第5話 緑の大地



――――デンドロン皇国。ここはそう呼ばれる国らしい。


「お待ちしておりました。デラフィト・ファヌアルスさま。このアベル、召喚に応じ参上いたしました」

うおぉ、長い魔法の呪文を……っ!このひとそらで呼んだぞ……っ!

【だから魔法の呪文じゃねえって。あと、当然だ】

そうか……このひとが。ダークグレーの髪にオレンジレッドの瞳の青年。一見ヒト族に見えるが中身は神。古代神の1柱だ。


しかし……どうしてか見覚えがある。アルベロの眷属神だから……?アルベロとの記憶ゆえだからだろうか。


【お前は多分、魂の方を見ている】

は……?


【俺と同化したから、無意識に視る感覚が働いてるんだ】

彼の……魂を視てる……。うーん……よく、分からない。――――が。


「あの、ひとの姿の時は、ティルダ。ティルダは普通は女名前だし……ティルでかまわない」

「……ひと……?」

目の前のアベルが首を傾げる。


あの、アルベロ。俺たちのことは……。

【呼ぶ時に伝えてる】


じゃぁ……何で……。

【お前の耳が長ぇからだろ】

……あ。


「あの、俺はエルフ族と地底種の血を継いでいるから」

「そうでしたか。驚きました」


「あはは……」

でも、第一印象は、悪くない……?


【当然だ。俺の眷属神なら、お前の眷属神でもあんだ】

そ……そう言われてみればそうかも。


「では早速魔界に移動しましょう、ティルさま」

「……さまは別にいらないよ?」

「ですがそう言うわけには……」

「アルベロ……デラ……ファヌア……ス?のことは任せるけど、俺は呼び捨てで呼んで?」

「しかし……」

アベルが惑っている時だった。

【おい、何で俺の本名がそらで言えない】

だって長いんだもぉんっ!

【【【あと、お前らもアルベロでいい!】】】

何か今、アルベロの声響いたような。

【眷属神たちに声を届けたんだよ】

その言葉は本当らしく、アベルがにこりと微笑む。


「承知しました、アルベロさま」

【よしよしイイコだ】

俺の方が見た目年下だから、何か不思議な気分だ。


【これから慣れる。コイツは年をとらないし、俺とひとつになった以上お前も成長が止まる】

え……っ!?せめてアベルと同じくらいの18歳くらいにしてよ。


【じゃ、その年齢にするか】

す……するって……っ。

その瞬間、関節がバキバキっと鳴った気がした。


「ギャ――――っ!?」

俺の身体が一気に18歳まで……成長したのである。いきなりだなんて、聞いてないっ!!


「アルベロおおおぉぉぉぉっ!?」

【はっはっはっ!】

呑気に嗤うなぁ――――っ!まぁ、無事に18歳の見た目になったわけだが。


「あ、歩きづらい……」

急激な関節痛の余波でくらくらするぅ……。

「抱っこしましょうか……?」

真顔で何言ってんの……?このひと。見た目同い年じゃん!?


「いや、さすがに重いだろっ!?」

「俺は魔族の中でも魔鋼種なので……余裕です」

ま……こうしゅ……?

その瞬間、アベルの背中の布が盛り上がり、背中から2対の巨人の腕が飛び出たあぁぁっ!?しかも身体の周りに剣が6つも出現したんだけど何これええぇっ!?


【魔鋼種と言うのは、ご覧のような見た目で、浮いてる剣は身体の一部。剣含め身体全体が魔鋼並みに頑丈で怪力だから余裕だぞ。あと、魔鋼はやつらが精製することで磨かれる鋼だ】

何か名前似てると思ったらそう言うことおおぉっ!?そして……怪力。


「ですから、ほら、ティルさま」

ひぃうっ!?ごく当たり前のように巨大な掌で周囲囲まないでえぇっ!

「か……肩だけ貸してくれればいいから」

「そう……ですか……?」

アベルは巨大な腕を背中に収納したが、周囲を威嚇するように剣が浮いてるのは何でだろうな……?


「まずはフェヌアに向かいますか」

「……うん。これの元々の持ち主だった母さんの痕跡を捜したいんだ」


「こちらは魔鋼石ですね」

さすがは魔鋼種……ひと目で分かるんだ。


「俺の身体は原初の魔鋼種なので、元々の持ち主の居場所なら石に触れれば探れますよ」

「そうなの……?でも、持ち主以外がもったらこれ、暴走するんじゃ……?」

「魔鋼種は別です。精製主ですから」

確かに……そうじゃなけりゃ扱えないわな。


「それじゃぁ、お願い」

ペンダントの石をアベルに差し出せば、アベルがその上から石に触れ瞳を閉じる。


「持ち主は……魔界にいますね」

「ま、魔界!?」

エルフ族の母さんがどうして……いや、半分魔族だったからか……?


「地底種の区画にいるかと。早速向かいましょう」

地底種……まさに俺と母さんのルーツだ。

「いいの……?」

「えぇ。せっかくですから先程の飛翔で行きましょう。魔界と人類側は、互いに行き来する際は転移が出来ないので」

いや、むしろ転移魔法なんてのもあるんだ。

【魔法じゃない。神の力だ。欲しいならスキルで付けるが?】

簡単に言うなぁ。

【簡単だ。指先ひとつでできる】

マジで簡単だし……!?


「じゃぁ行きましょう」

そう言うとアベルが飛翔するので、俺も続く。


「眷属神ってみんな飛行とかできんの?」

【【俺の眷属神なんだ。神通力で色々とできんぞ。転移は魔法もあるっちゃある。古代魔法の類いだが……コイツらは神の力で可能だ】】

アルベロがアベルに届くように告げる。これは……いわゆる念話ってやつ……?

【そう言うことだ】

続いて、アベルも頷く。


「ほかにも探索、鑑定とか、催眠洗脳とか……一部魔族の技術でできるものもありますが」

あの、最後……ちょっと恐いもの言わなかった……?一部の技術って探索とか鑑定のことだよね!?

【はっはー、どうだかなー】

アルベロもちゃかさないでぇ~~っ!!


「ほら、ティルさま。あそこに見えるのが境界の街、フェヌアです」

目下に見えるのは、自然に囲まれた土地。


「皇国には人類の3種族全てが暮らします。あそこはエルフ族が主に暮らす区域です」

エルフ族……。母さんがこんな緑溢れる土地を出て、あの公爵の手に落ちてしまったのはやはり地底種の血を引いていたから……?皇国は魔族とも交流があるのに。

【それでも異物は、異物。それに気付いてしまったら、止めるのは容易じゃない】

アルベロは俺が思い出していないそれを、たくさん見てきているんだもんな……。


「この先の山々の向こうに地底種が暮らしています」

アベルが指し示した方向には緑の山々、そして森が続く。

「あれ、でも地底種って地底には暮らしていないの?」

森暮らし……?


「彼らは土魔法に長けているので、その名が付いています。ほかにもここいらは夏は暑く、冬は極寒。自然の脅威から身を守るためにも地下に迷宮や街を作ります。上は森ですが、下には地下都市があるんですよ」

「地下都市……!」

【魔界に入れば人類の大地とがらりと気候が変わる。それでも昔よりはましになったのさ。何せ上は緑に溢れているから、食い物には困らない。冬の間は魔物の狩りと、秋の間に溜め込んだ食糧がある】

それも生きていくために仕方なくだったのか……。


【そんな顔をするな。あいつらも今の暮らしには満足してる。だからあそこに住んでいる】

うん……そうだよね。

心の中に響くアルベロの言葉に頷くように、アベルと共に下降した時だった。


「お待ちください!姫さま!」

姫……?男の声が響いた瞬間。


「きゃあぁぁぁぁ――――っ!?」

空から、女の子が降ってきたぁぁ――――っ!?


「ティルさまへの不敬。神罰を……っ」

「真面目な顔で何言ってんの!やめなさい!剣下ろせばかっ!」

喝を入れれば、アベルがすぐに切っ先を下に向ける。

受け止めなきゃ……っ!ま、間に合わない……っ!?女の子が木に激突するぅっ!?

そう焦った時、雄々しい腕が伸び、女の子をキャッチした。


「……アベル?」

「この娘、どうしましょう?煮ます……?」

「煮ませんんんっ!」

何で思考が物騒になるんだか……。

そしてアベルが引き寄せた女の子は……俺の見た目と同じくらい。長い赤髪にオレンジ色の瞳、肌は抜けるように白く両頬に刺青がある。

頭からは黒い2本の角が生えており、俺と同じ長い耳を持っていた。でも……頬の刺青からもエルフ族ではなく。


【地底種だ】

だよね……?

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