その神童、本当に神の子です〜魔力は一切ありませんが、代わりに使える神力で八神の試練を受けて昇神を目指します〜

囲魔 美蕾

第1話 神の落とし子?

 大陸中央に位置する大国、ノロイア王国。そこには王がいて、貴族がいて、騎士がいて、平和に暮らす国民がいて、そしてその平和を脅かす魔物がいた。

 そんなノロイアの王都に向けて進む一団があった。ネクター子爵とその御付きの者、そして騎士たちである。彼らはそこそこ立派な馬車と、そこそこ立派な馬に乗って一年に一度王都で開かれる諸侯会議に向かっているのである。

 

「しかし魔物も出ず平和な旅になって良かったですね、子爵様」

「ああ、そうだな。しかし、こんなに平和なことがあるだろうか」


 ――何かが起こる前触れ、嵐の前の静けさなのではないか。齢30を越え、それなりの経験をしてきた子爵にはそう思えた。この一団の中で最年長である騎士団長も同じように思ったようで、静かに


「警戒を強めます」


 と言った。


 

 さらに半刻ほど進んだとき、子爵はふと違和感を覚え、周りを見まわした。


「――こんなところに山なんてあっただろうか」


 進行方向脇に、見上げるとまではいかないまでも、明らかに目に留まるがあった。


「確認して参ります」


 と騎士団長が言うので、子爵は確認を騎士団長とその部下に任せる。

 しかし、5分経てども10分経てども、彼らは報告に戻ってくる様子がなかった。不審に思った子爵が残りの全員を引き連れて後を追うと、そこには衝撃的な光景が広がっていた。


「魔物の死体の山と……赤子だと?」


 山だと思っていたものは魔物の死体の山であり、そしてその側には生まれたばかりを思わせる赤子がすやすやと眠っているではないか。

 この子の親はどこにいるのか。見まわしても魔物の死体があるだけであり、親どころか、人間がいた痕跡は残っていない。ということは、魔物たちは赤子によって倒されたものだというのか……!?

 馬鹿な。ありえない。いくら倒されているのが弱い魔物ばかりとはいえ、赤子の手によってできるようなことではない。そんな思考に耽っていたばかりに、皆注意が散漫になっていた。


「あっ!?」


 気がつくと、赤子の近くに今にも襲い掛からんとする角ウサギがいたのである。角ウサギはウサギに角が生えただけの弱い魔物である。騎士では訓練にすらならないであろうその魔物も、もちろん赤子では勝負にすらならない。

 そう、。眠っていた赤子が目を覚まし、魔物の方に手をかざしたと思うと、雷光が横向きに一閃し、魔物は消し炭となってしまった。この事実に一同は言葉を失った。生まれたばかりに見える赤子が、魔術を使い、弱いものとはいえ難なく魔物を殺してしまったのである。とても受け入れられるものではない。当の本人は些事のように殺した魔物を死体の山に、再び眠りにつこうとしているのだが……。


「転移魔術っ!? 馬鹿な、幻の魔術だぞ!!」


とは誰が言った言葉か。しかし、斯様な力を持っているとはいえ、赤子は赤子である。発見した大人が保護をして、親を探してやらねばならない。今回は人の痕跡がないため、もはや親から生まれたのではなく神の落とし子のようにすら思ってしまう子爵であったが。そう思いながら、一団は人数を一人増やし王都へ向かった。



 諸侯会議を終え、王都での赤子の親探しも空振りに終わった後、子爵は悩んでいた。この赤子を里親や、養護院に預けるかどうかをである。あの力を見せられて、家の将来のために、――当然家督争いに加えるつもりはない――という思いを持ったことが一欠片もないとは言わないが、それよりもやはり見つけた者の責任があると思う。いっそのこと養子として迎えてしまうのが良いような気もする。だが、あの凄まじい力を持て余すかもしれぬ。子爵は葛藤した。葛藤した末に、国王に相談することとした。貴族が養子を迎えるというのはそこまで簡単ではないし、急にあのような力を持つ子どもが現れては世間が混乱し、注目の的になるやもしれない。それは良いこととは限らない。やっかみの対象となる可能性もあるのである。ということで、どうせなら最高権力者に一任まるなげしてしまおうという魂胆である。まあこのように考えている時点で引き取る気になっているのであるがそこは気が付いていない子爵である。



「其方の好きにせよ」

 

 国王からの返答はそのようなものであった。

 

「……は?」


 子爵はそう答えるので精一杯で、国王に対しどのような口の聞き方になったかについては気にすることもできなかった。なにせ一任しようとした相手に一任されてしまったのである。


「其方の拾った子だ。其方の好きにするが良い。養子にするのも構わん。力があろうがなかろうが、子に罪はない。何かあればまた私を頼るが良い」


 国王はそう言うと、執務に戻って行った。

 後には、呆然とする子爵だけが残された。



 結果として、子爵は赤子を養子として引き取り、ジルと名付けた。ジルは貴族らしい貴族としては育てられず、伸び伸びと成長しながらも、自分の意思で色々なことを学んで行った。領地経営や作法にはやや疎いものの、魔術については滅法強く、同年代で右に出るものはいなかった。それでいて高潔な心を持っていたため、周囲からの評判はまさに「神童」であり、魔術師としての将来性を大いに期待された。

 唯一の欠点としては何故か魔力が一切感知されないということだが、使う魔術が凄すぎて、気に留める者はいない。寧ろ、探知魔術で検知できないのは利点とすら取る事ができた。



 そしてジルが見つかってからちょうど16年、ジルに神の啓示が降りる。


「八神の神殿を巡り試練を受けよ。そして神へ至るのだ」

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