第5話 入学試験 Ⅳ【一夜VSランクA超能力者"決着"】




「さて、どうしますか? 降参するなら今のうちですよ? あなたとて死にたくはないでしょう?」


男は膝をつく俺を見下ろしながら勝ち誇った様子で言う。  


「お断りに決まってんだろ!」


「それは残念ですね。ですが、あなたにこの状況を打破する術があるとは思えませんがね。超能力があると言ってもたかがランクG、たかが知れてます」


「お前、勘違いしてるな」


俺のその言葉に男は「どういうことです?」と不愉快そうに聞き返す。


その問いに俺は小馬鹿にするように言った。


「なんで俺が超能力を使うって思い込んでるんだよ」


「………は?」


男はほんとに訳が分からないといった感じでそのような素っ頓狂な言葉を漏らす。

だが、次の瞬間、俺を心の底から嘲笑するように大きな声で笑いだす。 


「はははははっ! 何を言い出すかと思えば! それでは何です? あなたは超能力など使わなくても勝てると?」


男は見下すように「ははははっ」と笑う。だが、男のその問いに俺は得意気に口角をあげながら言った。


「ちょっと違うがな。だが…、その通りだ!」


そう力強く言って、次の瞬間、俺は固めた拳をとてつもないスピードで男に放つ。


当然それを避けられない男は、俺のパンチを腹部にモロに喰らって吹っ飛ぶ。


「ゴハッ?!」


しばらくして男はヨロヨロと立ち上がるが、俺の攻撃によって受けたとてつもないダメージに耐えきれず、血を吐きだして膝をつく。


「な…なんですか…。あなた、何をしたのですか?!」


「何って、ただ殴っただけだけど…」


「嘘だ! 僕の状態異常は確実に効いてたはず! なのにあんな威力の攻撃を出せるはずがない!」


「そうは言ってもな…。ほんとに殴っただけなんだけど…」


俺は頭を掻きながら困ったように呟く。


ただ、状態異常が効いてるのは本当だった。現に俺の身体は未だにうまく動かすことができない。


俺はその自前のとてつもない身体能力でそれを容易く凌駕しただけの事だった。


…だが、この空気を吸い続けていれば、いくら俺でも身体は完全に思うように動かなくなってしまう。


ゆえに、すぐに仕留める必要があるわけだ。


「ちいっ!! くそがぁ!」


怒りで口調が崩れ始めた男は手のひらを前に突き出して炎の玉を放ってきた。


(ちゃんとそういうおまけみたいな超能力もあるのね)


流石Aランクというべきか、炎の玉は無数に繰り出されてくる。だが、その身体能力で俺は高速で移動しながらそれらをすべて躱し、男との距離を瞬時に詰める。


俺は拳を強く固める。


「これで終わりだ」


俺は男の腹部にもう一度パンチを叩き込む。男はそれを防御するまもなくもろに食らい、腹部を抑えながら地面に倒れ込む。


倒れ込むと同時に、周りの空気が元にもとに戻る感覚があった。おそらくこいつの力で空気を変えていたが、俺のパンチを食らい、それを維持できなくなったのだろう。


気絶する程度の力で攻撃を放ったのだが、男はまだ微かに意識を持っていた。大したものである。 


俺は逆に倒れ悶絶する男を見下ろす。


この試験はどちらかが気絶するまで続くようなので、まだ続いている。


「くそ…、まさかこの僕がたかがランクGごときに負けるなんて……」


男は苦しそうにしながら言葉をつく。


「いったい…どんな超能力を使ったのですか…」


男は最後の力を振り絞ってまたおなじ質問を繰り出してきた。俺はその問いにため息をつく。


(はぁ…、全く何度言わせれば気が済むのだろう。超能力なんてつかってないっての)


「だかさぁ、超能力なんて使ってないって…」


「嘘だ!」


「だから本当だって…。俺の超能力は戦闘向きじゃねぇしな。それに超能力なんて、俺だって使うのごめんだし…」


だが、男はまだ信じていない様子だった。その様子を見て、俺は肩をすくめながら言う。


「しょうがないから俺の超能力を見せてやるよ。これくらいしないとお前、信用しなさそうだし」


そう言って俺は周りを見渡す。そして適当に見つけた知らない女子と目を合わせて、俺は超能力を発動する。


その瞬間、俺と目を合わせた女子は突然戦場に出てきて俺の元へ駆け寄っては目をハートにしながら俺の腕へ抱きついてきた。


倒れる男、そして周りの受験者はそれを唖然と眺める。


「これが俺の超能力、"人を惚れさせる"超能力だ」



◇◇◇



闘いに勝ち、試験を終えた俺は一斗と静香がいる元へと戻る。


当然だが戻る途中、めちゃくちゃ見られた。


信じられないような目、訝しむような目、そして、僅かだが、俺をバケモノとして見る目。


様々なモノを向けられで、俺は居心地が悪く感じながらあいつらの元へ戻る。


あいつらは一体どんな目を俺に向けてくれるのだろう。この異常すぎる身体能力を見てバケモノと罵った後、切り捨てるのだろうな…。


奥の方で二人の姿が見えてきた。遠くからじゃ、どんな表情をしているのかよく分からない。


「よ、よぉ…、今戻ったよ……」


俺は手を上げながら硬い笑顔で声をかける。だが、2人からの返事はなかった。


(やっぱ、そうだよな…。あんなの見たら…)


俺のこの身体能力の異常さは自分でも自覚している。超能力者は、文字通り能力という魔法のような技を使うが、肉体は普通の人間。


だから、周りからみたら、俺は異端者なのだ。


俺は顔を俯ける。せっかく分かり合える奴が出来たってのに、俺自身が軽蔑する超能力ではなく、自分自身の力が軽蔑される。


俺は悔しさと悲しさで拳を強く固める。

だが、俺が諦めていた次の瞬間――、


「見直したぞ一夜。お前、あんな力隠してたのかよ!」


「え?」


一斗は俺の背中を「バシンっ!」と叩いて笑いながら言った。俺は突然の予想してなかった言葉に呆ける。


「一夜さん、まさかランクAの能力者をあんな一瞬で倒しちゃうなんて…、すごいです!」


気の弱い静香も珍しくハッキリと喋る。俺は訳が分からず、二人に思わず聞き返す。


「二人とも、俺を軽蔑しないのか?」


俺が神妙な面持ちで聞くと、一斗と静香は一度目を合わせたあと、一斗がアホらしそうに言う。


「バカかお前は。なんで試験に勝ってきたやつを軽蔑する必要があるんだよ」


「でも、俺のこの身体能力は……」


「あぁ、確かに異常だな。だが、だからなんだ。そんなことでお前という人間を勝手に決めつけて軽蔑なんてしねぇよ」


俺はその言葉に目を見開く。隣の静香もうんうんと何回も頷く。


あぁ、一斗の言う通り、俺はバカだ。また勝手に物事の上辺だけで俺はこいつらの人間性を決めつけていた。


だが、違った。こいつらは決してそんなことで人を軽蔑したり、ましてや嫌うこともない。


俺はいつの間にか目尻に溜まっていた涙をゴシゴシと拭う。


「二人とも、ありがとうな」


そして俺は心から嬉しそうな表情で笑いながら二人に礼を言うのだった。








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