第6話 窮屈な披露宴
結婚披露宴当日のレオンとジュリスは皇帝の宮殿へと足を踏み入れた。控え室へと通された2名は他貴族が腰掛けて優雅に談笑している中、席も用意されず部屋の隅で、ただ黙ってその時を待っていた。
しばらくすると、男性使用人がやって来て、公爵から順に会場へ赴くようにと指示された。従者の2名は、もちろん最後である。
初めは主催への挨拶からのようだ。
「ジュリス様ごきげんうるわしゅう」
フレイルはその純白のドレスの裾を広げ軽くお辞儀をする。彼女の容姿は、ふわりとさせたピンク色ショートヘアーと金色の瞳と高い鼻筋真っ赤な唇と、レオンから見ても美人と思えるほどの女性だった。
「改めてウィード家への披露宴へのお誘い誠にありがとうございます。ボクからもお礼をさせていただきます」
「わたくしは、ウィード家を呼んだつもりはございませんわ。ジュリス様、あなただけをお誘いしたのよ。だから今日はあなたも家のことは忘れて楽しんで頂戴」
その言葉に憤慨しそうになった2名だかなんとか堪える。
「それでは失礼致します」
2名は主催者の元を去り会場の隅の方へ向かう。
「俺のことは無視かよ。第一皇子に至っては目すら合わせてくれなかったし」
「貴族社会で従者はいないものとして扱われる。招待されただけでもありがたいと思いなさい」
「それにしたってウィード家の扱い酷すぎるだろう。なんだよあの言い方!」
ジュリスはしばらく黙り込んだあと、息苦しそうに言葉を紡ぐ。
「仕方ないさ。爵位は男性にしか与えられない。男性のいなくなったウィード家は貴族ではなくなったんだから」
ジュリスは遠い目をしながら踊り楽しむ貴族の面々を眺めていた。そしてその固く握られた拳は微かに震えていた。まるでどこにもぶつけようのない怒りを堪えるかのように。
「やはり浮かない顔をしているね。ジュリス様と君の名前は、なんだい? 僕は第二皇子のウィリアムだ」
「レオンです」
「獅子のように気高い名前だね。ウィード家では見ない顔だが新人かな?」
柔和な雰囲気のウィリアム皇子は、茶色の短髪に金色の瞳を持つ端正な顔立ちの青年だった。そんな彼が従者である2名に突然、頭を下げた。
「婚約破棄はもとより結婚式の時と言い、ウィード家には恩義があるにもかかわらず数々のご無礼を謝罪させていただく」
そんな状況にもジュリスは冷静に対処する、
「頭をお上げください。ウィリアム様。貴殿には何の非もございません」
「しかし! ウィード家には、アンリ様へ拭いようの無い屈辱を与えてしまった……」
「皇子ともあろうものが頭を下げ続けるなど、みっともないですよ」
「ジュリス様……本当に申し訳ございません」
そこまで言ってウィリアムはようやく頭を上げた。ジュリスはまるで聖母のような笑顔でウィリアムを迎えた。
「ヘンリー兄さんも、まさか婚約破棄をするなんて皇族の誇りに泥を塗るようなことを」
呆れた顔で会場にいるヘンリーを見る彼の視線には第一皇子ヘンリーの姿が映る。
彼は少し長い茶髪と金色の瞳そして威厳あるコワモテの顔をした長身の男性だ。
そこへ先ほどのフレイルが駆け寄ってきた。
「お話中失礼しますわ。ジュリス様わたくしと一曲踊ってくださいませんか?」
「ヘンリー様との踊りは、済ませたのですか?」
「えぇ一応、あれはだだの社交辞令のようなもの。ですが皇族の掌で踊るつもりはございませんわ」
「それは聞き捨てならないな。フレイル様」
そう言ったのは皇族のウィリアムだった。彼はフレイルを睨みつける。
「貴族は皆、好機さえあれば自分の地位を上げようと躍起になるものですわ。ウィード家のように自滅するようなことはしませんけれど」
「言葉が過ぎるぞフレイル!」
「まぁ、第二とはいえ、皇太子妃にそんな口の聞き方が許されるとお思いですか? これ以上ウィード家の肩を持つと、あなたの立場も危うくなりますわよ」
ウィリアムは、フレイルの言葉に苦い薬を飲み込んだかのような顔をする。
「あの噂は、どうやら本当らしいですわね。さぁさぁジュリス様わたくしのお手を取ってくださいまし」
「一曲だけですよ」
そう言ってジュリスはフレイルの手を取り舞踏の中へと入っていった、
第二皇子のウィリアムと二人きりになったレオンは思わず愚痴をこぼす。
「あんなこと言っておいてよく踊りに誘えるな。あっすみません」
「構わないさ。それより僕の記憶が正しければ、君は先日、騎士に叙勲されたパーティーの一員だったはずだが……?」
「自分のことまで、覚えていてくださっていたとは光栄です。実はパーティーから奴隷として売り払われてしまって……」
その言葉にウィリアム憂いの帯びた顔になりレオンを見つめる。
「そんな顔しないでください。すぐにウィード家の長女アンリ様に買い取られましたから彼女曰く一目惚れだそうです」
レオンが言うとウィリアムは挑戦的な笑顔を彼に向けた。
「何だ僕の恋敵じゃないか。だが彼女の心はやはり美しい。君のような清廉潔白で気高い者を見抜く力がある」
「と言いますと?」
レオンは極めて冷静に質問を返す。
「先程フレイルが言っていただろう。『噂は本当らしい』とその噂というのが、僕がアンリに恋慕している。そういう俗な噂さ」
「貴族もやはり人間なんですね。それでその噂の真相はどうなんですか?」
「それを君に言うのか。まぁ恋愛くらいは平等に行こう。僕はアンリ様のことが好きだ」
その真剣な眼差しにレオンは、皇子たる威厳の前にウィリアムという1人の男性としての誇りを見出した。
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