ロリ声でジャズはダメですか?

高田丑歩

Pre-SESSION

kind of blue

 栗毛の少女は溜めた唾液を喉奥へ送り込んだ。


 診察室の椅子にちょこんと座り、医師が示す内視鏡の写真を目で追う。少女の喉の写真は健康な状態とは言い難く、付き添いの母は医師が口を開いた数だけ眉間に皺を増やしていく。


「前回より炎症が多いですね。最近、何か大きな声を出すことはありましたか?」


 医師から尋ねられた栗毛の少女――智恵理・パーカーは、苦笑いで首を左右に降る。


「えっ、いやー、何も……あはは……」


 智恵理は右隣に立っている母をしきりに気にして、悪戯がバレた子供ように萎縮している。母は柳眉をひそめ、神経質そうに栗毛の癖毛を見下ろしていた。


 親子間の妙な緊張は医師にも伝わり、病状を淡々と説明していた彼に人間味が宿る。母子を交互に見て、カルテを指でなぞりながら医師は声色を柔らかくした。


「パーカーさんは今年、十八才か。友達とたくさん遊ぶ時期ですし、ちょっとくらい騒いだり、カラオケも少しくらいなら大丈夫ですよ」


 母は険しい顔つきで、医師の薬指に光る指輪へ目を細める。急に、智恵理の腕を掴んで無理に立たせ、暴漢に出くわしたかのように診察室の扉へ手をかけた。

 母は出て行く前に医師へ一瞥を投げる。


「親心が分かるつもりでしょうけど、智絵里は普通の子供とは違うんです!」

「ちょ、ママ、言い過ぎ……」


 突然の敵意に面食らっている医師へ「担当医を変えてもらうわ」と追い打ちまで飛ばした。

 腕を引っ張られて出て行く智恵理は眼前に手刀を立て、ぺこぺこと頭を下げる。そこにウィンクを加え、一匙の愛嬌を残して診察室をあとにした。

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