第31話 魔王と『時の魔女』VS勇者


*彼と彼女の記憶を思い出す欠片に、魔王と勇者の決着も物語には必要不可欠だ*


*だから記憶を思い出すために、本人以外だとしても、魔王と勇者の結末を含めて体験してもらう*

 

*****


「追い詰めたぞ魔王ダイア!!」


 勇者は大剣を魔王に突き出して宣言する。


 魔王城。その最奥にある魔王の部屋。

 豪奢な部屋には勇者と魔王のみ。

 レッドカーペットにする魔王はにやりと嘲笑う。


「その満身創痍な身体で追い詰めた、か。むしろ貴様が追い詰められたのではないのか?」


 クックックと、魔王はこの世の混沌を楽し気に笑う。


「俺様がいる部屋にたどり着いたことは称賛に値するが、犠牲は大きかろう? 円卓騎士を結成したのだろう。勇者含め12人だったか? その円卓騎士は今、何人残っているんだ?」


「……!」


 勇者は奥歯を噛み魔王に怒りを向けるが、否定の言葉を口にしない。

 それもそのはずだ。円卓騎士は、勇者を除いて全滅した。

 

 先ほど勇者を迎えた無傷の魔王。

 そして円卓騎士の唯一の生き残り――満身創痍の勇者。

 その勇者を追い込むように、もう1人――否、人外が現れる。


「……魔王の部屋に人間がいると聞いたから来たのに……死人も同然じゃない」


「天災――『時の魔女』!!」


 虚ろな紅色の瞳で勇者を見つつ、彼女はため息をつく。


「天災ではないはずよ……。だって、諸悪の根源は魔王でしょう? 魔王が世界を支配しているから私はなんとなく魔王の傘下に入っただけよ」


「それでも僕の故郷を襲ったのはお前だっ!!!」


 血涙を流すが如く、大粒の涙をこぼしながら勇者は鬼の形相で彼女を睨む。

 その姿に呆れるように『時の魔女』は再びため息1つ。


「はあ、それでも私より魔王の方を倒すべきでしょう。勇者﹅﹅なんだから」


「左様。俺様を倒すのだろう? だが貴様は俺様を斃す魔法を、は持ち合わせてないんだったか」


 魔王はにやりと笑い、絶望を注ぐ。


「貴様の魔法は、円卓騎士となった人物同様の技術を使える魔法。円卓騎士12の絶技すべて使えるのであれば、俺様をたおせたかもしれない。だが、貴様の円卓は潰えた。何もできない勇者はつまらん。死ぬがいい」


 持っていた豪奢な杖を勇者に振るう。

 杖から生成された炎の魔法。一般的な魔法だが、魔王が放ったその炎は、地獄の炎よりも圧倒的に熱く、部屋を埋め尽くすほど広範囲だ。


「……私が部屋の時を止めてるからって、わざわざそんな高威力な魔法使うなんて……」


「魔法は常に全力で使うべきだ。魔法を狂ったように使い続け、魔法を狂ったように研究し続け、なんでもできる魔法――その先の極地にたどり着く。魔力の限界、その先のステージにたどり着く――」


「……それが貴方の悲願なんでしょう。知ってる」


 魔王のなんでもできる魔法。

 なんでもできる魔法といっても、さすがに限度はあった。概念的な魔法――たとえば心を読む魔法なんて魔王でもほぼ不可能であった。相手の五感までなら相手の微力な仕草や魔力で把握できるが、相手の心のうちすべてを把握できる魔法を魔王は持ち合わせていない。

 さらには魔力という制限。膨大すぎる魔力をもっていても、その魔力には限りがあり、魔法を永続的に使い続けることは不可能だった。だからこそ魔王は永久に魔法を使える無限の魔力が欲しいと思っていた。


「円卓騎士のすべての力を使える勇者と戦えば新たな道筋が見える気がしたんだがな。新たな魔法――いや、魔法という概念を超越する何かにたどり着いた気がするんだがな。……おや?」


 魔王は業火の中で焼かれたはずの勇者をじっと見て、違和感に気づく。


「勇者が焼かれてないな。耐性でも持っていたか?」


「……多少あるはずだけれど、魔王の炎を耐える人間なんてこの世界にいるわけないじゃない。……まさか生きてるの?」


 普通の人間であれば焼き焦げて原型もなくなる中、勇者は原型を保っていた。

 大剣を床に刺し、ぎりっと視線を上げて魔王と『時の魔女』を捉える。


「魔王、そして『時の魔女』。お前たちをたおす!!」


「ほお! 面白いな。ワクワクするぞ、かかってくるがいい勇者!!」


 嬉しい誤算に魔王は胸を高ぶらせて勇者を挑発するようにいう。

 『時の魔女』は呆れるようにため息をつきながら戦闘態勢を取りつつ、勇者を揶揄する。


「……さっさとお仲間と一緒に死ねばよかったのに」


「僕は死ぬわけにはいかない! 仲間たちの無念を晴らす!! 僕はお前たちをたおすまで死なない!!」


 勇者は業火の炎から抜け出して、人外たちに駆けていく。


円卓共鳴サークルレゾナンス――」


 大剣『聖剣エクスカリバー』が光り輝く。


「『時の魔女』――アフト禁足世界■・■■■■!!」


 時が止まる。


「……無理やり私を円卓騎士に見做したのね……!」


 さすがの『時の魔女』も冷や汗を垂らす。

 時とは概念染みた魔法。魔王も多少の使用しかできない。時間停止の中で魔王は動けない。

 魔王ができないことをできる相手。はっきりいって化物だ。それでも『時の魔女』は冷静に対処する。


「けれど、甘い。スィベ時厄災譲渡トキノデンセン


 巨大な時計が無数に現れ、時の魔法範囲を魔王の部屋すべてに広げる。


「『聖剣エクスカリバー』! 僕の想いに応えろ!!」


 地獄の業火の中を駆けだしながら、彼の大剣は巨大化する。業火から飛び出した勇者はその巨大な剣を横一文字に全力で薙ぎ払う。

 豪風とともに部屋の壁と巨大な大剣金属がぶつかりけたたましい音をあげた。

 普通であれば眼前の魔王と『時の魔女』は絶命する威力。だが、その眼前に映ったのは何事もないように佇んでいた魔王と『時の魔女』だった。


ツヴァイ逆巻誕生リバースバース……間に合ったわね」


「な……何をしたっ!?」


「時を戻しただけ……。私と魔王がこの部屋にいる限り絶命しても時間を戻って死をなかったことにするわ」


「ば……馬鹿げてる……!!」


「馬鹿げてようとも、これが現実よ。……魔王、今のうちに勇者にとどめを」


 勇者は今の攻撃が全力の奇襲だった。だからこそ、これ以上の争いがあったところで勝算はなかった。


 普通であればそうだった。


「勇者の魔法だが――」


 魔王は勇者を玉座から見下ろしながらも、素朴に、子どものように純粋に質問する。


「――俺様の魔法は使えるのか?」


「何を考えているの……!?」


 虚ろな瞳を宿す『時の魔女』だったが、魔王の発言に紅の瞳をまん丸にしてしまう。

 魔王の魔法――なんでもできる魔法を使う。それは一種の禁忌であった。それを勇者に共有するなど埒外にもほどがある。

 魔法は勇者に輝いた漆黒の瞳で彼を見て、手を差し伸べる。


「俺様は可能性を見たい。なんでもできる魔法と謳っているが、所詮は魔法﹅﹅﹅﹅﹅。ならば円卓の騎士の1つとして加えることなど造作もないはずだ。貴様の円卓騎士仲間には魔法以外の絶技を持っている者もいただろう。ならば、俺様の魔法を使えるはずだ。やってみせろ。そして俺様を憎いと想い続けているのであれば――殺せ」


 勇者は唇を血がにじむほど噛みしめる。

 眩暈でふらりと態勢が崩れかけるが、魔王の憎悪を力へと変え、しっかりと大地を踏みしめる。踏みしめた先で、勇者が視線を合わせるのは最強最悪かつ万能、なんでもできる魔法を持つ魔王ダイア。

 勇者は血反吐を吐いても構わないというほど、大声で叫ぶ。


「望み通りにしてやるよ、魔王!! 円卓共鳴サークルレゾナンス――なんでもできる魔法ダイア――連続殺戮・心ブレイクハーツ!!」


 『聖剣エクスカリバー』が第3の手に変わる。第3の手は幽体のようで、自由自在に操作できると理解する。

 その第3の手は勇者のみしか見えず操作できず、手の行き着いた先は魔王ダイアの心臓だった。


 ばっくりと、第3の手で魔王の心臓を握りつぶす。


 「がふっ……」


 魔王が吐血する。

 あの魔王がその場に這いつくばる。

 人間であれば死ぬ量の血を、口からべちゃりべちゃりと吐き続ける。

 『時の魔女』はツヴァイ逆巻誕生リバースバースで魔王を少し前の時に戻そうとする。

 しかしながら、時の魔法は無効化されたようになんの効果も起きなかった。


「なんで……」


 実際には時を戻しても、心臓を握る第3の手がすべてに干渉されないことで、魔王の心臓が復活しても何度も握り潰され続けている。

 魔王は血を吐き続け、勇者は第3の手で魔王の心臓を無限がごとく握りつぶし続けている。

 なんの事象も理解できない『時の魔女』は、敵対する勇者と距離を取りながら気味悪くいう。


「不可視の攻撃魔法どころか、私の魔法も無効化している……。魔女の域どころか本当に魔王の域になっているじゃない。……魔王、私は逃げるわよ」


 勝敗は決したといってもいいだろう。

 地べたを這いつくばって死ぬほどの血を吐き続けている魔王。

 対して、怒りを集約した第3の手で鬼気迫る勢いで魔王の心臓を破壊し尽くす勇者。傍から見てもこのまま魔王が死ぬと理解できる。さらには『時の魔女』も殺さんといわんばかりの気迫が勇者の瞳に宿っている。


 『時の魔女』の言葉に血反吐をまき散らしながらも魔王らしく笑う。


「クックック、『時の魔女』。逃げると宣言するのは律儀すぎだと普段ならいうが、今は待て。俺様の魔法の進化を見届けろ」


 『時の魔女』は気が動転しすぎて気づいてなかったことがある。

 それは魔王が吐き出す血の量が少しずつ減っていたことだった。

 血の量が限度に達したのではないかといわれればそう見えるかもしれないが、魔王の笑いは空元気ではなく、何か達成感を得られたような笑いに聞こえた。

 勇者が第3の手を通じてあることに気が付き、驚きの顔で魔王ダイアに問う。


「魔王ダイア。お前、心臓をどこにやった?」


「俺様には心臓がない。それが魔王だからな」


 魔王は不死という能力を獲得していた。

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