第八章 「市民のヒーロー」と立ちはだかる光の壁
議会という大舞台に立った純一郎の視線の先には、
さらに巨額の「秘密の金づる」が確かに存在した。
彼は議員としての立場を利用し、公共事業の利権、
国や県からの補助金、そして土地開発情報といった、
議会の内部に潜む金銭の流れへと目を向けた。
「市の予算、数億円の土木工事、どこに金が流れ、
誰がどう潤うのか、、、」
手始めに純一郎は市議会で「市民の税金を無駄にしない」
という大義名分のもと、市の土地開発プロジェクトの
予算削減、仕様変更などを強硬に主張。
結果として入札の条件が複雑化し、有力な大手企業が
手を引く状況を作り出す。
最終的に、地元の中小企業共同体を作りその中に
源田のダミー会社を入り込ませ、最も低いコストで
(かつ、品質もギリギリで)落札。
純一郎は議会では「市民の利益を守った」と称賛される。
また国や県からの補助金についても取得条件などを
事前情報として知り合いの土建業者や人材派遣業者に
流し謝礼を貰うなど、エスカレートしていった。
純一郎の「市民の味方、ヒーロー化作戦」は
地域密着も徹底していた。
とある日の夕刻、純一郎が喪服を羽おりながら
「ちょっと○○さんのおばあさんの通夜に行ってくる」
尚子はいぶかしげに(ふに落ちない顔で)
「○○さん? 知り合いだったの?」
「いや、でもこう言うお付合いが新しいつながりになる」
「この間も△△さんの通夜で孫娘が
隣町の市議の息子の婚約者という事が分かり
お隣の市議会とつながりが出来た。」
尚子はあきれ顔で 「つながり悪縁でしょう!」
純一郎は身体半分ドア越しに
「うるさい!行ってくる、遅くなるからな」
香典金5千円という名の情報料は確実に成果を上げる。
祭りの差配、縁談、地域のもめ事などかつて
義父である福三が取り仕切っていた情報が
純一郎の元に集まりだした。
政敵や有力議員のスキャンダル、裏取引の情報を掴み、
それを脅しや圧力の材料として使うことで、
純一郎は議会内での権力を掌握していった。
「清廉潔白」な若手議員の仮面の下で、
純一郎は秘密と公金を武器に、市の闇を
支配する黒幕への道を邁進していた。
彼は、この市の裏表をすべて知り尽くし支配する、
誰も止められない存在へと変貌しようとしていた。
(後に古参の議員が語るその頃の議会はまるで
いつ闇討ちに合うか分からない暗闇の道であったと!)
それから数年が経ち、順調に権力の掌握と
公金の私物化は進んでいた。
中堅議員となった純一郎を「議会のボス」
と呼ぶ者も現れた頃、、、。
最終目標である次期市長選立候補も見えてきたとき、
そこに立ちふさがったのがライバル議員澤田だった。
ある重要な委員会採決の日。
それは、純一郎が強行しようとしている
大型開発計画の是非を決める最終採決だった。
純一郎は、議案が通ることを確信していた。
しかし、投票の瞬間、糸村の投票ボタンが
「反対」を示した。
場内に動揺が走る。純一郎の顔から血の気が引く。
「糸村...お前!」
怒りよりも驚愕が勝る。
純一郎の絶対的な支配に、初めてヒビが入った瞬間だった。
「採決は否決!」
土橋派は動揺し、純一郎の権力基盤が揺らぎ始める。
純一郎の忠実な手足であった糸村は、かつての事業での脱税
疑惑を純一郎に握られ、日々の議会活動で良心に反する行動
を強いられていた。
特に、純一郎が進める市の大型開発計画は、
彼と源田の利権に直結しており、糸村は
このままでは市民を裏切ることになると
深く苦悩していた。
しかし、純一郎の怒りの追及と脅しに対し、
糸村は逃げることを選ばなかった。
その日の夜、彼は脱税疑惑を釈明する、緊急記者会見を開く。
会見場には、源田が送り込んだ野次馬や、土橋派の議員たちも詰めかけ、
糸村を潰そうと圧力をかける。
糸村が
「脱税疑惑は事実であり、すでに税務当局に届出て
修正申告を終わった案件である」
と震える声で切り出した瞬間、質疑応答が嵐のようになる。
鳴り止まないヤジや怒号の中、会見の進行が進まなくなったとき、
会場の隅で、一人の男が静かに立ち上がり、進行のマイクを取る。
壇上に立ったのは「反土橋」の急先鋒、澤田議員であった。
「お静かに!」という彼の凜とした言葉に一瞬怒号が止んだ、
「糸村議員は、不正な税務処理を認めた!」
「彼は良心を取り戻し、不正に立ち向かう勇気を示した。」
「我々は、その勇気を守り、不正を根絶しなければならない」
元市長の息子であり、市民から絶大な支持を得る澤田が
糸村の横に立つことで、会見の空気は一変する。
テレビで会見の様子を見ていた土橋は、
握りしめたリモコンを叩きつける。
「またアイツだ!澤田め!なぜいつも邪魔をする!」
純一郎は、自分の権力掌握術に絶対の自信を持っていた。
スキャンダルという「影」の武器は、
議会を動かす最強のツールだったはずだ。
しかし、澤田が持つのは、市民の信頼と
それを裏打ちする「透明で強固な人脈」。
土橋が築いた恐怖による支配は、
澤田の持つ「正義と人望」という
光の力には脆くも敗れたのだ。
脅迫には、恐怖で支配できる範囲という限界がある。
だが、澤田の人脈には、信頼という底知れない力がある。
「オレは、ヤツの人脈には敵わないのか?」
澤田 謙信(さわだ けんしん)
地元名門家に生まれ父は元市長、澤田交通、澤田建設、澤田病院など都市生活の根幹に影響力を持つグループ会社出身のプリンスで、純一郎とは正反対の「光の階段」を歩んで来た本物の「清廉潔白」である。
純一郎は早速、ゲン(源田)の組織や総会屋(裏の探偵)まで使い、
澤田議長の過去、女性関係、家族関係、後援会の資金の流れ、
すべてを徹底的に洗わせ、スキャンダルを探す。
数週間、数ヶ月にわたる調査の結果、違法な領収書一枚、
女性関係のほころび一つ見つからない!
ゲン(源田)は呻くように冷静に分析する。
「学生時代までさかのぼって調べてもつけ込めそうな、
スキャンダル要素がない。こんな人間、存在するのか?」
【AI注釈】闇の階段を上ってきた者には到底理解できない存在。
彼の父が市長時代に裏の人間を使ったり特定の企業に便宜をはかった
ことを恥じ、息子にはそうならないよう、いわば「清廉潔白サイボーグ」
として育てた結果であった
ゲンの口から出た最後の望みは、純一郎をさらに苛立たせた。
「唯一あるとすれば澤田本人ではなく、
父親の市長時代の不正だが、この件にはウチのオヤジ
(上部組織)が関わっている。これは手を出すな」
純一郎は声を荒げる。
「やっとあと一歩まで来たのに、オレは上(市長)へは行けないのか!?」
諦めきれない純一郎は、スキャンダルがなければ「デマを作る!」
「ハメる?」ことは出来ないかと詰めるが、
ゲンは強い言葉で制止する。
「組織のシマ(縄張り)や掟(ルール)を乱すことは
御法度と教えたはずだ」
「これ以上ちょっかいを出すとウチのオヤジが介入する!」
「そうなったらウチの一家など吹っ飛ぶんだぞ」
「(今回は)あきらめろ、ジュン!
時代が変われば、まだチャンスはある」
と源田に強く制止され
言葉も出なくなリ黙る、
純一郎「、、、、、」
ところが、純一郎に立ちふさがったのは、
裏社会の掟だけではなかった。
時代の流れという「天罰」が下ったのは、
政敵澤田ではなく、純一郎の方だった。
彼の「秘密の王国」は、一体何によって崩壊するのか?
そして、その結末は?
【AI解説】
本編に精錬潔白の使徒と表現される人物が登場するが、
実際の政治運営(政務)とは無関係ということはありません。
むしろ、極めて深く関係しています。市長という公職において、
以下の点で実際の政務に直接影響します。
1.信頼性の確保(リーダーシップの基盤)
2.公平な行政運営
3.法令遵守とリスク管理
したがって、「清廉潔白」という市長の倫理的・道徳的な資質は、
透明性、公平性、信頼性といった政治運営に不可欠な要素を
直接支えるものであり、単なるイメージではなく、政務を成功
させるための重要な基盤となります。
不正の噂や疑惑がある市長の場合、その対応に多くの時間と
エネルギーが割かれ、肝心な政務がおろそかになりがちです。
△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲
物書きにおいては常に「清廉潔白」でありたいと思っております
ご意見待っております。
★ 評価お願いします。
次章予告/ 第九章 借金地獄と盟友の刃(悪魔的な取引)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます