第30話
十分後。
リーダーの動きが、明らかに鈍くなっている。
「おい、リーダー……大丈夫か?」
部下の一人が心配そうに声をかける。
「ああ……ちょっと、眠く……なって……」
リーダーの頭が、テーブルに落ちる。
「リーダー!?」
部下たちが、慌てて駆け寄る。
「おい、しっかりしろ!」
「酔いすぎたのか?」
その瞬間——
窓ガラスが割れた。
何かが投げ込まれる。
煙幕弾だ。
シュウウウウ——
白い煙が、一瞬で酒場を覆う。
「うわっ! 何だ!?」
「煙だ!」
客たちが、パニックになる。
煙の中。
クロトが、裏口から侵入していた。
ススリサーが、自分とクロトの両方に幻影をかける。
二人とも、若い女性の姿に変わる。
「行くぞ!」
クロトが、短剣を抜く。
最初のターゲット——リーダー。
既に眠っているリーダーの喉を、一突き。
「——がっ……」
リーダーは、目を覚ますことなく絶命した。
次に、部下の一人。
煙で視界を失い、右往左往している。
「くそっ! 何も見えねえ!」
クロトの短剣が、背中から心臓を貫く。
「ぐっ——!」
ポーションが切れているため、一撃で致命傷。
部下が、血を吐いて倒れる。
ススリサーが、クロスボウで二人目を狙う。
煙の中、音だけを頼りに照準を合わせる。
ヒュン!
矢が、煙の中を飛ぶ。
「ぎゃあっ!」
命中。
二人目の部下が、胸を押さえて崩れ落ちる。
残るは一人。
最後の部下が、剣を抜いて周囲を警戒している。
「誰だ! 出てこい!」
その時——
「きゃあああああ! いや! 来ないで!」
女性の悲鳴。
ススリサーの声だ。
「女の声!?」
部下が混乱する。
「モンスターが! モンスターが襲ってくる!」
「何が起きてる!?」
部下が、声の方向に剣を向ける。
その隙に、クロトが接近する。
ワイヤーが、首に巻きつく。
「——がっ……!」
ギリギリギリ——
三十秒後、最後の部下も絶命した。
「助けて! 怖い! モンスターが!」
ススリサーが、再び女性の声で叫ぶ。
「誰か! 助けて!」
客たちは、煙の中で何が起きているのか分からない。
ただ、女性の悲鳴だけが聞こえる。
「女が襲われてる!?」
「モンスターだ! モンスターが入ってきた!」
「誰か、助けろ!」
煙が晴れ始める。
クロトとススリサーは、既に裏口から脱出していた。
二人とも、幻影を解除している。
酒場には、四つの死体と、混乱する客たち。
「何があった!?」
「分からない! 煙が出て、女の悲鳴が聞こえて……」
「女? 女が襲われたのか?」
「いや、でも……死んでるのは、カロンズ・タックスだけだ」
「じゃあ、女は?」
「見えなかった……煙で……」
「モンスター? モンスターの仕業か?」
目撃者たちの記憶は、曖昧だ。
煙と悲鳴、そして女性の姿——それだけが、脳裏に焼き付いている。
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