〜拝啓、悪役令嬢さま〜 婚約破棄ですか?ご愁傷様です

葵ゆきこ

第1話

先日、リオルド・バルティーユ王太子の婚約者として選ばれた、ミリアン・アドレイユ侯爵令嬢が主催するお茶会に呼ばれたアンネリーゼ・シルスタイン侯爵令嬢は、その会場へと到着した。


「あらぁ?随分と遅いご到着なのね、アンネリーゼ様」


「……到着が遅くなり、申し訳ございません。

皆様ごきげんよう。

ミリアン様、本日はこの様な素敵な会にお招きいただきありがとうございます」


アンネリーゼは手短に挨拶を済ませると、用意されていた席へと向かい着席した。


招待されていた他の4名は、日頃からミリアンの取り巻きをしている見慣れた令嬢達だった。


彼女達はここぞとばかりにアンネリーゼが遅れてやって来たことを蔑んでいたが、アンネリーゼは決して遅れてなどいなかった。


招待状に記載されていた開始時間より少し早めに到着したはずなのだが、何故かアンネリーゼを除く全員がすでに揃ってお茶を嗜んでいた。


アンネリーゼが着席したのを見たアドレイユ侯爵家の使用人が、何かに怯えているかのようにカタカタと手を振るわせながらお茶を注いた後、手が滑ったとは言い難いようなタイミングでカップに入ったお茶をアンネリーゼへとぶちまけた。


「……っ!も、申し訳ございません!!

すぐに別のお茶をご用意致します」


そう言って使用人が足早に去っていくと、ミリアンが意地の悪い笑みを浮かべながら言った。


「あらあら…使えないうちの使用人が、申し訳ございませんわぁ。

せっかくのドレスが汚れてしまいましたわね…

ですが、落ちぶれた貴女には汚れたドレスの方がお似合いでしてよ?」


その言葉に合わせ、取り巻き令嬢達がアンネリーゼを嘲笑うようにして言った。


「本当ですわね。

未来の王妃であるミリアン様のお美しさとは対極にいる方ですもの…ドレスだけが美しいだなんて不釣り合いですわ」


「不運でしたわねぇ…遅れてやってきた罰かしら?」


「…………」


アンネリーゼはそれらの言葉には反応せず、毅然とした態度で沈黙を貫いていた。


その様子を見ていたミリアンは、蔑むような目をすると冷たく言い放った。


「あーあ、黙ってばかりでつまらないわぁ。

まぁいいわ、今日は貴女に忠告をするためにこうして呼んだのだから。

婚約者として選ばれなかったくせに、リオルド様に気にかけてもらおうだなんて…なんて図々しいのかしら!?

今度リオルド様に近づいたら…タダじゃおかないわよ?」


「お言葉ですが…私から声を掛けた訳ではないのは、リオルド殿下のお隣にいたミリアン様ならご存知のはずです。

そして私にも既に婚約者がおりますので、リオルド殿下とそういった関係になる心配はご無用かと思います」


「っ…!貴女のそう言うところ、本当に嫌いだわ…!

……はぁ、もういいわ。帰ってちょうだい」


「では、お言葉に甘えて失礼させていただきます」


アンネリーゼはそれだけ言うと、踵を返して去っていった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


アンネリーゼの生家であるシルスタイン侯爵家と、ミリアンの生家であるアドレイユ侯爵家は、共に隣国から本国まで幅広い物流管理を取り仕切る商会を営みとするライバル同士だった。


アンネリーゼが10歳の頃、この国の王太子であるリオルドと歳が近く、生まれも育ちも申し分のない令嬢達が集められ、未来の王妃候補達の妃教育が始まった。


アンネリーゼもミレイユも共にリオルドとは同い年で、商会の持つ後ろ盾や異国との交易の慣れを考えると、二人は王妃候補の中でも最も有力だと誰もが思っていた。


たが実際は、家業の手伝いを積極的に行い交易の知識を身につけていたのはアンネリーゼだけで、妃教育の飲み込みが早く一番優秀だったのもアンネリーゼだった。


バルティーユ王国では代々、王太子の19歳の誕生日に集められた王妃候補の中から婚約者が選ばれ、20歳の誕生日に結婚式を挙げるというしきたりがあった。


そんなリオルドの19歳の誕生日を間近に控えた頃、アンネリーゼを取り巻く環境は一変した。


いつものように王妃候補達が集まり、リオルドを囲んで親睦のためのお茶会を開いていたその時、突然マルクス宰相がその場に現れアンネリーゼは拘束された。


「アンネリーゼ・シルスタイン、シルスタイン商会が行っていた密輸の罪で、しばらく身柄を拘束する」


「……密輸の…罪?

我がシルスタイン商会がそんなこと行うはずがありません…!

きっと何かの間違いですわ!」


「既に調べはついている。

大人しくついて来てもらおうか」


そう言ってアンネリーゼを連行しようとするマルクス宰相に、リオルドが言った。


「待て、僕もアンネと同じ場所に連れて行け」


「……かしこまりました。

案内はこちらの者にさせましょう。

私は一旦失礼させていただきます」


マルクス宰相は都合が悪そうに一瞬表情を強張らせると、アンネリーゼを捕らえていた王宮兵に何かを伝え、その場を去っていった。


アンネリーゼとリオルドが連れて来られたのは、王宮内にある見慣れた応接間の一室だった。


「リオルド様、お気遣いいただきありがとうございます。

私一人ではきっと、牢に入れられていたでしょうから…」


「いいんだ。アンネを一度でも牢に入れるだなんて…僕が許せなかっただけだから。

それにしても密輸だなんて、あのシルスタイン卿が行うはずがない。

一体どういうことだ…?」


「はい、私もお父様が密輸など…あり得ないと思っています。

積荷の管理は徹底していますし、申告も怠ったことは一度もありません。

誰よりもルールに厳しい方ですから…」


「……そうだな。

僕もつい話に花が咲いてアンネを門限までに返すことが出来なかった時には、もの凄い形相で叱られたのを覚えているよ。

……僕もシルスタイン卿を信じている」


「リオルド様…ありがとうございます」

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