第41話

地下に戻る。

廊下は、先ほどより静かだ。

警備員は、すべて一階に集まっている。


「緊急避難口は、この先だ!」


クロトが、見取り図を確認しながら走る。

廊下の突き当たり。

「非常口」と書かれた扉。


「ここか!」


クロトが、扉を開ける——

だが、中には——

巨大な影。

身長三メートル。

筋肉の塊。

灰色の肌。

そして——腕の製造番号。


「TR-2051-0003」

「……トロール」


ススリサーが、息を呑む。


「解放したトロールが、ここに!?」


トロールが、二人に気づく。


「グ、ル、ル、ル……」


低い唸り声。


「……まずいぞ」

「ああ。トロールは、ランク3だ」

「どうする?」

「……ポーションだ」


クロトが、懐からポーションを取り出す。

赤い液体。


「……麻薬入りだぞ」

「分かってる」


クロトの手が、震えている。


「でも、使わなければ——」

「死ぬだけだ」


クロトは、ポーションを飲み干す。

ススリサーも、同じように飲む。

次の瞬間——

身体が熱くなる。筋力が増強される。


「……っ、これが」

「ポーションの力か……」


トロールが、拳を振り上げる。


「グオオオオ!」


拳が、床に叩きつけられる。

ドォン!

床が砕ける。


「避けろ!」


クロトとススリサーは、ポーションで強化された速度で左右に飛び退く。

ススリサーが、クロスボウで矢を放つ。

ヒュン!

矢が、トロールの胸に刺さる。

だが——

トロールは、痛みを感じていない。

むしろ、矢を引き抜く。


「グルル……」


そして——傷が、塞がり始める。


「再生能力か!」

「傷が、塞がってる!」


トロールが、再び拳を振るう。

クロトが、避ける。


「速いだけじゃ、勝てない!」

「弱点は!?」

「分からない!」


トロールが、クロトに掴みかかる。

クロトが、短剣でトロールの手を切りつける。

ザシュ!

血が飛ぶ——が、すぐに傷が塞がる。


「くそっ!」

「クロト、首だ! 首を狙え!」

「試してみる!」


クロトが、トロールの背後に回り込む。

ワイヤーを取り出す。


「今だ!」


ワイヤーを、トロールの首に巻きつける。

ギリギリギリ——

トロールが暴れる。


「グオオオ!」


クロトが、全力でワイヤーを引く。

だが——

トロールの首は、太すぎる。

筋肉が、ワイヤーを弾く。


「くそ、効かない!」


トロールが、クロトを掴む。


「グオオオ!」


クロトの身体が、宙に浮く。


「ぐっ!」


トロールが、クロトを壁に叩きつけようとする——

その瞬間——

ススリサーが、トロールの目に矢を放つ。

ヒュン!

矢が、トロールの右目に突き刺さる。


「グギャアアア!」


トロールが、クロトを放す。

クロトは、床に転がり落ちる。


「……っ、ありがとう」

「礼はいい! でも、これじゃキリがない!」


トロールの傷が、みるみる塞がっていく。

目の傷も、再生し始める。


「くそ、再生が速すぎる!」

「このままじゃ、ジリ貧だ!」


その時——

天井から、何かが落ちてきた。

黒い影。

フードを被った男。


「——影!?」

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