第26話 誰かが「お前はハッピーエンドが似合っている」と言った
『時の魔女』は壊れかけの壁上に座ってソレを見る。
ランケルという最強の巨人が巨人ではない人間でもない何者かになり果て、人間ではない何かになった一連のシーンを眺めている。
「……やりすぎよ、
輝きを少し取り戻していたはずの瞳は再び輝きを失っていた。
「
ランケルが普通の人間サイズからさらに縮小していく姿を『時の魔女』は嘆息しながら仕方なく見届けている。
「貴方の命、消えちゃうわね。……久しぶりの死線、楽しかったわよ」
『時の魔女』がランケルに別れの言葉を告げた――そのときだった。
「そこまでっぷよ、『時の魔女』!」
金髪少女、紅の瞳を宿すライだった。彼女はホルスターに仕舞っていた拳銃を取り出して『時の魔女』に向ける。
「ラルを返してっぷよ!! 『
銃弾が『時の魔女』目掛けて放たれた。
「私もラルだけれどね……。この『町』の人、物、すべて破壊したら大人しく返すわよ」
そう言葉をいい切ることができたのは、銃弾が彼女の身体に当たっていない結果を示していた。
ライは声を張り上げる。
「ラルの身体で人殺しなんてさせないっぷよ! 『
銃弾が意思を持つように、くいっとUターンして、『時の魔女』の額を貫く。しかしそこに弾痕はなく、まるで『時の魔女』に吸収されているようだった。
『時の魔女』はもともと痛みを感じないのか死んだ瞳のまま、何も慌てず額に手を当ててぽつりとつぶやく。
「損傷自体は治しとかないとあとで痛むのよね。
詠唱は途中で破棄される。『時の魔女』が頭を抱えだす。
紅の髪をくしゃりと握ってしまうほどの激痛。その激痛を伴いながら銃弾を放った少女を睨みつける。
「
「これは私だけの想いが込められた魔法じゃないっぷよ! ラル、タケル、そして私――私たち全員の想いが『
「……そのうち1人は今もいないじゃない。頭おかしいんじゃないの……!」
悪態を声にも乗せていて糾弾していた。そんな彼女の背中に、誰かの手が触れていたことに遅れながら気づき振り向いた。
その人物は『時の魔女』を漆黒の瞳で見下ろしていた。
「当然、ライの意思の魔法――想いだけじゃ『時の魔女』からラルを取り戻すには足りない。実際、俺単体だけじゃここまで近づけなかったし、ライだけでも決定打はなかった。だが、近づけた今ならラルを取り戻せる――」
『時の魔女』にしか聞こえない声量で、静かに怒りを込める。
「――
なんでもできる魔法をタケルは使えなためブラフだ。だから実際に使用したのは『時の魔女』からラル・S・
その魔法の宣言を聞いて諦めたように、『時の魔女』は死んでいる瞳をゆっくり閉じる。
「……今回は時間切れ、ね。せいぜい足掻きなさい、地球人。
最後にそんな私怨を残して、『時の魔女』はその場にぱたりと倒れた。
倒れたと同時に紅の景色は薄れていき、元の青色の空を取り戻す。無数にあった巨大時計も薄れて、そして消えた。
その情景にライは胸を撫でおろしつつ、もう1つの心配事である『時の魔女』だった彼女を見ながら問う。
「ラルは戻ってくるっぷよか?」
「恐らくな……しかし――」
『時の魔女』の去り際の一言が彼の心を抉っていた。
『時の魔女』たちの封印が解かれる。それ自体はラルが時の魔法を使えば『時の魔女』が一時的に復活することを知っていた。
だからこそ、最小限の時の魔法に使用をとどめるよう注意したが、巨人ランケル相手に時の魔法を過度に使用してしまい、一時的に『時の魔女』になってしまった。
それだけにとどまらず、今回の彼女の言葉を鵜呑みにすれば、『時の魔女』と何かの封印がもうすぐ解かれると断言していた。
――『時の魔女』と魔王、この魔女たちが復活となればこの世界は破壊だけの一途をたどる……。ラルにヒントは与え続けているがいつ禁足事項に気づけるのか……。
「何か不安な要素があるっぷよん?」
「いや、ラルとして意識は戻るから不安な要素はない」
彼は自身の想いをライに打ち明けず、『時の魔女』に触れ続け、状態変化の魔法を使用し続ける。
『時の魔女』が発光し、腕にその光が集約されていく。時の集約だった。
時は腕時計という物体に変化して、定着する。
そして彼女の瞼はゆっくりと持ち上がり、爛々とした紅の瞳がライとタケルを捉えた。
「2人とも、ありがとう……、ごめん……!」
ラルは一筋の涙をこぼしながら、2人に向けて謝った。
「謝るな。被害はこの
タケルは周辺を見渡し、ラルも同時に惨状を見渡す。
だが、見渡す限り死人はいなかった。
死人はいなかったが、消滅しかけている魂があった。
ラルはその魂を指さす。
「あれはランケルよね?」
タケルはこくりと頷く。
ランケルは黒い靄になり果てていた。巨人だとは思えないほど縮小化されてしまっており、人間の影、否、人よりも小さい存在になり果てていた。
魔王のなんでもできる魔法が真っ暗闇の空間からこの世界にまでリンクしているのだろう。
このままランケルが消滅することは誰の目にも明らかだった。
ラルはその靄に向かって、決心した瞳を宿して歩き出す。
「何をするつもりだ、ラル」
「……助ける」
キリっとした紅の瞳で普通の人間サイズ以下になり果てた彼の前にたどり着いた。
タケルは息を一瞬飲んだが、呆れたようなため息を吐き出す。
「形式上の忠告だ……。ランケルを助ければ今回の革命は無に帰す可能性ができてしまう。そして奴を助けても話し合いの場に乗るかどうかは確約できてない。
つまり助けることはマイナスでしかない。それでも――ランケルを助けるのか?」
「当たり前よ。私はハッピーエンドが似合っているって教えてくれたじゃない!」
タケルはその言葉で、記憶の奥底が刺激された。
――お前はハッピーエンドが似合っている。
深い深い記憶の奥底。深淵――何もないような真っ暗闇。それよりも前の出来事だったかもしれない。
頭を抑える。
「教えた気がするが……。なんだ、この記憶は……どの
彼の記憶にも記録にもそんなことをいった覚えはない。そのはずなのだが、なぜか感覚としてそう話した気がしたとタケルは思った。魂に刻みこまれているといってもいいのかもしれない。
不可思議な記憶に自我がどこかに持ってかれそうになりそうで、その記憶をしまい込んだ。
ラルは黒の靄になり果てたランケルの目の前で、腕時計の鎖をガチリと外した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます