第8話 良いんじゃ無いか?

 義也は霧斗と飲みに来ていた。


 世間は少し騒いでいるのだが、そんなに問題は起こっていない。

 酔っ払って騒ぐ人間が減ったくらいだ。


「あれは、お前が作ったのか?」

「いいや、まだ思うような結果は出ず、マウスはすべて死んだから。一応サンプルは冷凍しているけどなぁ」

「そうか……」

 そう答えながら、ちびりと日本酒を飲んで、突き出しのたこわさを囓る。


「それで、お前。多少は食えるようになったのか?」

 そう聞かれて、俺は心の中で愚痴る。

 いま、たこわさを食ったのを見ただろう。

 こいつは、人のことをあまり見ない。


「うん、まあね」

 一時期、心配をしていたように、完全に拒食症状となっていた義也。


 よく見れば、一時期より顔色が良い。


「よく見りゃ、大分元気そうにもなっているな」

「そうだろ」


 そう、まずは会社に掛かっていた電話。あれが止まった。

 会社としては、業務妨害で提訴をしようとしていた矢先、家で静かに? 亡くなっていたようだ。


 発見時に、スマホの履歴がおかしな事になっているから、警察から連絡が来た様だ。様だというのは、俺自身はよく知らないから。


 その事は、後輩の新木あらき 凪海なぎが教えてくれた。

 彼女は俺とは違い、営業でメキメキと頭角を現していった女の子。

 一応、営業で俺が指導をした。みんながしたがらなかったから、俺にお鉢が回ってきた。新人の教育というのは、面倒だし色々な時間が倍以上か掛かるもの。

 それは仕事に影響をして、サビ残の原因になる。


 普通っぽい化粧美人の希実とは違い、ナチュラルにかわいい系の女の子だ。

 体も、メリハリがあるタイプでも無くて、好みは分かれるタイプ。

 だけど、人に垣根を作らないタイプなので、係の中でも目立っていたし、男には人気もあった。女の子からは、人気取りがどうこうとかか、媚びを売っているとか色々と言われていた。だけど、人当たりの良さは、営業では強い。

 そう、彼女はすぐに総勝ちを達成。


 そして、そんなことになった彼女と、仲が良さそうな俺達を見て、どうやら俺は、飛ばされたようだ。そう例の閉職へ……

 奥さんも子どもも居る、係長のやっかみ。


「先輩、ひどいですね」

 いきなり家に来てこれだ。

「そうかなぁ?」

「完全に死んでます。もしかして腐っていません? ゾンビとか?」

「そうか?」

 彼女は報告のために家に来て、俺の顔を見てわちゃわちゃしていた。


 そう、彼女。家にやって来て早々、最初に俺の顔を見て、いきなり叫びそうになった。

 俺の顔を見た後、買い物に行って戻って来て、ドアを開けて中に入れてくれないと痴漢だといって叫ぶと脅迫をした。どういうシチュエーションだよ。そう思ったのだが、叫ぶ女の子は無敵という格言を思い出して中に入れる。

 まあそんな格言があるのかは知らないのだが、逆らわない。

 俺は基本的に、気が小さいのだ。


「いや、人が作ったものが、気持ち悪くて食えなくて……」

 そう言うと睨まれた。


「どうしてですか?」

「実は……」

 そう言う流れで説明。


「ひっどーい。それは気持ち悪いですよね。大丈夫です。私バージンです。綺麗ですよ」

 なぜか、ものすごいニコニコ顔で、そんな宣言をされた。


 でまあ、そんなことを言うなら、母親はどうなんだとか言いくるめられ、彼女の体を張った献身により、心因的なものだったのかなんとか食えるようになった。


 そう先に、俺が食われた。

「好きだから、気持ち悪くないですし平気です」

 なんてことを言いながら、一生懸命してくれた。


 その姿を見て、なんと言うか情けなくなって……

 彼女の手料理を食べると涙が出た。

 気持ちが悪いのではなくて、情けなくて……


 そう言えば食っているときに、あいつの…… 行為中の映像がフラッシュバックをして、気味悪くなったんだよなぁ。

 多分それがトラウマだったのか? だけど、なぜか、今は起こらないな。


「あー実は、彼女さんですかね。会社にも来たんですよ」

「そうなんだ」

 彼女が作ったおじやを、なぜかふーふーして、あーんと食わせて貰いながら話しを聞いている。


 寝ているわけではなく、まあベッドにもたれかかって、お行儀の悪い体勢だけど。


「義也はどこに居るのぉ、別れるなら慰謝料を請求するわって……」

 まあ総務の方が出てきて、話しを聞いて……

 有責の方が払うものだと聞いて、随分騒いでいましたね。


「その話しが漏れ聞こえて、会社の中で珍事だという事で彼女さんが一気に有名になったんですけれど、幾人かはそれ本当という感じで騒いでいましたね」

 そう俺に彼女がいたという驚きではなく、有責なら、女が慰謝料を払う立場となる事を知らなかったようだ。


「意外と知らないのかね」

「そうみたいですね。はい。お代わりはどうですか? それと気分はどうですか?」

「うん。大丈夫そうだな」

「でしょ。愛増し増しですから」

 そう言った後、彼女は真っ赤になってた。


「本気なの?」

「ええ。指導されていたとき、彼女がいるって聞いて、十年くらい泣きましたもの」

「それは大変だね。それならまだ、八年くらい泣かないといけなくないか?」

 そう言うとじっと見つめられる。


「泣かせる気ですか?」

「いや、そんな気は無いけれど……」

「じゃあ付き合ってくれるんですね」

 



「―― とまあ、そんな感じで彼女が出来てね」

「なんだ、その安っぽいコメディ」

 霧斗に突っ込まれる。


「コメディ言うなよ」

「ああ悪い。なんでお前ばかりモテるかな」

「お前は、手を出しちゃあ捨てるからだろ」

 そう言って、俺はじっとり見つめる。


「いや体の相性は重要だろ。こればかりは試さないと分からないし」

 こいつの方こそ、高校のときからモテていたんだよ。

 ただ、相手を見ないし、自分の思いだけで突っ走るから、基本的にすぐ振られる。

 こいつの宿命だな。


「まあ、雨降って地固まるだな」

「そうかなぁ。ダメージはきつかったけどな」

「まあなる様になって良かったんじゃないか?」

「そうかな」

「多分ね」


 その頃……

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