Chapter6:羽純的ダンジョンルーティン

皿洗ってるときに騒ぐ人々

「再生数、10万いってました〜ッ……!」


 ドアを開けるなり、顔を涙でグシャグシャにした小咲がそう声を絞り出すのだった。化粧落ちまくりでヒールレスラーみたいな惨状だ。そんな小咲のスマホには、『木雨雪羽純と行く!渋谷ダンジョン入門』の動画が表示されている。10万回再生、投稿してから2日しか経っていないから、これはめちゃくちゃ回ってると言っていいだろう。羽純のギャルピのサムネイルが良かったのかもしれない。


「あらァ凄いわねっ! 動画は配信と違って広告料だからお金は期待できないけど、それでも上々の出だしよ。動画は集客、ライブは集金がこの世界の常識だからね。この編集なら、きっと動画ファンもつくわ。頑張ったわね、小咲ちゃん。次は切り抜き動画かしら?」

「ありがとうございます! 羽純様のモーニングルーティン動画を撮る……その日まで頑張ります!」

「ええ……期待してるわよン♡」

「はいっ、お姉様ッ……!」


 兄貴と小咲がイェーイとハイタッチをするのを、皿を洗いながら横目で見やる。モーニングルーティンってーと……なんか、美容アカとかがよくやってるあのやたら白っぽい画面で何時に朝起きて何食って化粧水何使ってみたいなアレか……。


「いや……好きに撮りゃいーじゃん」

「「こんな小汚い部屋で羽純(ちゃん)様のモーニングルーティンが撮れるかバカヤロウ!」」

「んな同時に怒鳴んなってー……」


 耳がキンキンする。2人から息ぴったりにバカヤロウと罵られて、大きくため息をつく私だった。

 羽純のストーカー紅花べにはな 小咲こさきが、木雨雪羽純チャンネルの編集スタッフとして参加することになってしまった。私としては普通にお巡りさんに逮捕されたり、10メートル以上接近禁止令とかになってほしいと思ったのだが、このしたたかな腹黒女は羽純の無限の愛によって無罪放免、加えて必死の土下座によりボランティアスタッフの座さえ奪い取ったのである。

 小咲はメンヘラストーカー女ではあるが、良い大学を出て良い会社の広報に務めるいわゆるシゴデキだ。しかも初心者向けの動画を作ろうと企画立案して、渋谷区役所に赴いて取材許可を取り、さらには動画の編集までやってしまったのだからもう立派に木雨雪羽純チャンネルのエンジンである。……ダンジョンで生放送するしか能のない自分がザコに思えてきたな。ちな私はというと、渋谷から帰ってきてからすぐダンジョンインフルエンザで2週間ほどお休みしてしまい、生放送すらしていないヒキニート女と化してしまっていた。


「ところで、羽純様はいずこへ?」

「あー、おととい一人でダンジョン行っちゃったわ。何か深いところ潜りたいんだってさ」

「ああ……真美華さんじゃあ羽純様のペースに付いていけないですもんね」

「うるせぇ、撮丸ぶつけんぞ」


 私はまだ全然許してねーからなヒステリーちゃんがよ……。


「まあでも、こないだ通販で買った頭に着けるカメラ? ごんぷろ? あれ持たせてっから、動画の素材持って帰ってくると思うよ。何撮れてっか楽しみにしとけ〜?」

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