(8) 第6回「雪だるま」「忘れ物」「地下鉄」

 今回の「三題噺対決」、作品の叙情的な雰囲気が共通する各作品のなか、ChatGPTの「ファンタジー」色の濃い作品のできが秀逸。1作品くらい、もっと「ぶっ飛んだ」内容だと刺激的になるのにと、マンネリを感じつつあった須藤彩香の期待に応えるような今回の作品は、まだこの企画を継続しようという思いを抱かせた。

 そして、ちょっと気になるのはCopolot作品が遠慮がちなこと。もっと字数を使ってくれても構わなわいので、その点は他のAI作品を参考にしてほしいところ。

 また、次回の第7回で、AI提供のお題の2サイクル目が完了するが、3サイクル目のお題の出し方、選び方をどうするか。もう少しひねりを加えたほうがいいのかもしれないと思案している。さて、どうしたものか。


第6回のお題(Copilotの選定):「雪だるま」「忘れ物」「地下鉄」


1.ChatGPT タイトル:『雪の駅で拾ったもの』


 地下鉄の改札を抜けた途端、靴底がきゅっと鳴った。昨夜からの雪が、駅の入口まで薄く吹き込んでいる。こんな日に限って、私はひどい忘れ物をしていた。

 よりにもよって、子どもに渡す約束だった手作りの「雪だるまキーホルダー」。机の上にぽつんと置いたまま、家を飛び出してしまったのだ。


 地上へ続く階段を見上げると、白い冷気がゆらりと揺れている。仕方がない、戻るか……と踵を返した、その瞬間だった。

 通路の端、誰もいないはずの薄暗いベンチに、小さな丸い影がちょこんと座っているのが目に入った。


 ――雪だるま、だった。


 いや、そんなはずはない。こんな暖房の効いた地下鉄の駅に、雪だるまが溶けずに座っているなんて。

 目をこすってもう一度見てみる。やっぱり、丸い頭にマフラーまで巻いて、そいつは静かにこちらを見ている。


「忘れてるよ」


 声がした。聞き間違いじゃなかった。

 雪だるまが、丸い手を伸ばし、私のコートの裾をちょんとつまんだ。


「忘れ物、でしょ」


「……キーホルダーのこと?」


 うなずき、雪だるまは小さな指先をぱっと開いた。そこには、机の上に置いてきたはずの雪だるまキーホルダーが乗っていた。

 ありえない。でも、ありえないことは、ときに雪の朝には起きる。


「届けに来たんだ。ちゃんと渡してあげて」


 言われるままに受け取ると、キーホルダーはほんのり冷たかった。雪だるまは満足げに立ち上がり、くるりと改札のほうへ歩き出した。足跡はつかない。


「ちょ、ちょっと! どこへ――」


 呼び止めた瞬間、駅の構内アナウンスが反響した。


『まもなく一番線に電車が到着します』


 その音に紛れるように、雪だるまの姿はすっと薄れていき、最後にマフラーだけがふわりと宙に揺れ、やがて消えた。


 残された私は、掌のキーホルダーを握りしめたまま、しばらく動けなかった。

 そして気づく。あれは、子どもが「雪の日には雪の妖精がいるんだよ」と言っていた話に、あまりに似すぎていることに。


 地上へ続く階段をもう一度見上げる。白い光の向こうに、今日の自分の行動が決まっている気がした。

 私は踵を返し、家へと戻るために階段を駆け上がった。


 ――忘れ物を届けてくれた誰かに、ちゃんと応えるために。



2.Gemini タイトル:『記憶のコンパートメント・トレース』


 アキは、失われた記憶の断片を追うため、都市の深部、地下の最果てに向かっていた。


 彼女の目的は、十年前に閉鎖された古い地下鉄の終着駅で見つかった、ある忘れ物を解析することだ。それは、彼女が唯一失くしたくないと願った、幼い日の記憶の手がかりだった。


 地下鉄のプラットフォームは冷え切っていた。十年の時が、湿気と錆を堆積させている。忘れ物は、座席の下に挟まっていた古いカメラ。データは完全に破損していたが、カメラの筐体には、アキの指紋に加えて、別の小さな指の跡が残されていた。


【記憶の再構成】

 アキは、カメラの筐体に残された微細な土の粒子を解析した。その粒子は、都市の地表、特に積雪地帯特有の組成を示していた。


 彼女は、この忘れ物が「雪が降った日」に関連していると推論する。


 さらに解析を進めると、カメラのレンズカバーの内側に、わずかに水分が乾燥した跡を発見した。その形状から、それは丸い、人工的な雪の塊に強く接触した痕跡だと判断された。


 つまり、忘れ物は、雪だるまを作った日に、この地下鉄に持ち込まれた。


 アキは、幼少期の記憶アーカイブを呼び出した。地下鉄の最終運行日、雪、そして雪だるま。


 記憶の断片は、一つの情景を再構成した。


 雪の日、アキは弟と二人で大きな雪だるまを作り、それが溶けるのが悲しくて、その姿を写真に収めようとした。しかし、弟がカメラを持ったまま、どこかへ行ってしまったのだ。


 アキは、弟がこの地下鉄に乗って、雪だるまの写真を届けようとしていたのだと理解した。そして、その道中でカメラを忘れ物として残してしまった。


【論理的な帰結】

 なぜ弟は、カメラだけを忘れ、アキのもとに戻ってきたのか。


 アキは、再びカメラの筐体を調べた。カメラのストラップには、古びたICタグが組み込まれていた。


 そのICタグには、弟からのメッセージが残されていた。

「雪だるまは溶けちゃうけど、記憶は溶けないよ」


 これは、弟がカメラを置き去りにすることで、**「忘れ物」という形で、あえてその記憶を地下の静止した空間に「アーカイブ」**しようとした、論理的な意図だった。


 アキは、凍える地下鉄のプラットフォームで、弟の論理と、過去の自分の感情を、完全に復元した。



3.Copolot タイトル:『地下鉄と雪だるまの記憶』


 地下鉄のホームに降りたとき、ポケットの中が空っぽなのに気づいた。

 忘れ物だ。

 切符はある。でも、あの小さな手紙がない。

 駅に戻る時間はない。電車はもうすぐ来る。

 ホームの端に立ちながら、私はガラス越しに外を見た。

 雪が降っている。

 白い粒が、地上の街を静かに覆っていく。

 ふと、朝の光景がよみがえる。

 家の前で、雪だるまを作った。

 丸い体に、古いマフラーを巻いて、ボタンを目にした。

 その横に、あの手紙を置いたのだ。

「帰ったら話そう」

 たった一行だけ。

 電車がホームに滑り込む。

 ドアが開く音が、現実に引き戻す。

 私は乗り込む。

 窓の外に、雪の街が遠ざかる。

 雪だるまは、まだそこに立っているだろうか。

 忘れ物は、雪の中で静かに待っているだろうか。

 地下鉄の暗闇に入ると、窓に映る自分の顔がぼんやり揺れた。

 その向こうに、白い世界が残像のように浮かんでいた。

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