「ここは俺に任せろ」と言って先に行かせた仲間達がまだ帰ってきていません。
じぇにーめいと
プロローグ
「ここは俺に任せろ、すぐに追いつく」
言ってしまった。――俺が一人で勝てるはずもないのに。
目の前にいるのは魔王の右腕。しかし俺がやつを食い止めることができれば少なくとも
だから今、俺にできる最善の選択はやつを食い止めること。
「はあぁぁぁぁぁ!」
無謀な突撃、簡単に攻撃は防がれてしまう。
無駄だなんてことをわかっている、でも諦めるわけにはいかない。
いなされようが反撃を食らおうが、何度も何度も剣を振り下ろした。
「行ったか」
仲間たちが扉を抜けていく、さてここからどれぐらい時間を稼げるか。
彼らと次に会うときはどこになるのだろうか。
自分の頬を叩く。
違う、俺はなぜすでに死ぬ気でいるんだ。まだ俺の役目は終わっていない、聖騎士として、ダン・バーンとしてまだ死ぬわけにはいかないんだ。
旅に出る前、師匠が言っていた。
人はどこまで行っても人であるが、人にしか超えられない壁もあると。
ならば今、俺はその壁を超える。
剣を両手で力強く握り、ありったけの魔力を流し込む。
「見事だ、人間よ。その剣技、ここで殺すには惜しい」
「安心しろ、俺は死なんよ」
相手の魔法を切り裂きながら距離を詰めていく。
「だが所詮人間か、魔族との壁は超えられぬ」
俺が振り下ろした剣はいとも容易く片手で受け止められてしまう。
「ああそうさ、どう頑張ったってお前たちとの間に壁はある。だがな人間しか持ってないものだってあるんだ!」
――勇気だ、勇気が必要なんだ。
耐えてくれよ
「この力は⁉」
剣が赤く燃え盛る。そして壁を打ち破った。
「ぐあぁぁぁぁぁ! 腕が、腕がぁぁぁぁぁ‼」
相手の右腕は地面に落ち、塵となって燃え尽きた。
ありがとう師匠、あなたが言いたかったことをやっと理解できました。
勇気とは死ぬ気で戦うことじゃない、どれだけ見苦しくたって生きるためにあがき続けることだったんだ。
「よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくも、私の美しい体を!」
「へぇ、魔族にも何かを美しいと思う感性があったんだな。まあひん曲がっているようだが」
「この、クソ野郎がぁぁぁぁぁ」
――みきり。
師匠が言っていた。相手が腹を見せたとき、その一瞬は恐れるな。
「肉を切らせて骨を断つ」
顔面に三本の切り傷を付けられた。深く深く、刻まれている。きっと魔法でさえこの傷をきれいに消すことはできないだろう。だがこの程度安いものだ、あいつの
「あ――あ……あ」
剣を引き抜いたと同時に二人とも地面に倒れ込んでしまった。
勇者、ちゃんと魔王と戦えているか?
俺はそのまま意識を失った。
次に目を覚ましたのは見知らぬ部屋だった。隣には女性が座っていた。
「ここは?」
「レオットの谷でございます」
「なぜ、俺は?」
「旅の方がここまで連れてきました」
「魔王城から?」
「いえ、森の中で見つけたとおっしゃっていましたよ」
「魔王との戦いはどうなったんだ?」
「それが――数日前、魔王城は忽然と消えていたそうです」
魔王城は消えていた。仲間達、魔王と共に。
魔王が消えたことにより、結果的に世界は平和となった。
英雄の凱旋、国へと帰ったとき。国民は全員、俺のことを世界を救ったヒーローとして扱った。豪勢な料理でもてなし、王は大量の金貨を与えてくださった。
それでもやはり、俺の中の霧が晴れることはなかった。
――死んでしまったのならせめて花でも手向けたいものだ。
誰も仲間たちの行方を知らなかった。旅に出て懸命に探したが、魔王城の破片一つ、仲間の消息の糸口一つ、掴むことはできなかった。世界は俺を英雄として祭り上げたが、俺はただの、置き去りにされた男だった。
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