第15話 文化祭-2

「「「おおーーーっ。」」」

 第一部のメンバーが着替えを終え、お披露目となった。

 それまでは異能で小早川澪が作成し、個々で問題ないか試着は行ったものの、クラスメイトへの公開はしていなかったのだ。衣装で大きく印象は変わる。無論、性的なものにならないように中世ヨーロッパ風のロングスカートに肘先まである袖。しかし、制服姿や体育服姿ばかりを見てきたクラスメイトにとっっても刺激的なものだった。

「グフ、グフフ。想定通り。」

 陰で隠れながら怪しげな笑い声を上げるのは作成者である小早川。

「「「そんなことよりーーー。」」」

 ニタニタした笑みを高橋、中川、日高が浮かべる。視線の先にいる谷﨑、永瀬は数歩後ずさりするも、壁に行方を阻まれる。

「なにこれ。めっちゃ可愛い。」

「写真撮って良い?撫でて良い?」

「落ち着いた雰囲気もあるメイド服によって可愛さと清楚感がマッチしてるよ。」

「まあまあ、落ち着いて。」

 グイグイと迫る3人。見かねて百田が宥める。少しは反省したかと思いきや3人は止まらない。

「そう言っている2人に負けないくらい可愛いよ。」

「写真撮って良い?ハグして良い?」

「いつものカッコよさに可愛さがプラスされた感じー。」

 標的が変わっても、同じような熱量で話しかけてくる。谷﨑や永瀬はかわいい系、百田はどちらかと言うとカッコいい系である。どちらが良いと言うのではなく、どちらも素晴らしいのだ。

「にしても、黛君、似合ってるね。」

 森が黛に話しかける。元々、すらっとした長身に、端正な顔立ち。そしてミステリアスな表情。うん。これは女子からの人気がうなぎ上りだろう。今は、メイド服になった女子に首ったけになっているが、これは売り上げが楽しみである。

 盛り上がる中、意義を唱える者が4人程。

「――何でキッチン担当の俺まで着替えなくちゃいけねーんだよ。」

「まあ、俺も着ないで良いなら、それに越してことはないんだけど。」

「それに俺はずっといるんだから制服で良いんじゃないか?」

「そうですよ。2日間ずっとこれですか?」

 声の主はキッチン担当の倉岡と八木、そして非常時のサポート用の大瀬良と雪乃である。

「「「ダメ。こう言ったことは全員でやらなくちゃ。」」」

「「「あっ、はい。」」」

 女子の強気な拒否に反論できず、飲み込むだけだった。

「いらっしゃいませ。ご主人様。お嬢様。」

 2年1組の教室は多くのお客様、いやご主人様とお嬢様が訪れる。お目当ては特別な衣装に包まれた高校生だろう。

 物腰の軟らかい井口。誰とでも仲良くなる谷﨑と永瀬。立ち振る舞いからカッコいい百田と黛。初めての仕事であるが故に上手くいかない所もあったが、高校生のご愛敬の範囲ないで収まった。また、周囲の見回りなどもしていた大瀬良と雪乃がしっかりと広告塔の役割を果たしていた。

 第一部は高評価のまま終了した。


 午後になると第二部が始まった。しかし、第一部では無かった問題が発生した。

「私の衣装はどこ?」

「ほら、それ。」

「冗談だよな?どう見ても執事服なんだが?」

「冗談じゃないよ。それで合ってる。」

「ごめんなさい。私の異能で作れるのが、執事服が5着、メイド服は4着までで。どうしてももう1着作れなかったの。」

 大瀬良と小早川が説明をするが、緒方は納得しない。

「何で私だけ男装なんだよ。だったら他の人に代わってもらえば…。」

「じゃあ、上原さんに代わってもらう?」

「……もういい。」

 不貞腐れたように執事服を搔っ攫い、更衣室へ向かう。緒方の後ろ姿を小早川はにやにやしながら見送るのだった。


 第二部の衣装披露では、リアクションが大きかったのは男子についてだった。

「「「カッコいいー。」」」

 クラスメイトの一部は他の出し物を見に行っている人もいるが、大部分はこの衣装お披露目に参加している。その視線は森、若菜、渡辺の3人に集まる。

 同じ衣装ではあるがそこから醸し出される雰囲気は異なる。王道アイドル型イケメンの森翔太。子供っぽい悪戯っ子な若菜新。マイペースでミステリアスな渡辺優。執事喫茶と言うより、ホストクラブの執事イベントのような華やかさがある。

 しかし、その後に現れた人物にクラスメイト、お客様、通行人、その全ての視線が釘付けにされる。上原結奈と緒方凛である。メイド服を着た上原はやや弱弱しく保護欲をそそられる。その手を取り、エスコートする緒方は執事服を着ており、上原と相まって、物語の1ページのような錯覚を引き起こす。健康的な日焼けをした肌に狙った獲物は決して逃さない強い目を持つ緒方は気安く触れると火傷しそうな危ない雰囲気がある。その雰囲気を持ちながら自然と上原をエスコートする優しさを併せ持つギャップが備えている。息を飲む美しさがそこにはあった。

 第一部の勢いをそのままに第二部も順調な滑り出しを見せた。物珍しさに見に来ただけの人物も続々と現れる。


「さあ、お嬢様こちらへ。」

 緒方が手を差し出し、席へと案内する。一切の無駄がなく、慣れた手つきで自然な動きである。席に近づくと椅子を引き着席を促す。

「お嬢様、失礼します。」

 着席するや否や、メニューを取り出す。

「本日のメニューでございます。どれもシェフの自慢の一品ですよ。」

 実際はどれも既製品ばかりであるが、ご愛敬である。

「どれにしようかなー。」

「そうですね。本日は食事の予定でございますか?それとも休憩をご所望でございますか?」

「休憩です。」

「そんな固くならなくて良いですよ。休憩でしたら、この”キュートな特製ストロベリーパフェ”がお勧めです。何たって、お嬢様は世界一キュートな方ですので。」

「はい…。」

 後ろからメニューを覗くようにしながら会話を繰り広げる為、どうしても顔が近くなる。注文が決まった頃には、お嬢様の顔はストロベリーよりも赤くなった。


「姫。お帰り。さあ、いつもの席で待ってて。」

 このメイド・執事喫茶で“姫”呼びを許されたのは森のみである。理由は「何か似合っているから」と周囲からゴリ押しされたのだ。更に“いつもの席”というのは特に決まっていない。ただここには一つの工夫で解決している。

「ほら、奥にある姫の胸元のポケットと同じ花があるところだよ。」

「えっ、いつの間に。」

(手品師じゃないんだから…)

 内心ツッコミながら執事プレイを続けるのだった。


 他のメンバーもそれぞれの役割を果たし、第二部も大盛況の中、終えた。

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