人の顔色をうまく読み取れる私が、偏にあなたの心だけは読み解けない。

@NorstarTony

第1話 心読み術師の独白

他の人が中学二年生で「中二病」にかかっている頃、私、鶴岡藤立は、他人から見れば神のような存在になれるようなスキル —— 心読み術を手に入れていた。

最初は、このスキルを得て嬉しかった。なぜなら、この能力を借りて、言葉や行動で周囲の緊張した、不思議で掴みどころがない雰囲気をより平和で安らかなものにすることができたからだ。だんだんと、周りの環境がこんなに明るくて嬉しいものになった時、その中心にいる私自身は徐々に薄暗くなり、色彩を失っていった。

そして、何かが自分の身体から徐々に剥がれていくことに気づいた。そのものは「個性」と呼ばれるものだったらしい。

だが、もし「個性」と「心読み術」のどちらかを極限の二択で選ばなければならないとしたら、私は迷わずに「心読み術」の方を選ぶだろう。なぜなら、この超能力がなく、人の顔色を読まず、いつも事を台無しにして周りの人を不快にさせる自分の方が、はるかに嫌いだからだ。

中学時代の友達も、やがて私の様々な行動の不自然さに気づいた。彼は、私が自分で築いた友達関係をほぐし、部活動を退部し、毎日席に座ってひたすら勉強する姿を目の当たりにしていた。一度、彼は冗談めかしながら少し心配そうな眼神で「藤立、薬飲み違えたの?どうしたんだ、こんなに陰鬱になっちまった」と言った。彼が心配してくれていることは分かったので、私は苦労話と今直面している困難を打ち明けた。その後、私が心読み術を身につけた時、彼は最初に、そして今でも唯一この超能力を知っている人だ。おそらく私の性格が大きく変わったせいか、それとも昔のように気軽に何でも話せなくなったせいか、中学卒業後、私たちは別の高校を選び、その後関係はだんだん薄れていった。

高校に入っても、私は積極的に交友関係を広げようとしなかった。立場を換えて考えてみれば、もし友達の中にいつでも自分の心の中を読み取れる人がいたら、相当恐ろしいだろう。彼と一緒にいると、秘密はまるで裸で通りを走るようにプライバシーがない。たとえ私が他人のプライベートな情報を奪い取って利益を得るつもりは一つもなくてもだ。

先生も何度も評価用紙に「藤立は規則を守り、言うことを聞く良い子で、自分の問題点を発見して直すことができるが、個性がなく、クラスにうまく溶け込めない」と書いていた。全ての人、私も含めて、最初の半分だけに注目する。その言葉は、私の努力と汗が無駄になっていないこと、周りの人から認められていることを証明してくれる。後の半分は、誰も気にしていないらしく、私も含めて、そのままにしていた。

だが今、「心読み術」を DNA に刻み込んでしまったことに気づいた時、はじめてこの超能力に実はずっと反感を抱いていたことが分かった。これはまるで万能なスキルのように見えるが、正にその万能さのため、悩みがつきまとうようになった。

最初は、この超能力を使って他人の心に容易に入り込み、考えや本当の意図を知ることができ、それによって速やかに合理的で正しい反応を示し、彼らを配慮し、喜好に合わせて話をすることができた。心読み術は知っている人にだけ有効だと思っていたが、後になってこの能力は知っている人に限られないことに気づいた。使い続けるうちに、知らない人、最後には見知らぬ他人の心まで徐々に読めるようになり、ただ一眼見るだけで彼らが何を考えているかすぐに分かるようになった。

今、電車の向かい側に座っているおじさんを例にしよう。彼は無表情でスマホを見下ろしているが、普通の人ならきっと彼の気持ちがどんな色か分からないだろう。だが私は、彼が非常に不愉快で、仕事を全部押し付けてくる上司を罵っていることが分かる。上司は仲間たちと飲みに行ったり焼肉を食べたりしているのに、自分は残業しなければならない。悪いことに、今日は彼の娘の 16 歳の誕生日だ。もし逃したら、長い間後悔するだろう。。

私は心の中でおじさんのために怒りを感じた。だが、向かいのおじさんは普通の人だ。ある意味で、彼の心の動きは私にとってどうでもよい。その前に、スカートを穿いた無防備な女の子の太ももに、こっそり手を伸ばそうとしている変質者のおじさんを見たことがある。彼の当時の心の中は吐き気がするほどだった。もちろん、直接止めると不必要なトラブルになるだろう。そこで、私は機転を利かせてスマホを取り出し、撮影モードを開けて電車の走行音を録っているふりをし、それからふりをしてゴホンと咳をした。同時に、変質者のおじさんをずっと見つめて、危機を無事に回避した。変質者のおじさんは手詰まりになってがっかりし、ずっと私を罵っていたが、私は全然不快に感じなかった。なぜなら、私の超能力がたまには身近な人を救うこともできるからだ。

もちろん、私は正義を求めたり、悪を懲らし善を勧めたり、英雄になることを夢見たりする人ではない。だが、目の前で起こる悪事を無視することもできない。幸い、こんなことはそう頻繁に遭遇しない。私は職場で意気消沈した中年男性の心に入り込み、未来への迷いと今の生活のプレッシャーによる鬱屈を窺い見た。試験に合格しなかった子供の心を見たこともある。彼は両親に答える最善の言い訳を頭の中で必死に探していると同時に、夏休みに補習を受けなければならないため友達とゲームをすることができないことに苦しんでいた。この時、私はほっと笑ってしまう。心の中では少し悪びれるが、笑っているうちに、この男の子の姿から自分の過去を見たような気がしてくる。失恋した人の心の扉を偶然通り過ぎたこともある。「私たちはここまで関係が深かったと思ったのに」と泣き言を言っているが、最後には「ごめん、たぶんこのまま友達関係でいた方が良い」と婉曲に拒否されていた。あなたは、日夜あなたを思っている人の真心を理解していない。だが、事到如今、どうして友達から始められるだろう?

私の超能力の「おかげ」で、社会に完全に出る前に人間万事を経験した。彼らのために喜び、悲しむ。だが、世界のすべての暗い面と明るい面が全部私の身上に注がれる。正直に言って、こんな生活はうんざりしている。

なぜ、私は見知らぬ人の生活まで知る必要があるのだろう?

また、何の資格があって、堂々と他人の心に入り込み、自分の家のように人の心の最深部に触れることができるのだろう?

こんな暗い考えを抱えながら、私は電車を降り、足を引きずって学校に向かった。人々が現れ、大量の情報が私に押し寄せてくる。その中には、ゴシップ好きの同級生が一生求めているかもしれないプライベートな内容も含まれているが、私はそれを避けたがる。イヤホンの音量を最大にして、一番好きな曲を流し、これらの不速の客を追い払おうとした。

授業のベルが鳴るのを聞いて教室に入り、カバンを置き、教科書を取り出した。超能力を身につけて以来、本が異常に可愛らしく感じられる。読書に没頭している時、私は雑多な情報を一時的に空にすることができる。そのため、学習能力も著しく向上し、良い成績はおそらく一部の人が望んでいる結果だろう。高校入学時には、家からは遠いが偏差値の高い進学校に合格した。進学試験で優れた成績を収めたことを条件に、一人暮らしのアパートを借りる権利も得た。これは私にとって非常に嬉しいことだ。毕竟、人の顔色を読むために超能力を使わなければならない人数が減り、自分の空間を楽しむ時間が増えるからだ。

放課後、私は教科書を閉じ、カバンから小説を取り出す。これは課外時間の休息法の一つだ。私は読書が大好きで、他人の心を読めるようになって以来、分析力や理解力も大幅に向上した。そのため、作者が残したミステリーも容易に解き明かすことができる。おそらく本が好きなせいで、この趣味のおかげで国語の成績はクラスで常にトップクラスにあり、全体の成績もこの進学校で中上位に入るのを助けてくれている。

クラスの放課後は非常ににぎやかだ。友達同士が 3 人 5 人集まってグループを作っている。私のように一人でいる人は少数派だ。昔の私も社交的なタイプだったが、超能力を身につけて以来、正確には身につける前から、個人的な理由で社交関係に疲れ、面倒だと感じ始め、自信を失っていた。それまで「友達」と思っていた人たちの中には、陰で私の悪口を言っている人がいることに気づいた。さらには、私を利用できる道具か、役に立つ存在としてだけ見ている人もいた。「友情」という元々私の心の中で最高の地位にあった言葉がこうして汚された。それから、私は徐々に積極的に社交するのをやめ、高校でも新しい友達を作らなかった。唯一話ができるのは、前の席に座っている岩波崇さんだ。私たちはどちらもライトノベルが好きな趣味を共有している。同じく岩波さんも社交的なタイプではないが、普段は私より少し明るく振る舞っている。

「鶴岡さん?」

「うん?」

私の前に立っていたのは、同級生の高澤雲縁さんだ。超大人気の可愛らしいサンシャインガールだ。羨ましいほどの雪白な肌、ミルクティー色の長い髪、笑うと輝く琥珀色の目を持っている。もし準備もなしにステージに立たせても、スカウトに簡単に発掘され、即座に国民的アイドルとしてデビューできるだろう。こんなアイドルが、どうして私のように陰鬱に見える周縁の人間に話しかけてくるのだろう?

「分かった。大概、情報を嗅ぎに来たのだろう。毕竟、私は「占いの神」だからな」

私は自嘲的に思い、少女を観察して、彼女が私に話しかけてくる目的の情報を集め始めた。自身の名誉と安全、そして他人のプライバシーを守るため、もし本当に私が占いができる(実はある意味で本当にできる)と思って、他人の心の中を探ろうとしても、私は婉曲に拒否するだろう。しかも、この神秘的な超能力を公にしたことは一度もない。さもなければ、大騒ぎになるはずだ。社会の混乱を引き起こすかもしれない。私の頭がぼんやり考えている時、異常なことが起きた。

え?なぜ高澤さんの心が見えないのだ?

これは本来、私にとって非常に嬉しいことである


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