第14話 永続の宣言

月曜日の朝。

二人は、また、完璧にして目覚めた。

みるくの腕の中。リリアの「撫でて」という要求。みるくの「撫でながら起こす」という甘やかし。

全てが、第7回、第9回で描かれた日常と、寸分違わぬさで繰り返される。


だが、決定的に違うことが一つあった。

それは、二人のの度合いだ。

以前は「こんな生活が続くなんて」という幸福な驚きだったものが、今は「この生活は永遠に続く、続けてみせる」という、揺るぎないに基づいた絶対的な安心感に変わっていた。


学校での時間も、そうだ。


授業中、ノートを取りながら、リリアは、隣のみるくが(ああ、今、わたくしに触れたくて、指先がうずうずしていますわ)と感じる。

みるくもまた、リリアの横顔を見ながら、(ああ、リリアちゃん、今、私の膝に頭を乗せたくて、そわそわしてる)と感じ取る。


言葉は、ない。

だが、二人のは、もはや「ゼロ」を通り越し、互いの内側に溶け込んだの状態に達していた。

思考や欲求が、手に取るように、いや、自分のことのようにわかってしまう。


している。

それは、昼休み、みるくが完璧な出汁巻き卵の入ったお弁当を二つ広げるタイミングと、リリアが「あーん、を要求しますわ」と口を開くタイミングが、コンマ一秒も違わずに一致する、といった形で現れた。


「「(すごい…)」」

またしても聖域サンクチュアリを目撃してしまったクラスメイトたちが、尊さに打たれて机に突っ伏す。

リリアとみるくは、そんな外界の反応に一切気づかず、互いを見つめ合って、くすくすと笑うだけだった。


***


放課後。

「「いってきます(学校から)」「ただいま(家へ)」」

二人は、最短距離で、手を繋いで「巣」へと帰還した。

昨日(日曜)の夜、寝る前に交わした「誓い」を、実行するために。


「おかえり、リリアちゃん」

「ただいま戻りましたわ、みるくさん」

二人で並んで手を洗い、光の速さでパジャマ(リラックスウェア)に着替える。

そして、リビングのソファへ。

リリアは、期待に満ちた瞳で、ソファに座ったみるくを見つめる。

みるくは、すべてを理解し、愛おしさでとろけるような笑顔で、自分の膝をぽんぽん、と叩いた。


「はい、どうぞ。昨日、ご予約いただいた、みるくのお膝、です」

「(ぱああっ)…! 待ってましたわ!」


リリアは、一秒のためらいもなく、そのへと頭を預けた。

第10回で最適化された、あの完璧な体勢。

みるくの指が、リリアの髪を優しく、優しく、梳き始める。


(ああ……)


リリアは、うっとりと目を閉じた。

な幸福感が、全身を満たしていく。

このルーティンこそが、二人の「永続」を証明するだった。


言葉はいらない。

名前もいらない。

ただ、みるくがリリアを撫で、リリアがみるくの膝に甘える。

この「事実」の繰り返しこそが、二人のそのものだった。


みるくの指が、リリアの髪を梳く。その規則正しいリズム。

みるくのに合わせて、膝が、ごくわずかに上下する。

リリアは、自分の呼吸を、そのリズムに同調させていく。

吸って、吐いて。

二人のだけが、夕暮れの静かな部屋に響く。


「(ささやくように)…みるくさん」

「んー?」

「わたくし…もう、みるくさんがいない生活が、思い出せませんわ」

「(優しく笑い)私もだよ。リリアちゃんがいない朝なんて、もう考えられない」

「毎日、こうして、みるくさんに撫でられて、みるくさんの腕の中で眠る…」

リリアは、みるくの膝に、そっと頬を寄せた。

リリア:「この先、明日も、一年後も、十年後も…ずっと。…みるくさんと


それは、リリアの、偽らざる本心だった。

不安ではない。

ただ、純粋な「事実」として、想像ができないのだ。

みるくは、リリアの髪を梳いていた手を止め、その頬を、両手で優しく包み込んだ。

リリアが、見上げる。

みるくは、窓から差し込む夕焼けの(黄金色のスポットライト)を浴びながら、聖母のように、断言した。



「(息を呑む)…みるくさん」

「私も、リリアちゃんと離れる未来なんて、想像したことない。想像する必要も、ないと思う」

みるくは、リリアの額に、自分の額をそっと合わせた。

ゼロ距離。

「私たちが離れる理由なんて、この世界のどこにもないんだから。ね?」


リリアの瞳から、一筋、涙がこぼれた。

それは、悲しみや不安の涙では、断じてない。

が、その許容量を超えて、雫となって溢れ出た、「幸福の涙」だった。

「(震える声で)…はい」

リリアは、自分の手を、みるくの頬に重ねた。

「わたくしも、ですわ。…



二人は、言葉にせずとも、そのを、互いの体温と、瞳と、重なる呼吸で、交わした。

もう、迷いはない。

二人の関係の永続性は、今、この瞬間、物語の上で完全にした。


***


みるくは、リリアの涙を、自分の指で優しく拭うと、

「あーあ、もう。こんなに可愛いお顔、ぐしょぐしょにしちゃって」

と、わざと明るい声を出した。

「泣き止まないと、今日の晩御飯、リリアちゃんの大好きなチーズ入りハンバーグ、あげないかも」

「(ぐすっ)…それは、困りますわ…。食べます」

「あはは、正直でよろしい」


みるくは、リリアを膝から降ろし、その小さな体を、正面からぎゅっと抱きしめた。

「よしよし。泣かないの」

「(むぅ)…みるくさんが、泣かせたんですわ」

「ごめんごめん。でも、私も、今、泣きそうなくらい幸せだよ」


二人は、ソファの上で、しばらく、抱き合ったまま動かなかった。

窓から差し込む夕焼けのが、二人の姿を、黄金色に縁取っている。

それは、まるで、二人の未来が、永遠に幸福であることを祝福する、への、序曲のようだった。

二人のは、もう、どちらがどちらのものか、区別がつかなかった。


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