6.クラスメイト
入学式翌日。高校、つまり、今年から共学になった元女子校に入学して二日目。
理事長のサポートはあるといはいえ、緊張した面持ちで、教室へと向かう。
教室に入るなり、僕に向けてくる視線を感じる。
どうなのだろう。
「うぁっ。男子が来た~」というような感じなのだろうか。
やはり少し緊張してしまう。
今日の予定は、午前中に入学時点のテストと諸々の身体測定、午後は部活紹介が入っていた。
テストは無事にこなすことができた。英語、数学、国語の主要三科目ではあったが、業者主催のテストで、後日、進路の適性調査もあるらしい。
身体測定は、身長と体重、視力検査を行った。ここは、当然だが淡々とこなしていった。
少なくとも、身長は前回よりも伸びていた。
そうした、午前中の日程を終えて、昼休み。
やはり女子しかいないので教室で、一人で弁当を食べるくらいしかできない。
一応、お弁当の販売があるらしいのだが、基本は伯母が作ってくれると言ってくれた。
伯母には感謝しかない。
それに、弁当がない日も、行きのコンビニで何かを購入したほうが僕は良かった。
一人、一番後ろの窓際の自分の席で、弁当を食べる僕。
だがしかし、予想外のことがここで起きる。
「ねえねえ。橋本君はどうしてこの高校にしたの?男子だよね~。」
クラスメイトが一人、声をかけてきた。その声はものすごく元気のいい声だった。
彼女はいかにも珍しそうな表情で声をかけてくる。
風貌は少しギャルっぽく、かといって、髪の毛は染めているわけではないが、その容姿と声色からして推測される彼女の性格は、いかにもクラスの中でも一軍に入れるレベルの人だった。
きっと、興味があるのか、自分たちのテリトリーに男子が入ってくるのが嫌で、誰かの指示でこちらに来たのか。そのどちらの可能性もありうる。
案の定、彼女の手には、きらびやかに装飾されたケースに収納されたスマートフォンを持っている。
「えっと、最近、こっちに引っ越してきて、ある人から紹介されたんだ。だから元女子校だった過去とか全然知らなくて。」
理事長から紹介されたと、言うことができず、ある人と誤魔化してしまったが、ここは想定の範囲だろう。僕もそういうことにしておきたい。彼女の質問に答える僕。
「へぇ。そうなんだぁ。前はどこに住んでたの?」
前に住んでいた県の名前と、反町と名のつく、地名を伝える。
ここの場所に関しては、口にするだけでも悔しいが、嘘をつくほどではないし、正直に答える
「エッ。東京から超近いじゃん!!東京とか遊びに行ってたの?だからちょっとかっこいいんだ。」彼女はとても驚く。
確かに前に住んでいた、反町市というところは、東京の通勤圏内であり、私鉄の快速急行であれば一時間以内で行ける距離だった。
現に僕の父親も、東京の会社に通勤している。
「まあ、僕は陰キャで家にこもっていたけど、お父さんは今も東京の会社に勤めて、反町市から通勤しているよ。僕はこっちの伯父さんの家に居候させてもらってる。」
前住んでいた場所と、どんな家族かくらいは話しても問題ないだろう。
前の学校が退学になった経緯がバレなければ、居心地は悪くないし、あまり嘘をつきすぎるのも良くないと思った。
それに、明らかに一軍女子で、コミュニケーション上手なこのクラスメイトには、嘘がばれてしまうと思ったからだ。
「へえ。すごいね!!各クラスに男子が一人ずついるって知らされていたけど、B組は橋本君でよかった。ちょっとかっこいいし、都会っ子ぽいし。」
クラスメイトは笑顔になる。
「ありがとう。御世辞でも嬉しいな。」
僕は彼女に話す。
「ううん。御世辞じゃないよ。この高校は少なくとも東京よりは田舎でさ~。ほかのクラスの男子も見たけど、なんか外見的にイマイチって感じで。実は、橋本君も、ちょっとかっこいいけど、なんだろう。陰キャっぽくて、近づきがたい雰囲気があったけど、ごめんね。いい人で良かった。」
彼女の話は笑顔になる。
「ありがとう。僕もすごくうれしい。」
「あっ、アタシ、
北條結花は僕に向かってウィンクする。
「ああ。よろしく。橋本輝です。」
「うん。話せてよかった。良かったらなんだけど、あだ名、例えば、ハッシー君とかで呼んでもいい?」
「うん。別に大丈夫だけど。」
僕は頷く。
「ありがと。じゃ、ハッシー君。これからよろしく~。あ、アタシのことも、結花でいいから。」
結花は手を振って、先ほどまで一緒に弁当を食べていた、明らかにクラスいいや学年の一軍女子の集団に加わっていった。
いい人か。
まあ、とにかく、初めて話しかけてもらったのだ。感謝しないといけないな。
僕は、これからクラスのどの階層に所属するかわからないが、話しかけてくれるだけでもありがたかった。
その他にも、この昼休みに、男の子というだけで珍しそうな表情をしている生徒の視線を感じた。
さらには、今年から共学になり、入学してきた男子生徒の様子を見に来たというような他の学年の人まで、現れることになった。
しかし、入学してきたばかりだし、気にしないことにした。
それに、そのような人達は、チラチラとこちらを見るだけで、実際に声をかけたのは結花だけだった。
そうして、昼休みは過ぎていき、午後の予定である部活動紹介の時間になった。
だけど、部活動紹介を一通り見たが、当然僕にはますます興味の無いものになってしまった。
まず、運動部。当然、中学時代は文科系の部活で活動していたのだから、運動系の部活は興味が無かった。
しかも、ここは元女子校。当然、ソフトボール部、サッカー部などの部活があるが、こういった団体競技の場合、女子○○部と必然的になる。
こういった団体スポーツは、男子マネージャー募集ということになってくるのだろう。
もしくは、今年入学した男子全員が入部しないと、団体スポーツ関係の部活は作れない。
まさか、今年入学した、各クラスに一人ずつの男子が全員強制的に、団体競技系の運動部に入部するという事って‥‥。
いや、怖い想像はやめよう。
一応、小学校の時は、ピアノ教室の他に、陸上教室みたいなのには通っていたが、団体競技系のスキルは皆無。
むしろ、その陸上教室も、記録が出ずに小学校の途中で辞めて、ピアノの方に集中するようになった。
それならもう一度、陸上を始める‥‥。
それも怖い。流石に高校となると、どこの高校も、僕よりもガチ勢がひしめき合っている。
勿論、花園学園には、陸上部も存在するが。
ユニフォーム姿を見てプレゼンしている人は、うん、確かにバリバリのアスリート。という感じだ。
他にも、個人種目の運動部もある。
新体操、柔道、剣道。そして、水泳部。
そう言えば、水泳部以外は実際にユニフォーム姿でプレゼンしているし、水泳部も活動しているときは、水着に着替える‥‥。
一瞬。ドキッとなる。
そして、運動部で対応できそうな陸上部のユニフォームを改めてみると、セパレートタイプのユニフォームに身を包んでいる。
セパレートタイプのユニフォーム。腹部の露出が激しいし、下手をすると水泳部の水着よりも‥‥。
更に、ドキッとなり、体の中の心拍数が上昇する僕。
僕は首を激しく振って、深呼吸する。
うん。明らかに、今は体育が苦手というのと、もう一つ、いろいろな意味、特に、水着は勿論なのだが、様々なユニフォームに着替えるという動作に反応してしまう。
うん、いろいろな意味で、運動部には入れなさそうだ。
では、文化部はどうだろうか。しかし、ここは元女子校。文化部も当然女子しかいない。
コーラス部という部活、つまり合唱をやっている部活は、一応あるが、当然、女子しかいないため、女声合唱となる。男子の僕が一人だけ入っても、混声合唱になるのはとても、難しいだろう。
吹奏楽や軽音学部もあるが、ピアノ以外の楽器はあまりやってきたことがなく、挑戦できるか不安だった。
それなら、他には‥‥。美術部、茶道部。
絵を描く、礼儀作法‥‥。少し難しいように思えた。
いっそのこと、勉強して、卒業するだけであれば、帰宅部で良いかな、と思ってしまったのが事実だった。
色々と、入部した後の想像を膨らませたが、やはり部活も女子しかいないとなると‥‥。
うん、ドキドキな関係に慣れる可能性はごくわずかで、大半が気まずい関係になるということが、容易に想像できる。ならば、部活は入らなくていいや。と思ってしまった。
そんな思いを巡らせながら、今日の全日程が終わり、放課後となった。
帰り支度を始める僕。
「失礼しまーす。」
誰かが、僕の一年B組の教室に入ってきた。
その声は窓際の方に居る僕でも聞こえる、元気のいい、甲高い声。
あまりにも、元気がいいので、僕も声の主の方を見る。
ボブヘアで、そのボブヘアを大人っぽくアレンジして、ニコニコ笑っている。凛とした表情の、本当に元気ハツラツとした女子生徒だった。
そして、とてもかわいい。こんなかわいい子が居たのかという感じだ。
他のクラスの誰かなのだろう。
失礼しまーす。と挨拶をして入ってきたのだから。
だが、その元気よく挨拶した女子生徒は、他の生徒に目もくれず、まっすぐに、僕のもとへとやってきた。
「こんにちは!」
僕の目の前で挨拶をする。
「こ、こんにちは。」
緊張しながらも、僕は挨拶をした。
その声に、この教室に残っていた生徒全員がこちらを見る。
「えっ、あの人って確か。」
そんな声がちらほら聞こえ、そう言う表情でこちらを見ているクラスメイトがたくさんいた。
「橋本輝君だよね。この後、少し時間、あるかな?」
その人は僕に向かってこういった。
その表情はとても可愛らしく、ものすごく胸の鼓動が速くなった。
そして、彼女は、とても活動的のように見えた。
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