#16「正宗と気になるアイツ」

 と、いうわけで。Fクラスの三人目の"エース"を選出すべく、一度クラス全員の能力を確認することとなった。


「んで、次……建川(たてがわ)か」


「ああ、よろしく」


 場所は同じく、山倉高校の校庭。正宗、焚火、キリカの前に歩み出てきた、ガタイの良い黒髪の男子生徒・建川健。


「それじゃあ、さっそく見せるとしよう……はああッ! "一夜壁(いちやへき)"ッ!」


 建川は両手を前に伸ばし、強く詠唱した。


「ッ! これは」


 正宗は呟くと共に、ぐっと身構えた。なにせ周囲の地面が光だし、地中から突然、四方を囲う壁のような何かが飛び出してきたのだから。


「白い、壁……?」


「ただの壁ではないのです。ほら、天井が出来て密閉されました」


 キリカが指差した通り、コンクリート風の白い四面壁の先は天井となって繋がり、一辺10メートル弱の密閉空間を形成して、正宗ら三人と建川を閉じ込めた。


 まさに一夜城が如く、一つの部屋が数秒の速さで作られたのである。


「この"一夜壁"はコンクリート以上の強度で、簡単には壊れないぜ。緊急用に、端っこに外へ出るドアがあるが」


 額の汗を拭きながら、建川は正宗達にそう告げる。


「すごい固有魔法ですね。自分のテリトリーで、一対一の状況を確保できます」


「だな……だけど、ここから敵を倒さなきゃすぐに脱出されちまう。で、この後はどうなるんだ?」


 焚火と共に固有魔法の概要を分析しつつ、正宗は建川に問いかけた。


「いや、終わりだが?」


「終わりかよ!!」


 その回答以外なら何でも良かったのに、唯一されたくなかった回答をされてしまった。


「なんかこう、トラップが出てきて敵を倒すとか無えの!?」


 そんな正宗は呆れながら、建川に問う。


「100年続く、安全第一の建築家の家系だからかな。そういう危ないものは、"一夜壁"に取り入れることができないんだ」


「じゃ、ただ部屋作るだけの魔法かよ……」


「いやいや、そんな事はないぞ! セキュリティは大事だからな。部屋のドアに鍵をかけることで、敵をしばらく閉じ込めることが出来るんだ!」


「! お前、それを先に言えよ! それじゃあ、さっき先生が言ってた敵の"エース"をここに閉じ込めて足止めを──」


「あ、1分だけだ」


「クソッ!!!」


 膝から崩れ落ちる正宗と、なんだか申し訳ないという顔をする建川。


「まあ、何かの役には立つかもしれません。ありがとうなのです、建川くん」


 そんな二人を見かねて、キリカは強引に話を進めた。


「それでは、次は……飾(かざり)くん、お願いします」


「ふっ、任せてくれ先生。ボクの美しい力をお見せしよう……"ポラリスパレード"ッ!」


 キリカに呼び出された金髪のキザな男子生徒・飾 光(ひかる)は、そう唱えると、指先を指揮者のように踊らせ始めた。


「舞い踊れ! 粒子の踊り子達よ!」


 その呼びかけに答えるように、彼の指先が描く軌道上に、鮮やかな光が溢れ出していく。光は空を舞う妖精のように、自由気ままにカラフルに踊り始めた。


「さらに……それっ!」


 飾が両手をかざすと、光の粒は1箇所に凝縮していった。そしてそれらは再び広がり、整列し、いつしか空高く飛ぶ鳥の形になって輝いた。


「綺麗なもんだな……プロジェクションマッピングみてえだ」


「そうだろう? せっかくのボクだけの力だ、美しくなければね」


「んで、これでどんなことが出来るんだ?」


「? 見ての通りさ。美しい絵を描くことができる」


「……他には?」


「他に? ははっ、いらないじゃないか! こんなにも美しいのだから……フッ」


「はぁ……またか……」


 あって無いような固有魔法にげんなりし、正宗は肩を落とした。


 なにせ、この披露会が始まってはや十数人。Fクラスの正宗と焚火以外の生徒は全員、こういった戦いに向かない固有魔法しか備えていないか、そもそもまともな出力の魔法を使えないかのどちらかだったからだ。


「くっそー……誰かまともに戦えそうな技はねえのか?」


「うっせえよ浅井!」


「自分も固有魔法使えないじゃーん」


「そこうるさい! 人の痛い所を突くんじゃない」


 槙野と林に横から口出しされ、正宗はごもっともと思いながらも、そう言い返した。


「これで全員でしょうか? 先生」


 正宗と槙野達がわーわー言い合う傍らで、焚火がキリカに尋ねた。


「はい。やはり、正宗くんや焚火さんと並べそうな子が見つからないのです……かといって、皆さんに無理にAクラスの"エース"と戦わせるのは危険ですし……」


「そうですね……あっ!」


 悩み始めた矢先、焚火が一人の男子生徒を見つけ。


「ごめんなさい、渡会(わたらい)くんがまだでしたね。お願いしても良いですか?」


「え……僕?」


 声をかけてみると、長めの黒髪の男子生徒は困ったそぶりを見せた。


「えと……でも僕、大したことは出来ないよ。固有魔法も、その……無いし」


 渡会ハル。焚火が今感じた彼への印象を一言で言うならば、"正宗と真逆の少年"だろうか。見るからに内気で声も細く、自分にあまり自信を持てていなさそうな雰囲気。


 だが、その震えた金の瞳の奥に感じる温かさだけは、正宗に似ている点だと言えるだろう。


「おや? 渡会くんは固有魔法を持っているはずなのですっ」


「そうなのか? 先生」


「はいっ。実物を見たことはありませんが、先生、去年のデータは確認しているのですよ」


 やりとりを経て、正宗達三人の視線は同じ方へ向かった。


 ハルの方へ、"何故固有魔法を隠すのか"という疑念を乗せて。


「え、えと……じ、じゃあ、見せますね」


 指名されて出てきたのに、何故か"出しゃばってごめんなさい"的なオーラを発するハルは、深呼吸を一つ置くと、そっと目を閉じた。


「……"ビースト"」


 か細い声の詠唱が響く。そしてハルの体の周囲を、黒い光が包んでいった。


「このマナの集まり方は……変身タイプの固有魔法なのです!」


 知識豊富なキリカがすぐに察知してそう告げる一方で、正宗と焚火、そしてクラスメイトらは、その黒い光の行く末をただ見守るのみ。


 そして、漆黒のヴェールから解き放たれたハルは。


「……えと、以上、です」


 自信なさげに、言葉を紡いだハルの頭には。


「わわっ……かわいいのです〜っ!」


 キリカにそう言わしめるほどの、可愛らしい黒い猫耳が生えていた。


「獣っぽくなる固有魔法です。あとほら、爪も伸びてて…………はい、これだけです。すみません」


 周囲のクラスメイトからの反応は、へーそうなんだ──程度のもの。先の尖った爪を見せても、あまり反応が変わらなかったのを確認すると、ハルは申し訳なさげにそう告げるのだった。


「ふむふむ。可愛いので良いと思うのですっ」


「んな雑な……まあ、それでAクラスとやり合うのは無理があんな」


「そう、だよね……」


 正宗に同意しながら、ハルは視線を落とした。


「……ん?」


 何故だか、知っている気がする。彼のこの表情を、前にもどこかで見た気がする。


「なあ、渡会って──」


 きーん、こーん、かーん、こーん。


「あっ! 6限が終わってしまったのです」


 学校中に響き渡るチャイム。次いで、キリカが声を上げた。


「先生、どうしましょう?」


「んー……仕方ないのです。まだ本番まで時間がありますし、皆さん予定がありますよね。今日はこの辺にしておきましょうか」


 キリカはそう言うと、せっせと挨拶や号令を終わらせた。日は沈み、あとは下校するのみである。


「……どこだ? どこで会った……?」


「浅井くん?」


「ん? ああ、悪い」


 焚火の声で我に帰り、正宗は彼女の方を向いた。


「二人でもう少し稽古しておきたい所ですが……今日は委員会の仕事があるので、失礼しますね」


「おう、お疲れさん」


 そう言うと焚火は、2-Fの教室へと戻っていく生徒らの群れに加わった。


「正宗くん? 戻って帰りのホームルームなのですよ〜」


 後に残ったのは、キリカと正宗だけ。


「……なあ先生、この後時間あるか?」


「え、ありますが……あれ? あれあれ!? もしかして、先生とデートしたいんですかっ!?」


「違えよ。渡会のこと、ちょっと気になんだよ」


 渡会くん? キリカが聞き返すと、正宗はそれに頷いた。


 そして告げた。自分の胸の内にある、心当たりを。


「アイツは昔、俺と同じ不良だった気がするんだ」

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