第13話 修学旅行-2

 修学旅行四日目、東京での自由時間だが、二日目同様に百田、永瀬、八木の3人で行動することになった。雪乃と本田は例のごとく美術館巡り。日高は他のグループと合流するらしい。ただ、別れる時の様子がいつもと違っていたのだけが気になった。あれは確実に男である。雪乃と本田は二日目に何かあったのだろう。女の勘である。


 外部から見ると、綺麗な女子2人にどこにでもいそうな男子1人である。

 1人は美しく上品な印象の百田。1人は活発な元気印の永瀬。それに引き換え八木は控えめに言ってもモブである。しかも気が弱そう。その3人で都会を練り歩く。慣れない足取りで―。

 ただ何事もなく終わればよかったが、そうは問屋が卸さなかった。

「ねえねえ、君たち、修学旅行でしょ?俺達ここら辺に詳しいからさ。」

 如何にも軽そうな男3人が八木がいないタイミングを見計らって女子2人に迫る。

「私達、学生なので、そういうのは結構です。」

「今、他のメンバーを待っている所なんで、他所を当たってください。」

 それぞれ否定を言葉と態度で示す。だが、人数も体格も勝る男達は引かない。

「怒った顔も可愛いね。」

「そんなこと言わずにさ。ちょっとだけで良いから。」

「楽しい所知ってるよ。」

 三者三様に軽口を叩く。

「いい加減にしてください。そろそろ不快ですよ。」

「もしかして暇なんですか?誰にも相手にされなくて寂しいんですか?」

 否定の言葉に強さが宿る。永瀬は最早煽っている。周囲も何事かと騒ぎ始める。男達もプライドがあるのだろう。強引にでも持ち帰ろうと、肩に手を回そうとする。しかし、触れることはできなかった。

 男が急に吹っ飛んだのである。

「ぐはっ。」

「何が起きた?」

「おいどうなってる?」

 混乱している残り二人にも酷い衝撃が加わり、顔と腹部に痛みが走る。

 それを女子はニコニコと笑顔で見ている。

「な、何なんだよ。お前ら。」

 怯えた声を出し、走って逃げていった。その滑稽な姿に笑いがこみ上げる。

 一頻り笑い終えた後、空中に「八木君。」と呼びかける。

 八木は姿を現さずに答える。

「何だよ。」

「いや、ありがとうってね。」

「うん。ありがとう。」

 先程の攻撃は八木が異能で透明化して行ったのだ。

「つーか、永瀬はあんまり煽んなよ。」

「まあ八木君を信頼してたってことだよ。というか結構前から見てたでしょ。」

「まあな。それに百田さんもスマホ持ってなくてよかった。持ってたら絶対動画撮って、より問題が大きくなるところだった。」

 確かに百田がスマホを持っていたら動画を撮っていた。その様子を見た彼らが暴力に訴える可能性は低くない。

「っていうか何で能力解かないの。」

「お前ら目立ち過ぎだから。」

「「あっ。」」

「気づいてなかったのかよ。」

 周囲には野次馬が屯っていた。

 八木は呆れて、二人は急に恥ずかしくなったのだった。


 それから少し時間が経ち、周囲からの注目もなくなった頃―――。

「すみません。少しお話良いですか?」

 若い女性が3人に声を掛けてきた。女性とは言え、先程の件もあるので、警戒しつつ次の言葉を待つ。

「失礼。自己紹介がまだでしたね。私こういう者です。」

 差し出された名刺には某有名芸能プロダクションの名前が入っている。

「立ち話も何ですし、ちょっと喫茶店に入りましょうか。勿論外からも見える所で良いですし、3人一緒にどうぞ。奢りますよ。」

 警戒心を持ったまま、小林章子と名乗る彼女について行く。


 アンティークを基調とした落ち着いた雰囲気の喫茶店だった。

「と言うことで、是非百田さんをスカウトしたいと思っています。」

 10分ほど企業の資料や他のタレントなどの実績などを説明する。コップにはジュースの結露がくっついている。

「それで、何で私なんですか?」

 最も重要な内容について問う。

「実は先程の一件、見ていたんです。万が一の時には警察を呼べるように準備をして。しかし、お二人は男三人を退けた。どうやったかは分かりませんが、演技とは思えなかった。その後の笑い合う姿。非常に美しいと思ったんです。これは伸びると確信しました。それに…」

 小林はスマホを見せると、X(当時のTwitter)である一つの写真がバズっていた。タイトルは「東京で見つけた奇跡の一枚」。そこには百田と永瀬が笑い合う姿。良いねとコメントが数万に及び、現在進行形で増えている。

「「えっ。」」

「もう既に“時の人”なのです。」

「だとすると何で私だけなんですか?永瀬さんも…。」

「それは…。」

 口ごもる小林。だが、聞かなければ納得いかない。百田から見ても永瀬は非常に可愛い存在である。実際、さっきのSNSでも永瀬に対する高評価もあった。

「いや、私は良いよ。芸能人になりたい訳じゃないし。」

「いえ、答えます。うちの事務所では既に“かわいい系”のタレントは多く在籍をしています。現在求めているのは“綺麗系”と呼ばれる人物です。これは現在所属しているタレントを守る為でもあります。」

 遠慮したように断る永瀬。

 小林さんが内情を率直に話してくれたことには寧ろ好印象だった。

「ところで、私はタレントとして所属するつもりはないですが、親友の子が熱烈にアプローチをされているのです。迷惑かもしれないですが、私の質問とささやかなお願いを聞いてくれますか?」

 全て本音だったが、有無も言わせない圧があった。


 コップにあった氷が全部溶けた頃、3人は店を出た。

「じゃあ、これから頑張ってね。有名人の百田さん。私も卒業したらマネージャーとして支えるから宜しくね。」

 卒業後には永瀬は百田のマネージャーになった。それまでは小林が担当し、永瀬が仕事内容に慣れたらマネージャーになることが決まった。

 正に人生を動かす修学旅行になったのだった。



※このエピソードでのミッション達成者

・百田朱莉―異能『動物との会話』、ミッション『スマホの禁止(月に指定した日のみ)』、報酬『芸能界からのスカウト』

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