吉沢但の明日はどっちだ ~31日目

吉沢はある町に入った。

入口には「廣瀬中央市」と書かれた標識が立っている。


しかし手にした地図には、その名前はどこにもない。

角を曲がると、見慣れた建物のはずなのに、形や位置が微妙に違っていた。

駅前のコンビニも、通りの家並みも、地図とは一致しない。


人々は普段どおりに歩き、商店は営業している。


「ようこそ!廣瀬中央市へ!」

「伝統と文化のまち 廣瀬中央」

駅には横断幕が貼ってある


吉沢は立ち止まり、黙って町を見つめた。


バスの行き先は「廣瀬中央市役所ゆき」

駅前の和菓子屋では「廣瀬中央まんじゅう」

通りにある病院は「廣瀬中央クリニック」


町と地図のずれを確認しながら、ただ観察するしかなかった。


吉沢はタクシーの運転手に「あの、ここは廣瀬中央・・市ですか?」と聞くと不思議そうに頷いた。


気になったので先ほど見つけた「廣瀬中央市役所ゆき」のバスに飛び乗る。


駅前の大きな通りを抜けるとすぐに市役所前のバス停に着いた。


大きな4~5階建ての役所。もちろん地図には載っていない。

そこにテレビの中継らしき撮影隊がやってくる。


「こんにちは!いま廣瀬中央市の魅力を町の人に聞いていまして・・・」


ふと吉沢は閃いた。これは壮大な夢だ。そして

「あのー、こんな町ありませんよね????だって地図に載っていないですし」

周囲の人は驚く。

地図にはない「廣瀬中央市」、確かに存在しているはずなのに、全員が違和感を隠せずにいる。


突然、サイレンが鳴り響き、警察がやってきた。

「ここで何をしている!」


吉沢は肩をすくめるだけで、何も答えなかった。

理由もわからず、彼は連行される。


カメラは吉沢を映したまま、町の人々は不思議そうに見送った。

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