第26話

その夜。

クロトとススリサーは、フロンティアの酒場にいた。

報酬の銀貨十五枚を受け取った後、二人は食事をするために立ち寄ったのだ。


「ビールと、肉を」

「銀貨一枚だ」


店員が、ジョッキと皿を運んでくる。

久しぶりのまともな食事。

クロトとススリサーは、無言で肉を頬張った。


「……うまい」

「ああ」


その時、隣のテーブルから声が聞こえてきた。


「——また新人が死んだらしいな」

「ゴブリンにやられたのか?」

「ああ。ポーションを買う金がなかったんだろう」

「哀れだな」


クロトとススリサーは、会話に聞き耳を立てた。


「なあ、お前らも新人か?」


突然、声をかけられた。


振り向くと、そこには一人のドワーフが立っていた。


身長140センチ、筋骨隆々の体格、腰まで伸びる茶色の髭。

顔には無数の傷跡。


「……ああ」


クロトが答える。


「俺の名前はガレス。開拓者歴、三年だ」

「なら、ちょっと話を聞いてくれ。忠告だ」


「……何の用だ?」

「お前ら、カロンズ・タックスに借金してるな?」


クロトとススリサーの顔が強張る。


「……なぜ、分かる」

「見りゃ分かる。震えてる。さっきまで禁断症状だっただろ?」


ガレスは、ジョッキを傾けながら続ける。


「俺も最初はそうだった。初級ポーション一本で戦えた」

「……今は?」

「中級を二本使ってる」


クロトとススリサーは、息を呑んだ。


「中級……銀貨十五枚だぞ」

「ああ。だから、借金は減らない」


ガレスの目が、虚ろだった。


「お前らも、そうなる。半年後には、初級じゃ効かなくなる」

「……嘘だろ」

「本当だ。身体が慣れるんだ。ポーションに」


ススリサーが、拳を握りしめる。


「じゃあ、どうすればいい?」

「……抜け出す方法は、一つだけある」


ガレスは、声を潜めた。


「カロンズ・タックスを殺して、高級ポーションを奪う」

「……お前は、やらなかったのか?」

「やろうとした。でも、失敗した」


ガレスは、右腕を見せた。

そこには、深い傷跡。


「あいつら、強すぎる。特にリーダーは、化け物だ」


クロトは、黙って聞いていた。


「……お前らも、諦めろ。俺たちは一生、ポーション漬けだ」


ガレスは、そう言い残して立ち去った。

酒場を出た後。

クロトとススリサーは、夜の街を歩いていた。


「……どうする?」


ススリサーが尋ねる。


「決まってる」


クロトの目が、冷たく光る。


「カロンズ・タックスを、殺す」

「……いつ?」

「もう少し、準備が必要だ」


クロトは、空を見上げた。


「ガレスの話を聞いて、分かった。初級ポーションだけじゃ、勝てない」

「なら、どうする?」

「グレネードと、毒だ。それと——」


クロトは、ススリサーを見た。


「お前の幻影を、最大限に活用する」

「……分かった」


二人は、静かに歩き続けた。

復讐の炎が、心に灯り始めていた。

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