第11話

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 さすがに勇に浴衣姿で祭りに行かせる事はなかった。私服に着替えた勇にあたしはなんて言葉をかけたのだろう。

 多分、深く考えてはなかったと思う。気の利いたセリフなんてかけてなかったんじゃないだろうか。

 ただ勇の浴衣姿は本当によく似合っていて、母がベタ褒めだったのを思い出した。それが勇にとって嬉しいかどうかは別として。

 そうなってくると面白くないのは、あたしだ。あたしの時は褒めるどころじゃなかったのに、よその、しかも男の勇には手放しで褒めているのが面白いはずがない。

 だからきっと祭りへ行く時は、お互い無言に近かった。でも無言でいる事が苦手なあたしは勇にあれこれ話かけていたと思う。

「あんなん気にしなくていいから」

「……うん」

 勇の手を引いて、神社へ向かっていた。早く楽しい渦の中に入って、さっきの何だかムシャクシャする事を忘れたかったんじゃないかな、と思う。

 それでも子供ってのは単純なもので──まあ、今も子供だけどさ──祭りのお囃子が聞こえてくるだけでテンションが上がって、頭の中は楽しみにしていた祭りでいっぱいになった。

 事前に考えていた屋台巡りの順番なんか吹っ飛んで、とにかく一つでも多くの屋台を見て回った。そう言えば勇の意見とか聞いたかな? そこまではさすがに思い出せない。

 そうだ、確か七時くらいになったら親が迎えにくるから、自由に動ける内に動こうってなって、とにかく片っ端から見て回ったんだ。

 ただ財布事情がそこまで明るくなかったので、射的とか当て物とか確実性のないものは避けていたと思う。

 お陰で、と言うわけじゃないだろうけど、一通り見て回った後もお小遣いはそれなりに残っていた。

 境内の脇にある石灯籠の近くで休憩がてら、これからどうする? とあたしは勇に聞いた。

「どうするって?」

「お母さんたちが来るまで、もうちょっと時間があるでしょ」

 巾着から時計を取り出して時間を確認する。

「あ、時計だ」

 そう、ちょっと見せびらかしたくて親の時計を拝借して来たのだ。まだこの頃はスマホを与えられてなかったんだ。

「う〜んと、六……に針が二つあるから……」

 アナログかデジタルかなんて確認せずに持ってきたので、時計の見方に格闘していると、

「六時半だね」

「……ってぇと、三十分はまだ遊べるね!」

 という感じで誤魔化してたような気もする。まあ細かい事だ、気にしない。

 それでまだ三十分もあるからとなって、

「どっか行きたい?」

 そう、勇を連れ回したちょっとした罪悪感はあったから、最後の三十分くらいはと思って勇の希望を聞いたんだ。

 でも大体、見終わった後だった。もう一度見たいと思うほどの屋台もなかった。だから今からしてみると、かえって勇を困らせたのかもしれない。

「お化け屋敷とか、どう?」

「え〜、いいけどさ。勇は大丈夫なの?」

 平静さを装ってるけど、これってちょっとビビったのを悟らせないためだったんだろうなあ。

「でも、もうそれくらいしか残ってないよ」

「まあいっか。じゃ、行こう」

 この時は小さな神社のお祭りのお化け屋敷のレベルなんて、高が知れてると思ってた。でも思い返せば、大人がいない状況でのお化け屋敷なんて、初めてだったんだよなあ。

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