脱出劇

第6話

クロトは、燃料庫の扉をマスターキーで開けた。

中には、灯油の入った樽が十数個。それと、松明用の油布が山積みになっている。


「十分だ」


ススリサーが、樽の蓋を次々と開けていく。灯油の刺激臭が鼻を突く。


「これを屋敷中に撒くのか?」

「ああ。特に、監督官の詰所と、武器庫の周辺にな」


クロトは樽を持ち上げ、屋敷の廊下へと運び出した。ススリサーも続く。

二人は手分けして、灯油を床に撒いていく。廊下、階段、詰所の入り口。


「——おい、何してる!?」


突然、使用人の一人が声を上げた。

ススリサーは即座に振り返り、幻影を解除する。そして、懐から武器庫で手に入れたナイフを取り出した。


「悪いね」


ナイフが使用人の喉を切り裂く。血飛沫。使用人は声も出せずに倒れた。


「……早くしろ。時間がない」


クロトが冷静に言う。

ススリサーは死体を灯油の上に転がし、さらに油を撒いた。


「よし、これで準備完了だ」


二人は燃料庫に戻り、最後の樽を持ち出す。それを玄関ホールに撒き終えた時——


「——火事だ! 火事だああああ!」


誰かが叫んだ。

クロトとススリサーは顔を見合わせる。


「……誰かが気づいたのか?」

「いや、違う」


ススリサーが窓の外を指差す。

小屋——奴隷たちが寝泊まりしていた建物から、炎が上がっていた。


「まさか……」

「ああ。他の奴隷が、俺たちの計画に便乗したんだ」


クロトは舌打ちした。


「予定が狂った。急ぐぞ」


彼は松明を取り出し、火を灯す。そして、床に撒いた灯油に投げ込んだ。

ゴオッ——

炎が一瞬で広がった。廊下全体が火の海になる。


「走れ!」


二人は玄関を飛び出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る