第2話
翌日、晃は村の住民に挨拶するため、菓子折りを持ち家をまわった。
最初は余所者に見られていた晃も、今では「お巡りさん」と親しく声をかけられる。
それは、妻と娘がこの村にすぐ溶け込んでくれたおかげでもあった。
「いやいや残念だよ北條さん。せっかく村に馴染んでくれたのに」
「僕も残念です。村長さんには本当にお世話になりました」
村長宅の居間でお茶をいただきながら、晃は村長に頭を下げた。
「村に来てからどれくらい経つかな?」
「二年になります」
「そうか二年か。朝美ちゃんも大きくなるわけだ。寂しい限りだよ」
村長夫妻は朝美を孫のように可愛がってくれた。
なかなか休みを取ることができない晃に代わって朝美の遊び相手になってくれたり、妻が病気になった時には朝美を預かってくれたこともあった。
「それにしても、来年には駐在所も無くなってしまうんだろ?」
「えぇ、ご不便をおかけします。でも住民の皆様には極力ご負担をおかけしないようにしますので」
「まぁ、この村の人口はもう十人も残っておらん。若いもんは都会に出たきり戻ってこんからな。いずれ村がなくなるのも時間の問題だろう」
村長は少し寂しそうな顔をしたが、すぐにいつもの調子を取り戻す。
「でもワシは最後の一人になってもここで暮らし続けるぞ。そして最期はこの家で死ぬんだ」
胸を張りガハハと笑う彼の姿を見て、晃も笑みをこぼした。
お茶をひと口啜った晃は、ふと朝美が言っていた『サヨちゃん』のことを思い出した。
「そう言えば村長さん、サヨちゃんという子はご存知ですか?」
「サヨちゃん? ……さぁ、分からないねぇ。この村にいる子供は朝美ちゃんだけだから」
晃は村長の目が泳いだのを見逃さなかった。先ほどよりも表情が硬くなり、明らかに動揺しているのが分かる。
(何か隠してるな)
そう感じたが、これは職務質問ではない。
「ハハ、そうですよね。すみません変なことを聞いてしまって。……そろそろ失礼します」
余計な追求はすべきではないと思い、晃は席を立った。
帰宅した晃を玄関先で見送った後、村長は硬い表情のまま居間の奥の襖を開けた。
隣の部屋へと入ると、そこには高齢の老婆が布団に寝かされていた。病気のためか顔色は悪く、体も痩せている。
「母さん、さっき北條さんが――」
「聞こえていたよ」
息子である村長の言葉を遮り、老婆はかすれた声で答えた。
「
「何で今頃……」
「さぁ。久しぶりに村に子供が住んだから、姿を現したのかねぇ」
老婆は天井を見つめたまま呟いた。
* * *
夕方、晃が駐在所へ戻ると妻が慌てた様子で飛び出してきた。
「夕飯の支度をしている間に朝美がいなくなったの――」
泣きそうな声で狼狽える妻を晃は宥めた。
「わかった。俺が捜してくる。帰ってくるかもしれないからここで待ってなさい。あと、村長さんにも連絡しておいてくれ」
冬の日暮れは早い。
外はどんどん暗くなっていく。
(たぶん、森へ行ったな)
そう直感した晃は、懐中電灯を持ち森へ向かった。
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