第四話 嵐の邂逅


森の奥で轟音が響いていた。

雷鳴と共に、空から落ちてきた光の欠片。

それを巡って、数騎の竜骸が鋼鉄の咆哮を上げて争っている。

神の嵐――遺物を求めて、同業の傭兵たちが殺到していた。

ヴァシュはゲイルを止め、闇の中からその光景を見つめる。

いつもの彼なら、ここで大人しく引き下がっただろう。

だが次の瞬間――

稲光に照らされた空に、浮遊する「人影」が見えた。

考えるより先に、ゲイルは駆け出していた。

巨体が木々を蹴り、枝を踏みしめ、まるで忍者のように森を飛び渡る。

鋼の脚が幹を蹴るたび、木々が悲鳴を上げる。

上空で回転する人影へ、黒き竜骸は跳躍した。

轟音と共に宙を舞い、ヴァシュはその腕で少女を抱きとめる。

軽い。まだ息がある――。

次の瞬間、重力が二人を引きずり落とす。

ゲイルは大木の枝を蹴り、幹に爪を突き立てる。

まるでサーフィンのように樹皮を滑り降り、敵のど真ん中へと突っ込んでいった。

「なっ――!」

竜骸を操る同業者たちが驚愕の声を上げる。

刃と槍が一斉に振り下ろされる。

だがゲイルは怯まない。

命を小脇に抱えたまま、ゲイルは無言で刃を振るった。

背後からの突き上げを、振り向かずに受け止める。

頭上からの斬撃を、僅かな身のこなしでかわす。

横合いからの突進を、最小限の足運びでいなす。

常人には不可能な同時反応。

だがヴァシュにとっては当然の動きだった。

3騎の竜骸の猛攻を交わすとゲイルは3騎に目もくれず一目散に森の奥に消えた。背後からは

罵声と怒号が飛ぶ。

だがヴァシュは答えない。

返すのは刃の煌めきのみ。

雷鳴が轟き、森全体が震える。

神の嵐のただ中、ゲイルは少女を抱え、嵐を駆け抜けた。


次回予告

揺れる炎が胸の傷跡を 思い出させる 雨が頬をつたい  

傷跡をなぞる どちらも涙の記憶


次回 異世界傭兵物語シュルケン


「雨の中の炎」


この心に刻まれた炎は 涙で癒される事はない。

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