第18話悶え

桑山ボーイズスターティングメンバー

1.ショート 御手洗奏汰みたらいかなた

2.センター 山下透やましたとおる

3.レフト 星一輝ほしかずき

4.ファースト 鎌田賢かまたけん

5.サード 柴田大河しばたたいが

6.キャッチャー 多田翔真ただしょうま

7.ライト 島崎恵しまざきめぐみ

8.ピッチャー 日野陸ひのりく

9.セカンド 武田昌也たけだまさや



パァン!

「ボールバック!!」

投球練習が終わり多田さんが声を出し

2塁送球をする。

1番〜3番打者がベンチ前で素振りをしていたが

とにかくでかい。

しかも全員右打者。

正直俺の守備位置レフトに飛んで欲しくない。

絶対打球が速いもん。

あと素振り見てる時、荒浪がずっとこっちを

ニヤニヤ見ていた。怖すぎる。

あいつ髪なげーし目にクマあって怖いんだよな。



小学生の時の事だ。

俺が正捕手であいつは2番手捕手。

打撃は良かったからファースト起用されてたけど

やっぱり本職のキャッチャー

が良かったのだろう。

ずっと俺を見ていた


あいつは近所のリトル出身で5年生の春にうちの

軟式チームに入部してきた。

それはそれは大層な自信家で、入部した時は

俺も焦りを感じていた。背がでかいし肩も強い。

あいつが入部した時は

ほぼあいつがマスクを被っていたし

俺がキャッチャーをやれてたのはそんなあいつに

負けたくないから親父と毎日練習してたからだ。


俺のキャッチャーでの試合数が増えていく度に

「エースの天野と幼馴染だからあいつは贔屓されてる。」なんて言ってたな。


でもある日を境にそんな事も言わなくなった。

飽きたのかファーストも悪くないと感じたのか

分からないが、その代わり俺を舐めまわすようなジトッとした目で見てきた。


カァーーーーン!!

「?!」

余計なことを考えてたらいきなり飛んできた!

ドムっ!っとフェンス直撃のツーベースヒットだ


1番からパンチ力のある打者が並んでいる。

カバーに入ってくれた山下さんが居なかったら

3つまで行かれてたかもしれない。


続く2番はバントの構えをし、

コンっと音を立てバント成功。

1アウトランナー3塁といきなしのピンチだ。

3番はめちゃくちゃでかいマッチョだ。


ビッ!! パァァーーン! 初球キレキレの真っ直ぐに空振りを取り、2球目も空振り。


(凄く振ってくるチームだな。)

俺がそう思っていると...キィーーン!!

快音と共に打球がライトへ。


「島崎!!!」

日野さんがそう叫ぶ。タッチアップするかの

微妙な位置だが、ランナーは走る気満々だ。

パンッ! 島崎が捕球すると

ダムッ!! っと

勢いよくベースを蹴る音が聞こえた。


「いったぞー!!!!」

ファーストの鎌田さんサードの柴田さんが

声を張る。

ビッ!! パァン!


しばらくの沈黙の後、主審が手を上げ

「アウト!!」とコールした。


「サンキュー島崎」

「全然っす。レフトしょぼいんでライト打たせましょう。」


島崎の冗談に俺も反応する


「なんだと?!日野さん!

全然こっち打たして良いですから!!」

「香山は常に準備しておいて貰わねぇとな。」

「日野さん!?」


めっちゃ馬鹿にされたが大丈夫だ。

日野さんは冷静だ。


あとついでに俺の事いじった島崎に

アイアンクローをかましてやった。


「っしゃ!俺が道切り開くんで後ろ任せますよ」

「誰に言ってやがる御手洗!」

「公式戦初外野で緊張してる奴にですよ!」


御手洗が山下さんと話しながら俺に目を向ける


「御手洗..お前もかよ!」



チームの雰囲気も大丈夫そうだ。

俺がいじられてること以外は。


パァン! いいミットの音が鳴った。

ピッチャーはさっきの3番の人、キャッチャーは

荒浪だ。

取るたびに俺の方をチラチラ見る。きも怖い。


「よぉ荒浪。久しぶりじゃん」

「御手洗よ...

試合中に話しかけてくるとは余裕だな。」

「星の事チラチラ見てる奴に言われたかねーな」

「...」

「お前もしかして...

まだ「あの事」言ってないのか?」

「...来るぞ。」


御手洗が構える。

ビッ... パァァァン!

「ス、ストライク!!」


(1個外れたと思ったけど、音とフレーミングに騙されてやがるな審判。)

御手洗が冷静に分析する。


「いいキャッチングをするなぁ!あの2年坊!」

「あいつ上手くなってるな。」


鎌田さんが褒め、焦斗が俺に聞いてきた


「あぁ。間違いなく上手くなってる。

あの手首の力強さと柔らかさ。羨ましいよ。

生まれつきなのか、そういうトレーニングを

してるのか、教えて欲しいよ。」

「...教えてもらえよ。直接」

「あいつが?俺に?ムリムリ!

絶対断るよあいつ。」


パァァァン!!

「ストライクバッターアウト!!!」


「山下さん、スラとシュートあります。」

「おぉよ。仇は取ったる!」

「ありがとうございます...」

(まだ1打席目ですけどね...)


パァァァン!!

(打席で立つとそんなに速くは感じねぇな。

むしろ遅いくらいだぜ。

それだけこいつのキャッチングが良いって事か?)


カァーン! カァーン! カンっ!! パァァァン!

際どい所はカットし、ボール球はきっちり見極める山下。

荒浪はそんな山下を見て考えを改める。


(この人、気性が荒い大雑把系なように見えて

際どいとこ全部振ってくるな。面倒くさい...

さっさと一輝に変わってくれよ。)


ビッ!

「?!」

(おっ、遅せぇ!ダメだ...バット止まらな... )

コォーン!!


スローカーブに手が出てしまい、

ピッチャーフライになる。


「チィッ!」

「アウト!!」


(山下さん、結構粘って球筋見せてくれたな。

あざす。よし。いくぞぉ〜。

キャッチャーは知らんぷりだな!)


打席に入り、いつも通りベースの角と角をコツンと叩く。バットを身体の前で2.3回転させる。


「うしっ!こい!」

「ふふふ...一輝...

そのルーティンは変わってないねぇ」

「久しぶり。覚えてたぜ。

印象強いから。お前。」

「ふふふ...身体...大きくなったね。

立派なスポーツマンって感じだ。」


(いつまで話しかけてくんだよこいつ!!

さっさと構えろや!)

不気味に笑う荒浪を他所に、俺はピッチャーへ

目を向ける。


ピッチャーが構え、1球目を投じてくる。


ビッ! カァーーーン! 「ファールボール!」

(思ってたより遅い。)


ビッ!

(!山下さんが打ち取られたカーブ!!)

キィーーン! 「ファールボール!!」

(危ねぇ!山なりだからこっちの身体も浮いちまう。)


「流石だねぇ!あれを初見で打ち返すとは...

はっはっ!」

(いちいち話しかけて来んなよ!って言いてぇけど

相手にしたらこっちの負けだ。)


「...一輝が戻ってきてくれて、本当に嬉しいよ」

スッ...


荒浪がサインを出すと、投手が少し驚いた顔をしていたが、直ぐに顔が戻る。


グッ...ボッ! パァァァーーン!

「は、速...」

「ストライクバッターアウト!!チェンジ!!」


130以上のボールに見えた。いや、130くらいなら普通に打てる。

この人の球はそれがより早く見えた。


「か、緩急...」

「そう...変化禁止の小学生の時、

一輝はよく使ってたよね。」


(それはストレート主軸でたまに使ってただけで...

スローボールを基本に速球なんて考えた事も無かった...)

「あの先輩が投げるカーブがおよそ80km。

真っ直ぐが130kmジャスト。

その速度差はおよそ50kmさ!!」

「ははは...おもしれえ事考えんじゃねぇか。」

「ッッ!!!」


俺が褒めると荒浪は何故か悶えた。


「あ?」

「何でもない!!さぁ交代だ。

試合を楽しもうよ!」

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