何の取り柄もない僕を実は大好きな女の子

@Tellinu

第1話 本人も知らぬ間の告白

ぼくは小坂 翔一こさかしょういち。特に変わったところもない、友達ともだち一人ひとりしかいないだけの普通の高校生こうこうせいだ。

いつもどおり友達の晴翔と屋上おくじょうったゲームをしていて、荷物にもつを取りに教室きょうしつに戻ることにした。

廊下ろうかあるいているとなにやらはなごえこえてくる。

「やった!舞依まいの負け〜」

「罰ゲームは何かな?」

「ちょっと待って、今決めるから。」

せっかく扉の前まで来たのに、聞かない方がいい話が始まるかもしれないので、入りにくくなってしまった。

僕は横にいる晴翔に目配せをして、扉の影に隠れて会話が終わるのを待つことにした。ここにいて話が聞こえてしまうのは仕方がない。まあ...許されるだろう。

「えーっと、罰ゲームは……好きな人の発表!」

「だれだれ?舞依は誰が好きなの?」

「恥ずかしいな〜実は小坂君がちょっと気になってるんだよね」

後半は小声だったからか、晴翔は内容を理解できていないようだ。

「告白しようかなとか思わないの?」

「ほら、告白して振られたらお互い気まずいじゃん。好きな人を不快にさせたくないし。」

彼女たちが出てきた時に出会うのが気まずいと思い、僕は、逃げるようにその場を離れた。その時に晴翔が転んでしまった音で、誰かに聞かれた、ということは気づかれてしまったかもしれないが、僕たちとは思わないだろう。


「今日から塾があるから早く帰らないといけないんだよ」と晴翔が言ったので荷物を取りに教室に向かった。


よかった、荷物はあるけど誰も教室にいない。

急いで荷物をまとめて教室を出ようとした時、ちょうど彼女達が戻って来た。

春華が舞依に小さく目配せをしている。

晴翔はなぜか顔を赤らめていたが、僕は逃げるように教室から飛び出してしまった。

校門に着いた時にようやく追いついてきた晴翔に、

「急に走り出すなよ、俺らの方を見ていたけど......何か付いてたのかな?」

と話しかけられたが「さあ、わからない。」としか言えなかった。

「あんなやつのどこがいいの?」

と、ふと、教室から聞こえた気がしたが気のせいだと信じたい。

「誰か好きな人いるとかだったら聞きたかったな」

さっきの距離で聞こえてないわけないから誤魔化してるだけだろうと思うが、もしかすると本当に理解できてないかもしれないので

「さっき転けたから聞いてたのがバレたんじゃない?」

と落ち着いて答えた。


気づけば、いつも話すゲームの振り返りでも、担任やクラスメイトの噂話ではなく、今日の水島さんや東雲さんたちの会話の考察で、いつもの分かれ道まで来ていた。

僕は一丁目、晴翔は四丁目に住んでいるので、ここまでしかお互い寄り道せずには一緒に帰れないのだ。

家に帰ると、母に「今日学校で何かあった?」と聞かれたが、流石に彼女達の話をするわけにはいかないので、

「課題がいっぱい出てるから、後でいいかな?いつもとあんまり変わらなかったよ。」

と答えた。課題が多量に出ていること自体は本当だ、

(戌井の奴め、大量に出しやがって......。こんな量、一日二日で終わるわけないだろう。)

今日のことは一切忘れて取り組んでいたら、気づいたら20時30分になっていて母が夕食だと呼んでいたので、ダイニングに向かった。

「何だこれ......豪華すぎない?しかもよく見ると優磨の好物が多いような...」

食卓には優磨の好きな唐揚げや寿司などの豪華なものが所狭しと並んでいた。

「ははっ、よく聞いてくれたな兄よ、実は俺のインハイ出場が決まったのだよ。さらに、なんとこの度彼女ができました。」

僕と父は何も反応しなかったが、母は満面の笑みを浮かべて、続けた。

「優磨は小学校の頃から成績優秀、スポーツ万能でバレンタインには数え切れないほど女の子達からチョコをもらってたもんね。」

母が言っている事は事実だ。

優磨はテストはいつも95点以上。テニスでも最高成績は全国準優勝、体育の授業や体育大会でもいつも大活躍でクラスのヒーローだ。

だから余計に悔しい。中学時代に、クラスメイトが「お前はお兄ちゃんと比べて」だとか「お兄ちゃんはこうだったのに」と比べられてもう疲れた、兄なんていなければよかったのにと言っていたが、弟の方が優秀だと言われる方が何倍もつらい。

「優磨も母さんも、外では絶対やめてよ。恥ずかしくて見ていられないし、比べられているのが伝わってきて、本当に辛いんだよ。」

僕がそう言って席を立とうとしたのがわかったのか、父が今日初めて口を開いた。

「待て飯はここで食べてから行け」

空気が悪くなり珍しく我が家のダイニングは静寂に包まれた。


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