3章 『血税の町』

第19話 血を献上しないといけない『血税の町』

 ラルの意識が覚醒する。

 平原の上で、ラルは立ったまま目を見開いた。


 草木が1本もない干からびた大地だった。

 地面がひび割れており、カラッとした空気が肌にあった水気を奪っていく。

 

 ラルは深紅の長髪にとんがり帽子、黒いローブに身を包み、革靴のロングブーツを身に纏っていた。

 彼女は自身の服装を目で見える範囲を確認し、とんがり帽子をかぶっていることを手で確認して、小首をかしげる。


「これは……デジャヴってやつ?」


 ラルは自身の服装に覚えがあった。前々回の『町』――『因果応報の町』とまったく変わらない服装だった。


「だな」


 相槌を打った相手を見て、ラルは驚きのあまり身体が硬直していた。


「タケ、ル……?」


 『因果応報の町』でともに旅をした短パン小僧を彷彿とさせるタケル。彼が隣にいた。

 しかしながら、『因果応報の町』時点とはかけ離れた点があった。


大人﹅﹅になったの?」


 ラルは以前、顔を下に動かすことでタケルの顔を視界にとらえていた。しかしながら、今回はラル以上の身長になっていたため、少し見上げていた。

 タケルは自身の姿――手のしわ加減、顔の質感、関節を動かし、自身の肉体年齢を確認し、ぽつぽつと話し出す。


20歳以上﹅﹅﹅﹅﹅かはわからないな。10年と少し経ったくらいに見受けられる。だから成人前﹅﹅﹅の大学生だな。歳を取った姿でも、半そで半ズボンというスタイルは疑義を問いただしたいが、それ以上に知りたいことがある」


「……知りたいこと?」


「どうしてラルは成長しないで、俺だけ成長しているんだ?」


 ラルは眉間に皺を寄せつつも自身の姿を再度確認する。いつもどおり、転移しても年齢が変わっているようには見受けられない。

 彼女はうんうんと項垂れるように少し考えたあと、自身の結論を口にする。


「それは身体を自由自在に変化できる貴方だから、成長した姿になっているんじゃないかしら。私は身体が変わったことなんて一度もないわよ?」


「それは今までの経験則でいえる結論だろう。俺は形まで変わるが、ラルは服装のみだ。ただし今回、俺が歳を取っているが、お前自身は歳を取っていない。これっておかしくないか?」


「……そう? 変身魔法で、タケルだけ歳を取っている姿になっただけじゃない?」


 タケルという少年から青年になっていた存在は、顎に指の甲を当てしばらく悩んでいた。


「……まあ、そう捉えることもできるな。考察までしかできないから、これ以上話し合っても詮無い。……あの『町』まで、とりあえず行ってみるか」


「ええ。すごく不気味だけれどね」


 ラルたちが見る眼前の景色。

 からっからの大地を歩いた先に、大型巨人が隠れてしまうほどの巨大な壁があった。おまけに、不気味にも赤で塗りたくられた壁だ。

 否、赤で塗りたくられたという言葉は正確ではない。その赤はペンキで塗られたわけでも、魔法で赤色に染められたわけでもないのだろうと、2人は薄々感じていた。


 血で塗りたくられた壁だった。


 眼前すべてが血で埋め尽くされた巨大な壁が座していた。

 人によっては吐き気を催すほど気持ち悪い光景。今まで見てきたどの『町』よりも異質なのではないかと警鐘を鳴らしていた。


 それでも2人は目的のために『町』に訪れるため、壁前まで歩いて門前にたどり着く。

 鎧を身に着けている門番が話しかけてきた。


「2人は……旅人ですか?」


「ええ。この『町』について詳しく知りたいんですがいいですか?」


「いいですよ。ここは『血税の町』です。といっても、金を巻き上げる血税とは別の意味ですけどね。詳しくは、この紙を見るといいですよ」


 物騒な話をしながら門番はA4サイズ程度の紙を手渡す。

 受け取ったラルはその紙を一通り読み進めていく。


□『血税の町』の特徴

 ・この『町』に訪問したら、200mlの血を献上する。

 ・1日最低限、100mlの血を献上する。

 ・血の献上は1日のうち任意で行う。

 ・血の献上は、自分以外でもいい。

 ・自分以外で血の献上を行う場合、口頭でいいから契約をする必要がある。

  ※双方合意されることで、受理される。

 ・血は通貨とは別の価値として、支払うことができる。



 一通り読み終えたラルは、タケルにしか聞こえない声でひそひそと相談する。


「ぶっちゃけこの『町』入ることさえ安全なのかわからないわ。200mlの血が抜かれても生きているのかしら……?」


「400mlでよくある献血1回分だから、訪問までは酷くても貧血を起こすくらいだろう。だが、100mlの血を毎日献上するのが無理だと思う」


 タケルは記憶を引き出す。毎日100mlを献上すれば、いずれ人間は失血死する。献血を毎日できる人間がいないように、毎日100mlの血を献上するのは不可能だという結論になってしまう。

 タケルは門番にどうしても聞きたいことがあり、口を開く。


「何点か質問させてもらう。まず、王国『メソッド』のルールはこの『町』にも適用されるんだよな?」


 タケルの問いは、王国『メソッド』のルールだった。

 『町』には基本、王国『メソッド』のルールが追加されている。その代表的な1つのルールが、相手が殺人をしたら、殺人を犯した本人はルールによって勝手に殺されるものだ。

 ルールを読んでもわかるとおり、物騒すぎるこの『町』には、最低限そのルールがないと訪問はできないとタケルは考えていた。


「当然です。もし王国『メソッド』のルールがない場合はこの紙にそう明記しないと王国『メソッド』から処罰されるルールですから」


「だよな。それじゃあ次、この『町』で血の献上で死ぬ旅人﹅﹅は何割いる? 期間は12日間でいい」

 

 門番は「12日間?」といぶかしんだが、質問に答える。

 

 「12日間であれば限りなく0人ですよ。少なくとも貴方がた2人は死にませんよ」


 かなり断定的に話す門番に、タケルは顎に指の甲を当てる。

 疑問1つ目、2週間程度あれば死亡する旅人は限りなく0人﹅﹅﹅﹅﹅﹅であること。

 疑問2つ目、貴方がた2人﹅﹅﹅﹅﹅﹅は死にませんよといっていたこと。

 上記2点から、対象の誰かであれば訪問するだけで死ぬことを意味するといっていい。


「……まさか」


 誰が訪問すれば死ぬのか、その真実にたどり着いたとき、タケルは目の色を変えて、鬼の形相で肉薄して門番を問い詰める。


「子ども、果ては赤子さえも血の献上は適用されるのか?」


「……え、ええ。ですが献上制度を使えば生き残ることは可能ですし、貴方たちには関係ないですよ。むしろ、旅人が1日満喫するなら、血を財産に変えて好きなものを無料で買えますし――」


「――人でなしの『町』め。子ども、赤子を殺すような『町』を俺は好かん。帰るぞ、ラル」


 ぎりっと歯を噛み、門番の先、ルールを作ったであろう赤の壁先、『血税の町』を、彼は殺す勢いで睨んでいた。

 彼はそのまま踵を返し、ラルも「ええ」といって踵を返して次の『町』に移動しようと思っていたところだった。


 1人の女性が、ラルとタケルを見ていた。

 金髪に深紅の瞳。人形のような小奇麗な顔に見えていたが、彼女がにっこりと笑顔を作ると、すべての人間を照らすほどまぶしい表情に映った。

 あのとき﹅﹅﹅﹅から比べると成長しすぎている容姿だった。

 軽装な服装で、それに合わせてショートカットに切り揃えられた髪はボーイッシュで、負けん気があるように見える。それでも身体のスタイルが、出るとこは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいる、スタイル抜群な容姿。

 容姿からだと、以前とはかけ離れた性格に見えていた。それは彼女の決意によって変えられたのかもしれない。それでも、いや、だからこそあの特徴的な口調は今も変わらないのではないかと彷彿させる。

 彼女は2人に話しかける。


「久しぶりっぷよね、ラル、タケル」


「ライ?」

「ライちゃん!?」


「うん!」


 彼女は『因果応報の町』で出会ったころから身体も心も成長したヘンリエッタ・L・ライだった。

 彼女は続けざまにいう。


「ここの住民はその問題で困っているっぷよ。だから私はこの『町』の人たちを助ける。協力してもらってもいいっぷよ?」


 その言葉にラルは一瞬にして「ええ」と答える。

 さっきまでこの『町』から引き上げるように考えていたにも関わらず、ラルは友達に協力したかった。

 ラルは他の『町』の人とは絶対に再び会えないと思っていた。転移、転移、転移ばかりの異質な旅。知らない『町』から知らない『町』にテレポートをし続ける日々。まるで転校を続ける学生のようで、再会なんて万に1つもないと思っていたラルには、泣いてしまうほどの感動の再会だった。

 それと同時に、彼女が協力してほしいといった。その言葉には応えたいラルは彼女の決意に応えようとする。

 

「私も赤ちゃんや子どもが大変な目にあっているのはどうかなと思っていたわ。タケル、いい?」


 決心ある瞳を宿したラルがタケルを見ると、彼は呆れていた。


「俺らの目的、忘れたか? 安全に情報収集だ。しかも本来であれば目立たず、立ち回ることが重要だ。目立って変な噂が流れればほしい情報も得られない。ライの気持ちに応えるってことはこれから注目を浴びようといっているのと同義だ。だが――」


 タケルは真剣な眼差しで2人に話す。

 

「――俺も今回の件は見過ごしたくない。できる限り協力するよ、ライ」


 かくして3人は、この『町』に入ったのだった。

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