晴、落ちて雨
@SaotomeNatsuki
第1話-春嵐、僕らの街
私には、男性との友達関係というものがほとんどない。
小さい頃からずっとそうだった。彼を除いては。
新幹線の座席は線路に沿って微かに揺れ、窓の外の空は厚い雲に覆われ、鉛色の質感を帯びている。三月の京都はまだ雨季の最中だろう、そう思った。指先で無意識にスマートフォンの縁を撫でながら、イヤホンでは歌詞のないピアノ曲をリピート再生している。
次第に瞼が重くなり、窓の外の景色は視界の中で灰緑色の色の塊にぼやけていった。
そして、私は子供の頃を夢に見た。
夏の日差しは溶けた黄金のように、田舎の丘に降り注いでいた。野百合が山野に咲き乱れ、ピンクと白の花弁が熱波の中でそよそよと揺れていた。十二歳のハルが花畑の中に立っている。黒いショートカットが風で少し乱れていた。
「約束したよ」と彼は言った。
彼の声は一般的な男子よりも澄んでいて、山間を流れる清流のようだった。なぜそんなに女の子みたいな声なのかとこっそり聞いたことがあると、彼はただ顔を背け、耳の先を少し赤らめた。「……生まれつきなんだ」
陽差しがまぶしすぎた。彼は逆光に立っており、学生服の袖口には泥と草の切れ端がついていた。私は彼の表情を見ようとしたが、光が彼の顔の輪郭を金色に溶け込ませていた。彼は太陽で少ししなびた百合の花を一本、私に差し出し、指先が何気なく私の手のひらに触れた。
*データ削除*
場面は突然、湯気が立つホームに変わる。ハルの声は汽笛の音に混ざり、黒髪は熱い風で額に張り付き、遠ざかる車輪の音とともに、記憶の中の最後の残響となった。
これって……走馬灯なのか?
列車が突然激しく揺れ、私ははっと目を覚ました。
窓の外はもう雨が降っていた。密集した雨滴が斜めにガラスを打ち、無数の細かな銀の針のようだ。イヤホンの中の音楽はいつしか止み、かすかな電流ノイズだけが残っている。窓を手で拭うと、水の跡越しに遠くかすかな山影と通り過ぎる電柱が見えた。
------もう六年になる。
喉が少し詰まった。鞄の横ポケットを探ると、祖父母が出発前に押し込んでくれた古い栞に指先が触れた。両親は京都で小さな商売を営んでおり、学校に近いアパートを事前に借りてくれていた。
次の停車駅は京都駅(きょうとえき)です。お忘れ物のないようにご注意ください。Next station is Kyoto Station. Please mind your belongings and prepare to disembark.
着いた。
メッセージの着信音は雑音の多い駅構内ではほとんど聞こえなかった。ようやく母からの連絡を待ち、急いでスーツケースを引きながら端によった。雨が傘の骨伝いにスマートフォンの画面に滴り落ちる。母のメッセージは簡潔明瞭だった:「鍵は駅前広場の椿屋コーヒーにあります。茶色のエプロンをした女将さんを探して。彼女が大家さんです」
仮想キーボードの上で親指が数秒止まった。駅内アナウンスが到着案内を流し、人の波が潮のように傍らを通り過ぎていく。結局、「わかった」とだけ返信し、さらに一言付け加えた:「荷物は少ないから{width="2.1408147419072616in" height="1.0331441382327209in"}、迎えに来なくていいよ」。普段の私は人と話すときはいつも気さくな方なのだが、今の状況では短く返信せざるを得なかった。
改札を出ると、雨の勢いはさらに強まっていた。
透明なビニール傘を広げると、冷たい雨滴がすぐにスニーカーに暗い斑点を跳ねさせた。駅前広場は少し寂しいほど広々としており、制服を着た数人の学生がコンビニの軒先で雨宿りしているだけだった。タクシーがすぐに前に止まり、運転手は黙って私の荷物をトランクに入れてくれた。
車窓の外の街は雨に濡れ、水でにじんだ水墨画のようだった。灰褐色の建物、きらめくネオンサイン、時折通り過ぎる自転車や人影のすべてが、ぼんやりとした水煙に包まれている。ラジオでは天気予報が流れており、アナウンサーは平坦な口調で「今週は低温多雨が続く見込みです」と伝えていた。
タクシーは駅前広場の臨時駐車区域にゆっくりと停まった。雨粒がパチパチと車の屋根を打つ。メーターを見て、運転手に言った。「五分ほど待っていただけませんか? 鍵を受け取ってすぐ戻ります」。重いドアを押し開け、湿った冷たい風が吹き込む。
「椿屋コーヒー」の木製看板は雨の中、ひときわ温かみを帯びて見えた。ドアを押すと風鈴が澄んだ音を立てた。店内には挽きたてのコーヒー豆の豊かな香りが漂い、会社員風の数人が隅でノートパソコンを叩いていた。
「鍵を受け取りに来た、ハルさんですよね?」 茶色のエプロンをした女将さんがカウンターから身を乗り出し、目尻に細かい皺を寄せて、「お母さんが、熱いお茶と鍵を一緒に渡すようにって、特に言い付かってましたよ」
私は少し驚いた。「母をご存知なんですか?」
「知ってるだけじゃありませんよ」彼女は笑いながら、書店のロゴが入った紙袋を取り出した。「ご両親の書店は、私のもう一つのコーヒー店の隣なんです。言うなれば、この店は純粋に私の趣味でね、京都のような場所で…」声をひそめて、幾分得意げに続けた。「二階を塾に転貸するだけで、家賃収入がもう十分に儲かってるんですよ」
鍵を受け取るとき、彼女の薬指には古風な金の指輪がはめられていて、暖かい光の下で落ち着いた光沢を放っているのに気づいた。紙袋の中には鍵の他に、抹茶クッキーの箱とWiFiのパスワードが書かれたメモが入っていた。
「そうそう」彼女は出ていこうとする私を突然呼び止めた。「あなたのお部屋の暖房のスイッチは…」
ドアの外のタクシーのクラクションが彼女の言葉を遮った。私は急いで礼を言い、紙袋を抱えて雨の中に駆け戻った。運転手はじれったそうに指でハンドルを叩いていたが、私が戻ってきたのでようやく表情を和らげた。
鍵が錠に差し込まれるとき、鈍い軋む音がした。
ドアを押し開けると、かび臭さと畳の草の香りが混ざった空気が顔を襲った。アパートは狭く、六畳の部屋で、机は窓に向かって置かれていた。窓の外には葉を落としたもみじの木があり、細い枝が雨の中そよそよと震え、何かを静かに語りかけているようだった。
私は背中でドアを閉め、ようやく京都の喧騒と子供の頃の記憶を両方とも外に閉め出した。
しゃがんでスーツケースを開けた。
制服、ノート、牛乳のパック数本、おばあちゃんが無理やり詰めてくれた弁当箱…中にはとっくに冷めてしまったコロッケが一つ残っていた…。一番下には、隅が捲れた『銀河鉄道の夜』が押し込まれていた。
写真の裏側には鉛筆で日付と、消しゴムでほとんど消えかけた幾つかの文字が書かれていた。
雨音は次第に激しさを増していった。
スマートフォンを開き、音楽プレイヤーのリストは空っぽだった。WiFiにまだ繋いでいないからだ。少し躊躇して、それでも再生ボタンを押した。ピアノの前奏が流れ出した瞬間、私はぼんやりとまた夢の中の、あの夏のホームを見たような気がした。
雷鳴が轟然と響き、私の思考を遮った。雨が窓を打つ音はますます激しくなり、無数の小さな指がガラスを叩き、撫でているようだった。
ええ…新しい生活が始まるのね。
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