第6話 芽兆
宝くじの結果は意外と早かった。
連絡先を渡した日の夜
見覚えのない人からの通知が来た。
"初めまして、八百屋で働いてる
音葉と言います。
早速連絡してみました笑"
その子はバイト目的であるかもしれないが「僕に」連絡をくれた事自体に胸が少し跳ねる音がした。
いや、すこしなんてものじゃない。
宝くじに当たるなんかよりよっぽど跳ねた。
宝くじに当たったことはないけど。
すぐに返すべきか少しおくべきか
返信を書いては消してを繰り返して。
"ご連絡ありがとうございます。
漢字なんて読むんですか?"
結局、こんな業務連絡のような返事しかできなかった。
"音葉(とわ)って読みます!珍しいですよね!
いつも野菜買いに来てくれてありがとうございます!"
音葉ーー。
漫画や詩集の中から抜け出してきたような名前だった。
「名は体を表す」
とはよく言ったもので
八百屋で見た笑顔とその柔らかさを
まさに示したような名前だった。
それからラインや電話を繰り返し
お互いの年齢、音葉が20歳、
僕が25歳であること。
血液型が一緒であること。
使っているシャンプーが同じこと。
両親がどちらも飲食店を営んでいること。
自転車通勤でいつも僕が
八百屋の前を通ること。
音葉は八百屋でバイトをしながら
プロのバレエダンサーを目指して
厳しいレッスンを受けていること。
そして、そのレッスン場が僕の働いているお店から2件隣の建物であること。
色々な角度の偶然が
色取り取りのドミノのように並んだ。
仲良くなるのに時間はかからなかった。
僕はお店のバイトを探すと言う口実を完全に忘れ、
"仕事終わるの早い日今度2人でご飯行こう?"
そう送るまで5分迷った。
たかが5分。
されど5分。
サキの存在が僕の良心を揺すってきた。
僕に多少の良心は残っていることを再確認した。
でも、それでも送った。
色とりどりのドミノはもう倒れかけていた。
ひとつ倒れたら、、、、
僕の心はきっと
まっすぐ音葉へ向かってしまうだろう。
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