第四話 嵐の邂逅
森の奥で轟音が響いていた。
雷鳴と共に、空から落ちてきた光の欠片。
それを巡って、数騎の竜骸が鋼鉄の咆哮を上げて争っている。
神の嵐――遺物を求めて、同業の傭兵たちが殺到していた。
ヴァシュはゲイルを止め、闇の中からその光景を見つめる。
いつもの彼なら、ここで大人しく引き下がっただろう。
だが次の瞬間――
稲光に照らされた空に、浮遊する「人影」が見えた。
◇
考えるより先に、ゲイルは駆け出していた。
巨体が木々を蹴り、枝を踏みしめ、まるで忍者のように森を飛び渡る。
鋼の脚が幹を蹴るたび、木々が悲鳴を上げる。
上空で回転する人影へ、黒き竜骸は跳躍した。
轟音と共に宙を舞い、ヴァシュはその腕で少女を抱きとめる。
軽い。まだ息がある――。
◇
次の瞬間、重力が二人を引きずり落とす。
ゲイルは大木の枝を蹴り、幹に爪を突き立てる。
まるでサーフィンのように樹皮を滑り降り、敵のど真ん中へと突っ込んでいった。
「なっ――!」
竜骸を操る同業者たちが驚愕の声を上げる。
◇
刃と槍が一斉に振り下ろされる。
だがゲイルは怯まない。
命を小脇に抱えたまま、ゲイルは無言で刃を振るった。
背後からの突き上げを、振り向かずに受け止める。
頭上からの斬撃を、僅かな身のこなしでかわす。
横合いからの突進を、最小限の足運びでいなす。
常人には不可能な同時反応。
だがヴァシュにとっては当然の動きだった。
◇
3騎の竜骸の猛攻を交わすとゲイルは3騎に目もくれず一目散に森の奥に消えた。背後からは
罵声と怒号が飛ぶ。
だがヴァシュは答えない。
返すのは刃の煌めきのみ。
◇
雷鳴が轟き、森全体が震える。
神の嵐のただ中、ゲイルは少女を抱え、嵐を駆け抜けた。
次回予告
揺れる炎が胸の傷跡を 思い出させる 雨が頬をつたい
傷跡をなぞる どちらも涙の記憶
次回 異世界傭兵物語シュルケン
「雨の中の炎」
この心に刻まれた炎は 涙で癒される事はない。
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