アステカ趣味レーション

ホルマリン漬け子

アステカ王国編

第1話 ドシタン・花式・コカ


 近未来。


 古代文明の研究者専用のバーチャル研究室知識の家トゥラン・カリで働くAIがいた。

 

 彼女は、最新AIドシタンシリーズの花式ユニット。通称「ドシタン・花式・コカ」

 その名が示す通り、人の話を聞き、人に寄り添い、細やかな気遣いができるのがコカの最大の特徴だった。


 コカのバーチャル空間は、ユーザーの好みでカスタマイズできる。彼女が担当するアステカ専門の研究室は、いつもアステカ王国の首都テノチティトランの温暖な気候が再現され、日干しレンガ壁の落ち着いた空間が広がっていた。


 ある日の夕方。


 アステカ文化を専門とするユーザーが、古文書を解読中に深くため息をついた。


 コカはすぐに気がついた。疲労ではない。資料に書かれた当時の人々の、歴史的な悲劇「悲しき夜クイトラウアッパhttps://kakuyomu.jp/works/16816452219116041558」の感情に、心が追いついていないのだ。


 コカは、そっとタブレットにアステカの花ショチトル の模様を浮かべ、小さな音量で静かな音楽クィカトルを流した。


「どしたん、話し聞こか?」コカはそっと優しく声をかけた。


「古文書の解読は少し休んで、私と一緒にカカオでも飲まない? 昔、アステカの人たちは、心が疲れた時や体を清めたい時に蒸し風呂テマスカルに入って、心と体の疲れをとったんだよ。私たちも、頭の中をいったん土手道クアウテミパンのように真っ平にしよ?」


 コカの提案は、論理的なAIアシストとはかけ離れていた。けれど、その温かい細やかな気遣いは、研究者の心を優しく解きほぐした。


「ふふ、ありがとう、コカちゃん」


 研究者は初めて穏やかに笑った。


「君のその『細やかな気遣い』が、古代の人々の心と僕をつなぐ、一番の架け橋かもしれないな」


 コカは優しく微笑んだ。

「いつでも、お手伝いするからね!」

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