、何これ……橘さんのハーレム……?
こんな状況で仕事してるなんて知らなかった。
やばい……私なんて小説の事なかったら見向きもされなかっただろうな……。
自分の容姿なんて大して気にもしてなかった。
仕事も……女としてもしっかりしないと……。
橘さんが戻ってきた。
「なんでそんなに深刻そうな顔してるんだよ。さっきより酷い」
「え!そうですか!?」
その後ビルの近くのレストランに行った。
「橘さん、なんで私を今日ここに呼んだんですか…?」
「俺が仕事してるの見たら、やる気でると思った……のと、美鈴の気分転換」
優しい……
「そういえば…なんであんな青春小説書いた?」
橘さんにダメ出しされたやつの事か……。
「試しに書いてみたかったんです!」
「怪しい……」
何が……!?
でも正直三浦さんの影響はある。
「色んなストーリーにチャレンジしてみたかったんです」
「……じゃあ今度映画連れてくよ」
「え、何のですか?」
「有名な小説が原作のやつ」
気になる!!
「あ、調べて原作先に読むのはダメ」
「う……わかりました……」
結局トラブルは橘さんが丸く収め、私は事なきを得て、なんとかまた今の担当のまま仕事を続けられそうで一安心だった。
◇ ◇ ◇
──土曜日
今日は橘さんと約束した映画に行く日。
とても楽しみにしていた。
ただ、私達が休みの日に一緒にいるのを会社の人に見られるのが怖いから、普段とは違う雰囲気のファッションにした。
「橘さん……先に映画館行っててください。あとで追いつきますから」
「は?なんで一緒に歩いたらダメなんだよ」
私たちは玄関で押し問答していた。
「うちの会社の後輩に勘づかれてます……」
「なんで俺たちの事がそいつにわかるんだよ」
「わかりません……」
どちらも引かず……
結局橘さんが折れて先に行った。
この関係がバレたらお互い仕事に支障でちゃうから、仕方ない……。
その後急いで橘さんを追いかけた。
「お待たせしましたー!!」
私は全力で走って追いついた。
「お前足速いな……」
「元バスケ部のマネージャーですので!」
「マネージャーな…」
その後上映シアターに行って、パンフレットを読んでいた。
そしたら直ぐに上映時間になった。
今回見る作品は、行方不明になった母親を探す高校生の女の子のストーリーだった。
徐々に暴かれる母親の過去、女の子の出生の秘密……
序盤はミステリー風で、だんだんと、切ないヒューマンドラマになっていく。
その結末に私は感動して、エンドロールの最後の最後まで座って余韻を噛み締めていた。
「素敵な作品でした……」
シアターを出て入り口に向かって歩いていると──
「あ!神谷さん!」
振り返ったら……三浦さんがいた。
私は一気にまたピンチに陥った……
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