第51話 祖父の話

……もう、闘技場とかどうでも良いか。


このまま、朝が明けるまで抱っこしてたい。


空に氷の板を浮かべ、それを踏み台にしながら空を舞う。


「ひゃっ……」


「下を見ると危ないぞ(やだ! 可愛い声!)」


「た、高いですもんね……落ちたら……」


「安心して捕まってろ」


「はいっ」


「うむ……(ァァァァァ!?ぎゅって!)」


すると、邪魔者……違う違う、セバスが屋根を伝って追ってくる。

還暦を迎えたというのに、相変わらずの動きだ。


「ぼっちゃま、この辺りかと」


「住宅街から離れてるが……それらしき建物はない気がする」


「闘技場は地下にありますので。では、ここらで降りましょう」


残念だが、至福の時間は終わりらしい。

仕方ないので高度を下げて地に降りる。

時間帯と住宅街から離れたことで、辺りは静まり返っていた。


「ぼっちゃま、では手筈通りに。あそこの通路を行けば、目的地でございます」


「うむ、そっちも任せた」


「ほほっ、お任せください。その前に、こちらのお手紙を」


「なに……これは……」


そこには祖父からの手紙があった。

お決まりの挨拶と元気かということ、そして

これが、あの厳格な祖父からの手紙か?

アルヴィスが知る祖父は寡黙で厳格な男で、最近は口に開けば皇帝になれくらいしか言わない。


「どういうことだ?」


「ほほっ、お屋形様も丸くなったということですな。今回の話を持っていた際に、色々とお話をしました」


「余計なことは言ってないだろうな?」


「言わずとも、あの方なら大体のことはお見通しかと」


悔しいが、セバスの言う通りだ。

母親の所為で権力こそ失ったが、未だに色々と顔は聞く。

そもそもセバス自体が祖父に仕えていたため、俺のことは筒抜けだろう。


「ちっ、あのジジイめ」


「気持ちはわかりますが、きちんと礼はした方がいいかと」


「……わかってる、俺の矜持が許さん」


「きっと、お屋形様もお喜びになるかと」


そうして、セバスが闇に消える。

後のことは任せて良いので、こちらも仕事に取り掛かるこに。

すると、ユリアが何かを言いたげにしていた。


「あ、あの、お屋形様って……」


「祖父であり、公爵家当主であるゼーヘイアだ」


「あの、戦鬼と言われた……」


「若い頃の話だがな。今は、見る影もない」


皇族の血を引く者として、数十年前に戦争に将軍として参加したらしい。

そこで一騎当千の大活躍をしたとか。

確かに俺が幼い頃は、良くボコボコにされていたな。

母親がああなってからは、見る見るうちに覇気がなくなっていたか。


「でも、御主人様のことを気にかけていらっしゃるのですね」


「……これが済んだら一度挨拶に向かうか」


「ふふ、それがいいかと」


既に彼女に身内はいないし、俺にもいるつもりはない。


だが、今回は祖父がいなければ難しかった。


故に、挨拶くらいの義理は果たすべきだろう。

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