「王都を追放された『地味』聖女、辺境で『奇跡の薬師』になる ~モフモフ聖獣と王弟殿下に守られているので、今さら王都が崩壊しても知りません~」
第21話 第5章 辺境軍総司令官、アレクシス 5-1: 奇跡の薬・改
第21話 第5章 辺境軍総司令官、アレクシス 5-1: 奇跡の薬・改
あの『奇跡の薬草畑』が生まれてから、数日が過ぎた。
廃屋の裏手に広がった、あの小さな黒土の畑は、今やリーナにとって、この辺境で最も神聖な『実験室』となっていた。
「すごい」
リーナは、その黒土から、昨日蒔いたばかりの『王都の薬草』を、慎重に一本、引き抜いていた。
まだ、発芽してから一日しか経っていないというのに、その根は、王都の神殿で育てていたものよりも、遥かに深く、太く、大地に張り巡Rされている。
そして、その葉。
(色が、濃い)
王都で育てていたものが、ただの『緑色』だったとすれば、これは、生命力そのものを煮詰めて固めたかのような、深い『翠色』をしていた。
「きゅん!」
リーナの足元で、ブランが「ボクのおかげ!」とでも言うように、誇らしげに、そのモフモフの尻尾を振っている。
「ええ、本当に、ブランのおかげよ」
リーナは、その温かい毛玉を抱き上げ、頬ずりした。
(ブランの『聖』の力が、この大地を、ただ浄化するだけじゃない。大地そのものを『聖地』に、作り変えてしまったんだわ)
(そして、私の『活性化』の力が、その聖地で、王都の薬草の『本来の力』を、限界以上に引き出している)
リーナの薬師としての探求心に、火がついた。
彼女は、この『奇跡の畑』で育った、解熱用の薬草と鎮痛用の薬草を、それぞれ数本ずつ採取した。
そして、廃屋(薬局)に戻ると、最も重要な『調合』に取り掛かった。
(いよいよ、試す時ね)
リーナの目の前には、三つの素材が並べられた。
一つは、『死の谷』で採取した、瘴気への『抗体』を持つ「黒い根」。
一つは、『白夜の森』の源泉で見つけた、強烈な魔力毒を秘めた『血染めの星空キノコ』。
そして、最後の一つが、今しがた『奇跡の畑』から採取してきた、王都の『解熱薬草』。
(前世の知識が正しければ、こうなるはず)
リーナの脳裏に、複雑な化学式にも似た、配合のイメージが浮かび上がる。
(「黒い根」が、ベースとなる『解毒剤』)
(『血染めの星空キノコ』が、その薬効を爆発的に増大させる、触媒(ブースター))
(そして、『奇跡の畑』で育った『王都の薬草』が、解毒作用に加えて、瘴気熱や、身体の痛みを直接取り除く、『治療』の役割を果たす)
(これまでの薬が、瘴気という『毒』を、身体から追い出すだけのものだったとしたら、今度の薬は、『毒』を追い出し、同時に、瘴気によって傷ついた身体を『修復』する、本当の『治療薬』になる!)
「ブラン、お願い」
リーナは、井戸から汲んだ水に、ブランの協力を仰いだ。
「きゅん!」
ブランが、その小さな鼻先を、水差しの水面に近づける。
ブランの身体から、純白の『聖』の波動が放たれ、ただの水が、一瞬にして、白銀に輝く『特製聖水』へと変わる。
リーナは、その『特製聖水』で、まず『血染めの星空キノコ』の『魔力毒』を、慎重に、慎重に、希釈していく。
ツン、と鼻をついていた金属臭が、聖水に触れた瞬間、ふわりと、清浄な、甘い香りへと変わった。
(毒が、浄化されていく)
(薬効成分だけが、残ってる!)
次に、清めた石臼で、「黒い根」と『奇跡の畑』の薬草を、完璧な比率で、すり潰していく。
ゴリ、ゴリ、という重い音。
最後に、その粉末に、希釈した『キノコ』のエキスを、一滴、また一滴と垂らしていく。
ジュウウウ、と石臼の中で激しい反応が起こった。
三つの素材が、リーナの『聖女の力』を介在させ、激しく反応し合った。
黒緑色の粉末と、真っ赤なエキスが、互いを高め合うように、黄金色と白銀色の、複雑な光の紋様を描き出す。
(すごい)
(『奇跡の薬』の時とは、比べ物にならない力の奔流だ)
(私の新しい力と、ブランの力、そして前世の知識が、今、一つになってる!)
数時間後。
リーナの手のひらの上には、もはや『泥団子』とは呼べないものが、完成していた。
それは、指先ほどの大きさの、滑らかな、白銀色の丸薬だった。
暗い廃屋の中だというのに、その丸薬は、自ら、淡い、清浄な光を放っている。
(できた)
(これこそが、『奇跡の薬・改』)
リーナは、その白銀の丸薬を、大切に、新しい、清浄な布袋に入れた。
「ブラン、ありがとう。あなたのおかげで、また、すごいものができちゃった」
「きゅぅん」
ブランは、リーナの膝の上で、すでに、自分の仕事は終わったとばかりに、満足そうに丸くなって、小さな寝息を立てていた。
リーナは、その温かい重みを感じながら、王都が捨てた『地味な力』が、今、この辺境の地で、とんでもない『奇跡』を生み出したことを、確かに実感していた。
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