期限は一か月ーそれまでに彼女を堕とせないと大変なことになるって!
東雲まいか
第1話 嗚呼、お金が欲しい……
主な登場人物
・深代寺幹生ー主人公(予備校生)19歳、高校時代はダンス部に所属していた
・深代寺真広(幹生の母)45歳、昼間は社員食堂で、夜は夜勤の看護助手として働
き幹生との生活を支えている。
・松永京介(予備校生)19歳、幹生の高校のダンス部の友人
・森脇涼音(専門学校生)18歳、ひょんなことから幹夫と交際するようになる。
高校の時は軽音部に所属していた。
・森脇勝也(森脇商事社長)涼音の父、46歳、一代で会社を立ち上げたやり手。
・森脇玲人(経済学部に通う大学生)20歳、涼音の兄
・夜風亜衣(大学生)20歳、玲人の彼女で同じ大学に通っている
・横山大希(会社員)22歳、交際歴一か月の涼音の彼氏
・海辺汐(専門学校生)19歳、幹夫の高校の同級生で元カノ
――――――・――――――・――――――・――――――・――――――
高校時代はそれなりに勉強した。いや、ダンス部を引退してからは寝る間も惜しんで勉強した。国公立に合格すれば大学進学してもいい、と母親に言われ、あと数か月、あと数日とカウントダウンしながら死に物狂いで頑張った。自分としては、これ以上は無理だろうというところまで自分を追い詰めた。
だが、共通試験の結果を待つまでもなく、自己採点の段階で、それがかなわぬ夢だということを悟った。
あの日から……再び受験勉強の日々が始まり、現在は真最中-でなければならないわけだが。
うう~~っ、つらい!
予備校では、予算の関係で必要最低限の授業だけを受講している。それ以外の時間は、自宅学習する毎日。母親は、昼も夜もアルバイトに明け暮れほとんど留守だ。
家と予備校を往復する生活に、次第に孤独感は募っていく。こうして、世の中から取り残されていくのだろうか。
いやっ、そんなことはない!
お金さえあれば、この生活は終わるのだ。
嗚呼、お金が欲しいよ~~~っ!
そうお金さえあれば、大学に入ることができたんだ。確かに入れる大学はあった。お金があれば。そんな貧乏生活を恨みながらも、机の前に座る日々。誰かを恨んではいけない、そうだ、未来は自分の力でつかむのだ!
と勝手に暑くなっていたところへ……
電話が来た。
誰からだろう?
なんだよ、もう会わないことにしていたのに。元カノの海辺汐(うみべしお)からだ。一体何の用だ?
「どお、調子は?」
と普通に話しかけてくる。別れたはずなのに、全く自覚がない。
「なんだ、汐(シオ)か」
「なんだとはご挨拶ね。元気でやってるか心配してたんだから」
「まあ、まあまあだな。だいぶ前進してるし」
「ほんとう~? 一人で自宅にこもってて、飽きちゃったんじゃないの」
「そんなことはない」
「もう限界なんじゃない。そろそろ私の顔が見たくなってきたころだと思ったんだけど。 もう別れてから三か月もたつよ」
「もうそんなに経ったのか」
時間の感覚がない。
「あ~あ、大丈夫かなあ」
「心配することはない。お前の顔も特に見たくなってはこない」
「無理しちゃって、ふんっ」
「無理なんかしてない! もう会わないって言っただろ。まったく何の用だよ。ず~っと机の前に座って、今佳境に入ってたところなのに。邪魔だよ」
「へえ、本当かなあ」
「嘘なんかいってどうする! 二度目はないぞ。本当にほっといてくれ。だけど、シオはいいよな、専門学校へ行かせてもらえて。恵まれてると思え」
「まあね。うちの両親、私には甘~いからね」
「ふうん」
聞いていてムカついてきた。
「でも卒業後は何するんだかわからないんだろ?」
「その時はまた考えるよ」
「そりゃ、声優になろうなんて、簡単にはいかないだろうな」
「分かってるって」
「あ~あ、おれもお金があればなあ……」
とつぶやいた。
「……えっ、今なんて言った? 声が小さくて聞こえなかった」
「こっちの話、もう特に用がないなら切る」
「連れないわねえ、いいわよ。私も私でやってるから」
「じゃ、な」
「さっき言おうとしたこと、わかった!」
「なんだよお」
「お金が欲しいっ、てこと」
「そんなこと言った覚えはない、じゃあな」
そこで通話は終了した。
三年になって初めて同じクラスになった彼女に交際を申し込まれて、その時の雰囲気で付き合うことになったはいいが、付き合えば付き合うほど自分との違いに嫌気がさして、とうとう卒業直前に分かれた。それで自然消滅と思っていたのが、あちらは俺のことが気になるらしく、連絡がいまだに途絶えない。完全に忘れ去られる前に、また連絡をよこすのだろう。
あ~あ、お金が欲しいなあ。
そんなこと考えてる場合じゃない、さあて、気持ちを切り替えて勉強、勉強!
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これから一週間に二回ほどのペースで更新してまいります。続けて読んでくださるとうれしいかぎりです。作者
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