EP 7
森の闇を、必死の形相で一体の猫耳族が駆けていた。
「た、助けておくんなましぃ〜!」
ゴルド商会ルナハン支店長、ニャングル。彼が誇る金の算盤(そろばん)も、今は泥まみれだ。
「ギャギャ! カネ! ダセ!」
背後からは、松明(たいまつ)を持った数匹のゴブリンが、卑(いや)しい笑い声を上げながら迫る。
「何を言うとんのか!? ゴブリンが金なんぞ必要ないやろ!? あっち行け!」
ニャングルは、半泣きになりながら足元の石を拾い、必死に投げつけて抵抗する。
その時、彼らの上空を、大型の影が音もなく通過した。
「竜丸」の背中に乗ったセンチネル(リアン)が、眼下の光景を捉える。
(ゴブリンか……。相手は1メートル超え。こっちは30センチの人形。体格差が違いすぎる。まともにやれば、こっちが粉砕されるな)
だが、そのゴブリンに追われているのは、明らかに街の住人――猫耳族だ。
(……だが、助けないわけには、行かない)
センチネル(リアン)の指令が飛ぶ。
(弓丸、騎士丸、プランB(トラップ)でいく!)
竜丸が森の木々の上でホバリングする。
弓丸は、枝の一本に鉤爪(かぎつめ)ロープを打ち込むと、音もなく木の上へと移動した。
騎士丸は、弓丸が吊るしたロープを伝い、するすると地上へと降りていく。
「あぁ……ワイの命も、コレまで何やなぁ……」
ついに石も尽き、地面に尻餅(しりもち)をついたニャングルは、絶望に顔を歪めた。
「もっと……もっと金貨の匂いを、嗅(か)いでみたかった……」
(金貨の匂い? よく分からんが、助ける価値はありそうだ)
木の上からセンチネルが冷徹に呟く。
(弓丸、散布!)
弓丸は、ゴブリンたちの進路と予測される茂みの中に、バックパックから大量の「撒菱(まきびし)」をばら撒いた。
それと同時に、地上に降りた騎士丸が動いた!
「ギャ!?」
ニャングルに襲いかかろうとしたゴブリンの最後尾に、青い閃光(せんこう)が走る。
騎士丸が、その片手剣でゴブリンの足元(アキレス腱)を鮮やかに斬り裂いたのだ。
「ギャギャ!? イタイ!?」
「ナカマ! ヤラレタ!」
ゴブリン達の怒りが、目の前の小さな人形へと一斉に向く。
「コロセ!」
ゴブリン達は、ニャングルを放置し、身をひるがえして騎士丸の後を追った!
(よし、食いついた!)
騎士丸は、わざとゴブリン達を挑発するように盾を構えると、一直線に「あの茂み」――弓丸が撒菱をばら撒いた方――へと走った。
そして、茂みの手前で、騎士丸は高くジャンプし、撒菱のフィールドを鮮やかに回避した。
「ギャ!? ギャアアアアア!?」
何も知らずに突っ込んできたゴブリン達が、次々と自作の撒菱に足裏を貫かれる!
(よし! 竜丸!)
センチネルが、夜空に待機していた竜丸を呼ぶ。
竜丸は急降下し、弓丸と騎士丸を背中のキャリアに素早く回収すると、まだ尻餅をついているニャングルの背後に着地した。
そして、その大きな機体(ドラゴン型)で、ニャングルの背中をグイグイと押し始めた。
「え? え? な、なんですのん!?」
ニャングルは、背後から押してくる巨大な「人形」に、パニックを起こす。
(何をやってんだよ! 今の内に逃げんだよ、この猫耳!)
センチネル(リアン)は、人形の身で叫びたくなるのを必死にこらえた。
「ひ、ひぇ〜! 分かりました! 逃げまんがな!」
ニャングルは、ようやく状況を理解し(あるいは恐怖し)、街の明かりに向かって再び走り出した。
街の門の近く
「はぁ……はぁ……。に、人形……?」
ニャングルは、息を切らしながら、自分をここまで誘導・護衛してくれた4体の不思議な人形を見上げた。
(よし、ミッションコンプリートだ。じゃあな、猫のおっさん)
センチネル(リアン)は、竜丸の機首を夜の闇に向け、その場を去ろうとした。
「あ! 人形様! 待っておくんなまし!」
ニャングルが慌てて呼び止める。
「お礼は! 命のお礼はさせてもらいますわ!」
ニャングルは、懐(ふところ)から(ゴブリンが狙っていた)革袋を取り出すと、それを竜丸の足元に恭(うやうや)しく置いた。
チャリン、と重い金属音が響く。
(……ん?)
センチネル(リアン)が、その袋を(騎士丸を使って)開かせてみる。
中には、月明かりを浴びて鈍く輝く――金貨が、ぎっしりと詰まっていた。
(ま、まじかよ!?)
リアン(1歳)の魂が、人生最大の衝撃を受けていた。
(金貨が……10枚!? いや、もっとある!? い、良いのかよ、こんなに!?)
「ありがとうございました! 人形様! このご恩は、ゴルド商会のニャングル、一生忘れしまへん!」
ニャングルは、その場で土下座せんばかりに頭を下げた。
センチネルは、一瞬の硬直の後、騎士丸にその金貨袋を掴ませると、竜丸は再び夜の闇へと飛び立った。
リアンは、いまだかつてない「報酬(コーヒーキャンディ数千個分)」を手に、興奮で魔力制御が乱れそうになるのを、必死にこらえていた。
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