ゆかりのブラック・ワードローブ 〜航空会社オフィスで繰り広げられる女の仁義なき戦い〜 !実話です!
@Etsukoyama
ゆかり's Rule ⭐️不公平な世界で生き抜くためのルールブック
ゆかりの法則:若い子が得をする世の中は、おかしいよね!
ゆかりのデスク周辺の空気は、他の社員たちの軽やかなそれとは一線を画していた。沖縄系の血を引く彼女は、黒髪のロングヘアで、背は低く、がっしりした体格でかなり太っていた。纏う服はいつも黒一色。その風貌は、明るくクリーンなオフィスの中で存在感を放っていた。
ゆかりの視線は、隣の席に座る新入社員、エリカに釘付けだった。エリカは、愛嬌のある顔立ちと、どこか外国の女の子を彷彿とさせるような華奢な女性だ。男性社員たちが、まるで花に群がる蜂のようにエリカに集まり、笑い声を上げている。
(何よ、あの新人。チヤホヤされやがって。)
ゆかりの腹の中で、マグマのような嫉妬が煮えたぎった。何の根拠もない。ただ、自分が得られない称賛と優遇をエリカが浴びているという、それだけの理由で、エリカに世の中はそんなに甘くない、顔だけでは生きていけないことを教えてあげようと考えた。
翌朝、ゆかりは行動に移した。
オフィスビルにテナントとして入っているコンビニエンスストア。ゆかりは菓子パンを手に持ち、通路の陰に身を潜め、エリカを待ち伏せした。
やがてエリカが来店し、飲み物を選んでいる隙を狙って、ゆかりはそっと近づいた。その黒い塊のような体躯からは想像もつかないほど素早く、ゆかりはエリカのバッグの開口部に手を差し入れ、菓子パンを忍び込ませた。エリカは全く気づかず、ゆかりは足早に立ち去った。
オフィスに戻ったゆかりは、エリカの出社をデスクで待ち構えた。ゆかりはすでに興奮の頂点にあった。
「私見たの!今朝、あの子が万引きしてたのよ!しかも、盗んだのは菓子パンだったの!そんなものも買えないなんて貧乏なのね〜」
周囲の社員がざわめく中、エリカが「おはようございます」と笑顔で出社してきた。ゆかりはすかさず立ち上がり、その体躯を揺らしながらエリカに詰め寄った。
「あんた!ちょっと待ちなさい!そのバッグに“何を入れてるの?”見せなさいよ!」
ゆかりは強引にエリカのバッグに手を突っ込み、中を漁り始めた。しかし、出てきたのは財布や手帳などの私物しか入っていない。
「おかしいわねぇ……!」
ゆかりは信じられないというような顔で、なおもバッグを覗き込む。
「私は確かに菓子パンを入れたんだけど、なんでないのよ!」
その下品で大きな声がオフィスに響き渡った。周囲の社員たちは失笑したが、ゆかり本人は何が可笑しいのか全くわかっていなかった。
その時、別の部署の女性社員、田中が怒った顔で走り寄ってきた。
「ちょっとゆかり!私のカバンに菓子パン入れたのゆかりなの!?」
ゆかりは、悪びれる様子など微塵もない。
「あーごめんごめん!間違えて入れちゃったかも〜!本当はエリカのカバンに入れたつもりだったのに〜」
ゆかりは大声で笑う。田中は怒りに震えながら、空になった菓子パンの袋を見せた。
「何するのよ!美味しそうだったから食べちゃったじゃない!」
田中は怒鳴ったが、ゆかりは「ごめんごめん」と笑ってすませた。
田中は菓子パンの空袋を持ちコンビニへ行き、そこで店員に事情を説明した。謝罪と代金を支払うと申し出たが、コンビニの店員は「お客様は悪くないのでお代はいらない」と断った。
オフィスでその話を聞いたゆかりは、次の策を練っていた。
(なーんだ!結局、謝れば済むことなんだ。お金も払わなくていいし、怒られないから大丈夫!)
ゆかりの法則:謝れば済むことはたいしたことじゃない!
後日、ゆかりは再びコンビニでエリカの姿を探した。そして、またもやエリカのバッグにお菓子をこっそり入れる。手慣れた様子で足早に立ち去り、デスクでエリカが出社してくるのを待ち構えた。
しかし、今回もエリカのカバンにはお菓子は入っていなかった。
すると、また別の部署の社員がカバンの中を見て騒いでいる。
「何このお菓子?私こんなの持ってたかな?」
ゆかりは、またもやターゲットを間違えたことに気づき、「しまった」という表情で、顔をすぼめて手で額をパチンと叩いた。
その社員がゆかりの元へ走り寄ってくる。
「ねぇゆかり!これ、あなたが入れたんでしょ!?」
ゆかりは得意のセリフを繰り返す。
「ごめんごめん!間違って入れちゃった〜。エリカのカバンに入れたつもりだったのにね〜。ごめんね〜」
ゆかりは笑いながらお菓子を受け取る。そして、再び成功体験を胸に刻んだ。
(こうやって物を貰えばいいんだ。謝ればお金も払わなくていいし、怒られないから大丈夫。)
ゆかりの法則:謝れば許されるから、「万引きさせた」ゆかりは世界で一番エライ!
ゆかりは、「謝ればお金も払わなくていいし、怒られないから大丈夫」という新しい法則を成功体験として確信した。
次こそはターゲットの新入社員エリカを陥れようと、またコンビニで待ち伏せをした。
今回は万引きと認識されやすい流行りの化粧品を選んだ。そして、間違いなくエリカのカバンにペンシルアイブロウを忍びこませることに成功した。
デスクでゆかりは、エリカが出社してくるのを今か今かと待ちわびた。そして周囲に、「今度こそ間違いなくエリカのカバンにペンシルアイブロウを入れた」と豪語する。
エリカが出社してくると、ゆかりはすかさずカバンに何か入っていないかと、またもや勝手に漁り始めた。
「これこれ!」
ゆかりが、コンビニで忍びこませたアイブロウを取り出す。エリカは純粋に目を丸くした。
「何それ?」
ゆかりはしたり顔で、
「さっき間違って入れちゃったのー」
と言いながら、アイブロウを自分の化粧ポーチにしまう。エリカは何の疑いもなく、
「そうだったんですね」と返すだけだった。
ゆかりは、またしても経験値を増やしたと武勇伝を語った。
「フフフ。欲しいものはこうやって手に入れればいいんだ」と。
そして、化粧ポーチからアイブロウを取り出し、手に持って眺めながら呟く。
「こんなものじゃなくてもっといいものが欲しいわね」
休日明け、ゆかりはオフィスで得意げに話している。
「昨日ね、旦那とデパートへ買い物に行ったのよ。色々見て回ったんだけど、どれも気に入らなくて」とセレブぶった口ぶりで話す。
「それでさー」と、話を展開した。
「家に帰ったら、旦那のカバンから女性物の服が出てきたのよ!びっくりしちゃって、なんでこんなの持っているの?って旦那に尋ねても、わからないとしか言わないのよー!」
ゆかりは笑いながら言った。
その日の午後、オフィスに警察がきた。
社員による万引きが常習化していることから、コンビニがついに被害届を出したのだ。
警察官2名が、厳粛な顔でオフィスを見渡している。ゆかりはコンビニへ謝罪をしなかったエリカは許されていない、だから警察がきてとうとう捕まる。これで生意気なエリカの鼻をへし折ることができたと、意気揚々とした様子だった。
上司が困った顔つきで近寄ってくる姿を見て、ゆかりはエリカはここよっと手招きをする。すると上司はゆかりに声をかけ警察と話をするよう伝え、ゆかりは説明ならいくらでもしてあげる♡と軽い足取りで警察官の元に歩いて行った。
しばらくして、ゆかりの声が響き渡った。「私は悪くない!盗んだのはあの子でしょう!」。ゆかりは、エリカを指さして言い張る。警察官から、ゆかりの行為は窃盗であることの説明を受けても全く理解できない。
警察官がどれだけ説明しても、ゆかりは「私はカバンに入れただけ」「だから盗んだのはあの子じゃない」「あの子は謝まりもしていないのになんで許されるの」と、全く理解を示さない。
呆れた顔の警察官が、ついにゆかりに手錠をかけた。
それでもゆかりは何も理解ができず、黒い服を着た太い身体を揺らし、絶叫した。
「ちょっと!若いからって、可愛いからって、痩せてるからって許されるなんて不公平よ!」
ゆかりは、最後まで自分の嫉妬と歪んだ成功体験が引き起こした現実を理解できず、不公平な世界への文句を叫びながら、オフィスから連行されていった。
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