雑魚スキル『威圧』を使い続けたら、いつの間にか世界最強の『恐怖卿』として君臨してしまっていた

だん

雑魚スキルと追放宣告

酒場の喧騒が、やけに遠くに聞こえた。

目の前で、昨日までの仲間だったパーティ『赤獅子の牙』のリーダー、ゲイルが冷たく言い放つ。


「―――だから、アレン。お前は今日でクビだ」


その言葉は、まるで現実感のないまま俺の頭の上を滑っていくようだった。


「な……なんで、ですか……? 俺、何か……」


「まだ分かんねえのか? お前のスキルだよ」


ゲイルは苛立たしげにテーブルを指で叩き、俺の銅製の冒険者カードを睨めつけた。そこに刻まれたスキル名は、【威圧】。


この世界では、誰もが十五歳で女神からスキルを授かる。そして、そのスキルのランクが人生を決めると言っても過言ではない。

俺の【威圧】は、最低のFランク。効果は「相手を少しだけ萎縮させる」。ゴブリン相手ですら、一瞬動きが鈍れば良い方という、あまりにも頼りない代物だった。


「この前のゴブリンの洞窟、覚えてるか?」

隣に座る魔術師のセーラが、嘲るように唇を歪める。

「あんたがゴブリン一体に必死に『威圧』をかけてる間に、後ろから別のゴブリンに奇襲されたじゃない。あのせいで僧侶のミナが怪我をした。迷惑なのよ」


「そ、それは……申し訳ありません……」


反論の言葉など、出てこなかった。

事実、俺は一体のゴブリンを足止めするのが精一杯で、完全に周りが見えていなかったのだ。


「気休めにもならねえスキルで、パーティの足を引っ張るだけの穀潰しはもういらねえんだよ。おれたちはCランクを目指してるんでな」


ゲイルはそう言って席を立つと、テーブルに銅貨を数枚、投げ捨てた。

「最後の餞別だ。もう俺たちの前に顔を出すな」


俺が何かを言う間もなく、三人の背中は酒場の賑わいの中に消えていった。

一人取り残された俺の周りから、ひそひそとした笑い声が聞こえる。Dランク冒険者のパーティ追放なんて、ここではよくある酒の肴だ。


(……これから、どうしよう)


ギルドに登録して二年。やっと拾ってもらえたパーティだったのに。

重い足取りで酒場を出ると、ひんやりとした夜風が頬を濡らした。俯いて歩いていると、聞き慣れた声に呼び止められた。


「アレン!」


幼馴染の治癒師、リリアだった。明るい栗色の髪を揺らし、心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。

「ゲイルさんたちから聞いたわ……ひどい! アレンが誰よりも努力してたこと、私、知ってるのに!」


自分のことのように怒ってくれる彼女の優しさが、今は少しだけ、痛かった。


「……いいんだ。俺が、弱いのが悪いんだから」

「そんなことない! スキルのランクなんて関係ないよ!」

「関係あるさ。現に、俺は追放されたんだ」


思わず、棘のある言い方になってしまった。リリアは少し悲しそうな顔をしたが、すぐに気を取り直して、まっすぐに俺の目を見た。


「じゃあ、私のパーティに来ない?」

「……だめだ」


彼女のパーティは、将来有望な若手で構成されたBランクパーティだ。俺のような雑魚が入れば、彼女の評判に傷がつく。迷惑はかけられない。


「俺、一人でやってみるよ。まだ、諦めたくないんだ」

「アレン……」

「俺にはこれしかないんだから。だったら、やるしかないだろ」


何を、と聞かれたら答えに窮する。

どうすればいいのかも分からない。

それでも、ここで立ち止まってしまえば、本当に全てが終わってしまう気がした。


リリアの優しい笑顔に見送られ、俺は安宿への道を一人、とぼとぼと歩き始めた。

心の中には、一つの、あまりにも小さな決意が灯っていた。


追放されたのは悔しい。自分の弱さが不甲斐ない。

でも、俺にできることは、たった一つだけだ。


「明日も……ゴブリンを、威圧しに行こう」


それは英雄の誓いでも、復讐の狼煙でもない。

世界がどうとか、最強がどうとか、そんな大それた話じゃない。


ただ、不器用な俺にできる、唯一のあがきだった。

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