第3話 入学試験 Ⅱ



「ところで一夜、お前なんでこの学園に来たんだ?」


俺と一斗が雑談をしながら一斗の妹さんを待っていると、唐突に一斗が聞いてきた。


別に隠すことでもないので、俺は正直に答える。


俺が母さんのためにこの学園を卒業して、母さんに恩返しをすること。


それを黙って聞いていた一斗は目尻に涙を浮かべながら俺の手を掴んできた。


「一夜……、お前……そのためにこんな学園まできて……」


「おいおいなんで泣くんだよ。別に泣くことじゃないだろ。それよりお前は何のためにこの学園に来たんだ?」


俺の問いに一斗は俺の手を話してすこし真面目な表情で話始める。


「実はを言うとな……。俺もお前と似たような理由なんだ……」


「俺と…?」


「あぁ、俺の親もそこまで評価が高くなくてな…。貧しい生活のなかで俺と妹を育ててくれたんだ。だから俺達は恩返しをしたくてこの学園に来たのさ」


「そう…か」


俺はそれを聞いて、なぜか他人事と思えず、なんなら一斗にものすごい親近感を湧いた。


気づけば俺は拳を突き出していた。一斗はそれを不思議そうに見る。そんな一斗に俺は力強く言った。


「それなら絶対卒業しないとな! まずは入学! 次に試験だ! 共にやろうぜ!」 


俺は一斗の目を真っ直ぐみながら言った。

一斗はその言葉を聞いて目を見開いて驚いていたが、その後にはゆっくりと口角を上げて、拳を俺の拳にコチンっとぶつける。


「へっ! 上等だ!」


まだ出会って間もない俺達だが、すでに屈強な信頼と友情が出来上がっていたような気がした。


「お兄ちゃん!」


すると突然、遠方から高い声が聞こえてきた。

俺達が声のするほうを見ると、遠くから一人の少女がこちらに走ってきていた。


「おぉ静香! やっと来たか!」


一斗が静香と呼ぶその少女は俺達の前まで来て息を切らす。


サラサラとなびく綺麗な髪。瞳はエメラルドグリーンのような美しい色。スタイルも抜群で美少女だった。


「お兄ちゃん…やっと見つけた…」


少女は途切れ途切れに息で喋る。俺は一斗を見て問う。


「一斗、もしかしてこの子が……」


「あぁ! 俺の妹! 朝倉 静香しずかだ!」


一斗が妹を自慢げに紹介する。呼吸も戻ってきた静香さんは顔をあげて俺のほうを見る。


「妹の静香といいます…。その…よろしくお願いします……」


静香さんはおずおずと言った様子で自己紹介をする。聞いていた通り、確かに気の弱そうな子だ。


「浜田 一夜です。よろしく静香さん」


俺も自己紹介を終えると、静香さんは緊張したような様子で言った。


「えっと、その…敬語は大丈夫ですから…。静香で構いません…」


「分かった。それじゃあよろしく静香」


「は…はい…!」


やはり静香も兄同様、固いのは苦手なようだ。やはり兄妹なのだろう。


「よっしゃ! それじゃあ静香も揃ったし! 模擬戦場に行くか!」


そう元気よく言って一足先に歩きだす。一斗。

静香は俺の方をチラッとみながら一斗の後ろを付いていく。


(う〜ん。まだ打ち解けてはくれてないようだ)


朝倉兄妹の後ろを俺も足早に付いていくのだった。



◇◇◇



「そう言えば静香、お前ランクはいくつだったんだ?」


一斗が歩きながら静香に問う。静香はか細い声で呟く。


「……A……」


「Aだと?! すごいじゃないか! 流石俺の妹!」


一斗がまるで自分のことのように喜ぶ。静香は照れくさそうに頬をかいていた。兄に褒められて嬉しいようだ。


「な!! 一夜もそう思うよな!」


一斗が俺の方を見て興奮した様子で聞いてくる。俺も嘘偽りなく本心を口に出す。


「あぁ、ほんとにすごいと思う。Aってことはかなり優秀ってことだろ?」


「そうだ! 静香はすごい! 自慢の妹だ!」


「お兄ちゃん……、もうやめて……」


褒められすぎた静香は恥ずかしそうに顔を隠す。俺達はそれを見て「アハハハ」と笑う。


「そう言えばさ、一夜。お前のランクまだ聞いてなかったよな。ランクはなんなんだ?」


「え?」


唐突にそんな質問をされてしまい、俺はすこし戸惑ってしまった。


本当の事を言うかしばし考えたが、最終的にほんとの事を正直に言う事にした。


「俺は…Gだ」


「えぇ? G! まじかお前! それじゃ試験は……」


案の定一斗が目を見開いて驚愕する。だけどすぐ俺の肩をポンポンと叩いてニシッと笑いながら励ます。


「だが大丈夫だ。模擬戦で結果を出せばチャンスはある。元気をだせ」


俺はその言葉を聞いて驚く。もっとバカにされたり嘲笑されるかと思っていたが、あろうことか一斗は笑顔で俺を励ましてくれた。


俺は思わず聞き返してしまう。


「てっきりバカにされると思っていた…。なんで励ましてくれたんだ?」


「はぁ? バカかお前。友達をそんなことでバカにするわけねぇだろ」


俺は目を見開いて驚く。一斗は不敵な笑みを浮かべながら力強く言った。


「言ったろ? 必ず卒業するってよ!」


俺はその一斗のニシッと笑う眩しく笑う顔を見て呟く。


(あぁ、俺はなんてバカなのだろう。こいつの性格をまだ完全には把握してないとは言え、こいつが人をバカにする性格じゃないことくらい分かっていたじゃないか…。)


俺は一度深呼吸をしてから真っ直ぐ一斗を見て力強く言った。


「ああ、必ず!」


俺達は互いに笑い合う。一斗とはつい数分前に出会ったばかりなはずなのに、もう昔からの親友のように思えた。

一方、静香は脇でその光景を不思議そうに眺めていた。


そうして俺達は、模擬戦場にまでやってきた。

ここで、俺達の運命が決まる…。


そう考えると多少は緊張をしてしまう。

静香も同じなのか、すこし肩が震えていた。


周りを見ると、他の受験者達もたくさん来ていた。

ここで、すべての試験が終わるのだろう。


全員が見てる中での模擬戦。負けた方はとんでもない思いをすることになるだろうな……。


「ところでこれ、どんなふうにして模擬戦するんだ?」


「さぁな。だが、受験番号で呼ばれて呼ばれた人が前に出て戦う方針らしいぞ?」


「なるほどな」


一斗の言葉に俺頷く。確かに見てみると2人分の受験番号が同時に呼ばれ、その人たちが模擬戦をしている。


「緊張してきました……」


他の受験者達の模擬戦を見て自信を無くしたのか、静香が震える声で言う。


俺と一斗はそんな静香を笑顔で励ます。


「大丈夫だよ静香。君はAランク。強いのは間違いないんだ。自信持っていこうよ!」


「一夜の言うとおりだぜ! お前は俺の自慢の妹、思いっきりやってこい! 負けても誰も怒らねぇよ!」


「お兄ちゃん…一夜さん…、ありがとう」


俺達の励ましが響いたのか、静香は顔をあげて微かに微笑んだ。


「受験番号263番と27番は前に出てきてください」


そして、タイミングよく静香の受験番号が呼ばれる。静香はおどおどしながらも前に出ようとするが、一人ではいけない様子だ。


そんな様子の静香に一斗は声を掛ける。


「大丈夫だ! 俺達が後ろにいる! 頑張れ!」


静香は一斗の顔を一度見て、決心したように前へと歩きだす。その背中は、まさに戦士だった。


「そういえば静香の相手って誰なんだ?」


一斗が腕を組みながら俺の方を見て聞いてくる。

俺はうろ覚えの記憶を頼りに答える。


「えぇーっとたしか、Cランクの超能力者だった気がするぞ。名前は分からないようだけど」


「Cか。それなら安心だな。相手には悪いけど、それならAランクの静香が負けることはないよな」


「あぁ、余裕勝ちだろ」


そうして始まる静香の模擬試験。

俺達はそれを見守る。


静香はおどおどしながらも超能力を発動させ、相手を手玉に取る。

気は弱い性格だが、しっかりとした戦略をもって行動する策士のようだ。


静香はその戦闘における知能と超能力で圧勝する。


俺と一斗はその瞬間、大きな声で自分のことのように喜ぶ。

俺達の突然の歓喜の声に周りの受験者が俺達に注目するが、俺達はそんなことには微塵も気づかず、バンザイをする。


「これで、静香は合格なんだよな?!」


「あぁ! お前の妹の勝ちだ!」


俺達はハイタッチを交わすのだった。














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る