異世界フードバーサス

@kandoukei

序幕:路地裏の食問答

 炎天下の明るさとは打って変わった暗い路地裏にて、

「ひぃっ、助けて下さい!」

「おら、飛んでみろよ! 出せよ、金!」

「ひひっ、太ってんのは金で暴食してるだけだろう! こんなデブより、俺たちが金を使うべきだろうが!」

 丸眼鏡を掛けた小太りの高校生が不良二人にカツアゲされそうになる。

「いや、某、彼女の手料理が美味しくて、ついつい太ってしまい、今から彼女と一緒にとあるを見に行こうとデートに誘わぶはぁ!?」

「リア充のデブは存在しちゃあいけないんだあぁぁぁぁ!!」

「カツアゲは辞めだ! こいつを殺すぞ! 俺たちさえもモテないのに、このデブはあぁぁぁぁ!!」

「モテないのは自身のせいなのでは!? てかっ、駄目ですぞぉ! 死んでしまいますぞぉ! 誰か助けて下されえぇぇぇぇ!!」

「待った、待った、ちょっと待ったぁ!」

 あわや、不良達の嫉妬で小太りの青年が殴られ殺されそうになった時、路地裏の出入り口から陽の逆光に照らされ、現れたのは"食道楽"という達筆の墨字で書かれた赤く太い鉢巻を頭に巻いた黒髪黒瞳の男児にして、学ランを纏う好青年が現れた。

「誰だ、てめぇ!?」

「おいらか? おいらの名は食道しょくみち龍喰りゅーく。しがない風来坊さ。」

「おいおい、てめぇ、やんのか? こいつを助ける為に俺たちと喧嘩するのか?」

「ああ、そうだ。だがな、素手ではやり合わねえ。やるなら、口と胃袋で競うんだ。」

「はっ?」

「えっ?」

 目が点になる程、呆然とする彼らに龍喰が親指で指した方向を見せると、そこには木造のレストランが立てられていた。

「あそこのトルコライス大盛りを30分で喰えるかを競うんだ。あっ、ちなみにトルコライスっつーのは豚カツ、パスタ、ピラフが入った長崎発祥の大人風お子様ランチだ。ちなみにトルコの語源は…」

「りゅー君、やっと見つけたよ! もう、ウォーミングアップだとかなんとか言って、すぐ言っちゃうんだもん!」

 龍喰がトルコライスについて熱弁していると、路地裏の向こうから毛先が癖っ毛で曲がった茶髪と翠の瞳と豊満な胸を持つ女子高生が現れた。

「あれ、お友達? なら、自己紹介しないと、私はりゅー君の幼馴染の杏野きょうの飯良めしよよ。名前を弄らないでね、怒るから…」

「リア充は死ねえぇぇぇぇ!!」

「ぶへぇ!? 何だどうした!? 分かった、そんなにトルコライスの語源が知りたいがはぁっ!?」

「五月蝿え! トルコだが、トリコだが、どうでもいいんだよ! 変人の癖に彼女持ってんじゃねえぇぇぇぇ!!」

「大変で御座る! 龍喰殿が非リア充の不良の餌食に何とか助けを呼ばないと! 幼馴染の方とお見受けします、助けに行く準備は?」

「えぇ、嫌だよ。私、か弱いのに。」

「非情!? 余りにも非情!? 某の彼女はヤンデレ過ぎて、この前、カツアゲされた時、その不良達をスタンガンで動けなくし、釘バットで滅多打ちにしたのに!」

「その彼女、物騒じゃん!? でも、大丈夫、駅で腕っぷしの強いを連れてきたから。」

 彼女の言った通り、不良の一人が龍喰を蹴ろうとすると、彼の頬が殴られた。

 もう一人の不良が辺りを見回すと、龍喰の近くにいつの間に現れたのは、金髪と金瞳を持つ腹筋が太っているが、ガタイの良いアメリカ人が星条旗スター&ストライプのスカジャンを羽織り、ダメージジーンズを履き、赤いキャップを被っていた。

「おい、メリケン野郎、お前も俺たちに喧嘩を…ふぎゃあ!?」

「知るかよ、糞日本人ジャップ失せなgo home。」

「ひっ、ひぃぃぃ!?」

 もう一人の不良を更に殴り飛ばした上に、彼らを睨み付け、恐怖に震え上がらせ、退散させた。

 その間に飯良は倒れた龍喰を支え、彼を立たせた。

「大丈夫、りゅー君?」

「あはは、サンキューな、飯良、ジョニー。」

「全く、喧嘩には弱い癖に突っかかるとはな。俺との決着を果たす前には野垂れ死ぬなんて許せねぇからな。」

 ジョニーと呼ばれたアメリカ人の彼は龍喰に軽くデコピンをし、呆れていた。

「ああ、すまねぇな、相棒。ところで、トルコライスの語源なんだけどな…」

「パスタ発祥のイタリアと炒飯ピラフ発祥の中国の間のトルコか、三色旗トリコロールのもじりだったか、日本人は何でもかんでも意味不明な料理を作りやがってな…それと、相棒じゃねぇ、宿敵ライバルだ。さっさと腹ごなしに行くぞ。」

「そうだな、の前に胃袋を大きくするぞ!」

「男って、何でこうも喰い意地を張るのかしら…」

 龍喰と飯良、ジョニーは先程のレストランに迎い、路地裏から出た。


 小太りの青年はこれからどうしようかと悩んだが、さっきの不良二人が顔を腫れ上がらせたまま、黒髪のツインテールと赤い瞳を持つ、黒いセーラー服の少女に引き摺られ、彼の前に現れた。

太志ふとしくん、大丈夫? 盗聴器で太志くんの悲鳴を聞いて、頭が真っ白になって、発信機を追いかけたら、さっきの不良達が見つけたから、トドメを刺したよ。褒めて褒めて!」

「まったく、某の彼女は怖可愛いで御座る!」




 


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