吉沢但の明日はどっちだ ~3日目

駅前で、ひとりの老人が大声で叫んでいた。

その声は耳障りで、通りかかる人々は顔をしかめ、足早に通り過ぎていった。

うるさい、迷惑だ、何を言っているかわからない――そう思われていた。


だが、よく聞くと、それはこの社会への痛烈な叫びだった。

貧しさ、孤独、政治への不信、そして希望のなさ。


気づいた人々が足を止め始め、

やがて老人のまわりに小さな輪ができた。

誰かが拍手し、誰かが涙をぬぐい、誰かが言った――

「この人の声は、届くべきだ」と。


しかしその声は、頭上の蜂の巣をも震わせていた。

怒った蜂たちが群れをなして老人を襲った。

老人はあっという間に見る影も無くなり消えていった。


その様子に蜂たちは

「お前の声は、そんな程度だったのか。」

と寂しそうにつぶやいた。

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